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02 強盗事件 無双

不定期掲載となります。

更新は18時です。

 上司の指示に従い、長谷川は都内の指定病院で予防接種を受けた。

 それらの病院は教会の息が掛かった病院らしい。


 彼の実家は静岡県なので、親などの身内に連絡をとって、県内で実家に近い指定病院で接種が受けれる様に手配してもらった。

 一回の予防接種で済むならば、彼が家族に集合をかけて都内へ案内して済ませた方が便利だが、一ヶ月以内に三回に分けた接種が必要だそうだ。

 そうなると都内への移動が手間だし、各員のスケジュールも、そうそうは調整できない。


 最終的には、初回のみ長谷川が車で家族を静岡県内の指定病院に案内し、二回目以降は各自の都合で予約をとって、通院してもらう事になった。

 この様な【指定病院】は、各所に用意されている様だ。


「業務の一貫なので、移動には職場のワンボックスカーを使用して下さい。身分証と装備も忘れない様に」

「銃もですか?」

「防弾ベストもです」


 他の三人に同時に頷かれては、拒否権はない。

 長谷川よりも十歳以上若い者達だが、未来予知も出きる三人の言うことは従った方が良い事は、経験則として承知している彼だった。


 日程を認可している以上、家族には危険が無いのだろうが、長谷川個人はソウでもないらしい。

 彼が怪我をする位なら、三人のうちの誰かが同行するだろうから、たいしたトラブルではないのだろう。


「了解しました」


 久しぶりの帰郷に、用心しながらも、少し上機嫌で車の用意をする長谷川であった。





 後日、家族の予防接種も終わり、送り届けた後に静岡から東京へと向かっていた長谷川は、ガソリンが切れかかっているのに気が付いた。

 病院での予定が決まっているので、家族との会話が車内に限定されており、話しに夢中になって給油を怠ったのだ。


「お客さん、うちはカードは使えないんですよ」


 ギリギリで見付けた小さなガソリンスタンドは現金のみとなっていて、カーナビによるとATMのあるコンビニよりも銀行支店の方が近くにあった。


「何とか往復はできそうだな」


 幸いにも、まだ銀行業務の営業時間内だったので、ATMが使えなくとも何とか捩じ込む事はできるだろう。


 帰る前に家族で食事をした時に、職場の同僚に買っていくべきだと家族に言われて、予定外の土産まで買った為に、彼の現金は底をついていた。

 クレジットカードは、職場で提供されたものしか持ってこなかった為に、部所の車に使う分には問題ないが、家族の食事や土産物となると、公金横領となりかねない。


「何とか間に合った様だ」

カチャッ!


 銀行に滑り込んだ長谷川は、背後で嫌な音がした事に、顔をしかめた後に、溜め息をついた。


 見ると、二つある出入り口の、もうひとつの側にマスクをして猟銃を構えた男が見えた。


「みんな、動くな!」


 振り返ると、長谷川の後ろにも銃を構えた男が立っていた。


『銀行強盗か?』


 長谷川は、賀茂達が懸念した件が、コレだとピンときた。

 人間、前もって心構えと準備が出来ていれば、けっこう落ち着いている物だ。

 長谷川は、犯人に命じられるままフロアの中央に移動するが、その目は手持ちのキャッシュカードがATMでも使える事を確認するほど落ち着いていた。


 駐車場では銀行で用を済ませた客が、警察へ電話をかけている。


 一昔(ひとむかし)前と違い、常時一人一台以上の携帯電話を持っている時代だ。

 銀行の多くは、屋外から中が見える硝子張り。銀行職員が非常ボタンを押さなくとも、銀行の外の住民や通行人が通報するので、昨今の銀行強盗は、警察の目を逃れる事は出来ない。


 現代の銀行強盗は、まず立て籠り、客を人質にして逃走するのが定石だ。

 ドラマでは警察に車を用意させるが、実際には発信器や小細工を懸念して来客の車を使うのが妥当だろう。

 もしくは、前もって用意しておいた盗難車。


 そんな事を考えながらフロアの椅子に座らされる客達に混じり、彼は状況を整理する。

 犯人の一人は、カウンターで銀行員を脅して金を要求し、もう一人は客を監視している。


『犯人は二十代後半の男性二人。いや、逃走車が用意してあると考えれば外にバックアップ要員が居るかも知れないから、三人の可能性もある。ドラマみたいに、客の中にも仲間が居る可能性も有るんじゃないかな?見たところ銃は散弾銃(ショットガン)二丁だけか?中に仲間が居るとしても、拳銃の入手は難しいだろう。ガスオートと水平二連だから銃弾は最大5発。体の動きから、防弾ベストは無いな」


 情報収集/状況の確認は、万事において重要だ。



 銃規制が厳しい日本で、一般人が合法的に持てる銃が、【散弾銃】だ。

 使用はクレー射撃か、猟や害獣駆除に限られる。

 その散弾銃は、大きく分けて二つのタイプがあり、其々に更に二つの合計四種に分類できる。


 最初の分類は、銃身が二本の物と一本の物。

 銃身が二本の物は、二本が水平に並んでいる【水平二連】と、垂直に並んでいる【上下二連】の二タイプに分けられる。

 銃身が一本の物は、次弾装填が手動の物【ポンプアクション】と、ガス圧で自動装填される物【ガスオート】に分けられる。


 銃身が二本の物は、三発目を撃つ時に、薬莢(やっきょう)の入れ換えが必要だが、銃身が一本の物は、連続で三発から八発の連射が可能だ。|(日本国内で認可されている物は最大三発)


 これらの事から、二丁の散弾銃の弾は、最大5発と推定される。




 長谷川は、横の客にもバレない様に、背広の下に隠してある、両脇のホルスターに手を伸ばして、銃の安全装置を解除した。


 犯人の乱入から約五分。パトカーのサイレンが聞こえてくる。

 巡回中のパトカーが駆け付けたのだろう。

 銀行の窓ガラス越しに野次馬も見え始めている。


 コンビニ強盗の様に、数万円を奪うだけなら、警察の到着前に逃げおおせたかも知れない。

 だが、まとまった金額を持ち出すのには時間が掛かり、警察の到着より先に逃げおおせる可能性は皆無だ。

 いや、むしろ銀行員は、警察の到着が間に合う様に、怠惰を演じてみせている。


 長谷川は、一応は説得してみる事にした。


「なぁ、今どき銀行強盗なんて、成功しないもんだよ。けが人を出す前に出頭した方が、罪が軽くて済むと思うんだがな?」

「うるせえ!ババアみたいな事を言うなぁ~働いたら負けなんだよ」


 田舎には、まだ、こんな奴も残っていたのかと、少しゲンナリしながらも、長谷川は二人の犯人の位置関係を再確認する。


『コッチの奴は問題ないが、カウンターの奴は弾道が銀行員に被るな』


 イメージを固めながら、考えた攻略法手順を頭の中で繰り返す。


「勘違いしているよだが、『働いたら負け』なんじゃなくて、『力に頼ったら負け』なのが社会だよ」

「馬鹿か?ジジイ!力のある奴が勝者に決まってんじゃないか!」


 客を見張っている方の犯人は、誇らしげに銃をかざして見せた。


 銃は、下から上に上げながら撃つのは容易だが、逆に上から下に下ろしながら撃つのは難しい物だ。


 犯人が銃口を上に向けてポーズをとった瞬間、長谷川は立ち上りながら右脇の下から銃を抜き取り、至近距離から犯人の肩を撃ち抜いた。


パン!

「うがっ!」

「何だ?」


 発砲音に、カウンターに乗り上げていた、もう一人の犯人が振り向いた。


 タイミングを見ながら長谷川は、右手で左脇の銃を抜き取り、カウンターに居る犯人の脚を狙った。

 上半身を狙うと、外れた時に銀行員に当たる可能性があるからだ。


パン!

「ぎゃあ!」


 脚を撃ち抜かれ、うずくまる犯人に駆け寄り、銃を蹴りあげて無力化する。


「「きゃあー」」

「はいはい、公務員ですから御安心を。銀行の人、ロープか何かで、犯人を拘束して下さい」


 突然の発砲に、悲鳴をあげた客達に身分を明かして安心させ、銀行員に指示をしつつも、長谷川は二つの銃口を犯人達に向けたままだ。


「くそっ!サツだったのか?」

「無知だな。警察だけが、銃を持った公務員だと思っているのか?『力』を持っているのが自分達だけだと、盲信している奴だから、無知は仕方ないのかも知れんが」


 うずくまる犯人達を、長谷川は蔑む目で見下ろした。

 長谷川の銃は、警察の使っているリボルバータイプとは明らかに違う物だ。


 反撃を喰らわない様に、距離はとっているが、犯人達に抵抗の兆しはない。


 実際、銃弾が撃ち込まれると、衝撃と激痛で動けなくなる。

 呼吸が荒くなり、時間が経つにつれて、出血の影響も合わさって、意識が朦朧としてくる。

 致命傷でなくとも、ショック死する場合もあるのが銃撃だ。


「あ~、銀行の人、電話して、警察と救急車の突入を頼んで下さいね」

「は、はいっ。わかりました」


 犯人達が縛られたのを確認してから、彼は銃の安全装置を掛けて、ゆっくりと両脇にしまう。


 駆け込んできた警官隊に、長谷川は身分証を提示した。


「宮内庁の長谷川だ。任務中にガソリン代をおろしに銀行に来たら、事件に巻き込まれたんでね。管轄外だとは分かっているが、こっちも時間がないんだよ」


 勿論、東京まで帰る時間を早めたいだけだが、詳しく話す必要はない。

 犯人が救急車へ運ばれて行くのを見送りながら、長谷川はATMの方へと足を向けた。


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