プロローグ1-C
美波が来たので、バーガー屋に向かう。バーガー屋は学校からは道路を挟んで反対側の右手奥側にある。歩いてせいぜい一、二分ぐらいで、すぐに到着した。外観には変わった特徴はない。内装はアメリカ風のダイナーのような感じだ。
「わああ、アメリカンな感じだね、と、とりあえずどこに座ろうか」
空いていた窓側の席に座ることにする。俺とくるめが手前側の席に、くるめの丁度反対側に美波が座った。
すると女性のウェイターが「いらっしゃいませ」と挨拶して、アメリカ風のメニューをテーブルに置いていった。「先にみていいぞ」と促して「ありがと」と美波はメニューを広げた。俺は、何回か来たことがあるので、メニューはある程度把握している。
「ねね、何が一番いいのかな」と、メニューを回転させて見せてくる。
「激辛スパイシーチーズバーガー」値段は380円で、セットで680円。
「…アボカドとクリームソースサーモンバーガー」こっちは単体で540円、セットで840円と高めだ。カロリーも高い。くるめちゃんはよく食べて、よく運動して、よく寝てと規則正しい生活を送っているが縦にも横にも成長しなかった。
「参考にならない…それを忘れてた。なんで聞いたんだろう」しまったという顔をする美波。
「普通にさ、おすすめでいいと思うよ」
「しょうがないから、そうします」このお店のおすすめは、藤宮サンドで、中身はベーコンとレタス、トマトのいたって普通の四角いサンドイッチ。おいしいけど、もう少しインパクトが足りない。
「お願いします!」
美波がウェイターを呼んだ。
「ご注文は何にいたしますか?」
美波はおすすめを指さす。
「私はこれの、セットで。ポテトと、飲み物はホットティーを」
「レモンとミルクはどちらになさいますか?」
「ミルクにします」
続いてくるめだ。
「…カルボナーラ…セットに…コーラで」
最後に俺。
「激辛スパイシーチーズバーガーのセットをお願いします。アイスティーとナゲット」
ウェイターにそれぞれ注文を告げた。
「莉音、学校にこなかったわね。何か知ってる?」
「たぶん寝坊だと。下におりてこなかったから、詳しくはわからない」
美波は何かを決意した目をしている。
たぶん莉音はこいつに怒られるだろう。
「…これは…嫌な…かんじが、する」
「そうだな。くるめは、買い出し頼むな。おじさんが、車出してくれるから」
「…アクアの頼みなら…しかた、ない」
それからしばらくしてハンバーガトレーに載せられて運ばれた。
「それじゃあ、お先に食べるわ」
「私も、先に。いただきます…んっ! 何、使ってるのこのソース。とってもおいしい」
得意げな顔で俺は答える。
「それは店長が独自に考えた、オリジナルらしい。マヨネーズも自家製だ。ほら、レジの近くにおかれてるだろっ! しかも、わざわざ農場から毎日取り寄せていて――」
「――そこまでは、全然興味湧かない」
冷たい目で見てくる。すごい迫力があって怖い。
そこで、くるめの注文したカルボナーラが運ばれてくる。バターロールもバケットに入っていた。
くるくると器用にパスタをフォークで巻いて口に運んでいる。
「…とっても…濃厚で…すばらしい、味」
くるめは、パスタソースを全くといっていいほど、はねさせずに食べている。反対に美波は、皿だけではなく、テーブルまでも汚していた。
(それより、冷めないうちに食べたほうがいいな)
俺は、食事に集中することにする。ナイフとフォークを手にとると、一段目のバンズを挟み込んで手前へと置く。二段目も、同じようにする。それから、ナイフでそれぞれ四等分にしてから、フォークで突き刺して食べる。
パンはおまけといわんばかりにハンバーグが主張しているが、これに、ほどよい辛さのソースとチーズがうまい具合に合わさっている。
(本当に旨いけど、これでこの値段。よく、これで商売できてるな)
俺が、関心していると、一切れパンが消えている。くるめの仕業だ。代わりに、バターロールを頂く。
「あっ…とられた」
「勝手に取ったのは、そっちだろ。だから、おあいこだ」
すると、美波も手を伸ばして一切れ食べた。
「あれ?そんなに辛くない。普通においしいね」
「おい、聞いてから食べろよ! 勝手に食うな!」
「…もっと。…食べていい?」
「ああ、仕方ない。もう一切れだけだぞ」
釘を刺しとかないと、くるめに全部食べられてしまう。