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近道の旋律




 部活の後、部室で友人の河村と話し込んでしまい、いつもより帰りが遅くなってしまった。

 急いで帰ろうと足を早めていた高石は、いつもは通らない細い道を通ってみようかと思い立った。

 住宅街の家々の隙間にぽっかりと空いた細い道で、ここを突っ切れば五分程で大通りに面した道路に出ることが出来る。

 そこを通れば七、八分は短縮できそうなことは知っていたが、道が狭く両側に建ち並ぶ住宅の壁が迫っているため、なんとなく窮屈な感じがして普段は通らない道だった。

 辺りはどんどん暗くなっているし、早く帰りたい。高石は細い道に足を踏み入れた。

 歩き始めると、どこからかピアノの音が聞こえてきた。

 どこかの家で練習しているのだろう。子供が弾いているのか、たどたどしく時々調子はずれの音を出す。あんまり上手くないが、どこかで聞いたことのあるクラシックの名曲だということはわかった。

 高石は早足で歩き、何軒かの家の横を通り過ぎた。ピアノの音はまだ続いており、同じ曲の一小節を繰り返し練習しているらしい。そこが苦手なのか、さっきと同じところで音がはずれる。

 高石は辺りを見回してみた。建ち並ぶ家々には灯りが点り始めている。どこかの家からカレーの匂いがした。夕餉の時間だ。食欲を誘う香りに腹が鳴りそうになった。

 早く帰って飯を食おう。今日の晩飯は何かな。

 高石はあれこれと晩飯のおかずを想像し、細く長い道を立ち止まることなく突っ切った。

 大通りの信号を渡って、自宅に帰り着いた高石はほっと息を吐いた。


 そうして、二度とその細い道を通らないことを心に決めた。


 他の人と行きあうこともなく、ちょっと狭くて車が入れないことを除けば何の変哲もないただの細い道だ。変質者が出没するとか危険な場所があるとかそういった物騒な噂もない。ただの道だった。


 ただ、高石が道に足を踏み入れてから大通りに出るまでの間、ずっと同じピアノの曲の一小節が繰り返し奏でられていた。必ず同じところで外すのを六回も聞いた。

 高石が大通りに出るまでの間、ピアノの音はまったく同じ音量で聞こえ続けた。

 遠ざかって小さくなることも、逆に近づいて大きくなることもなく、まったく同じ音量で。

 そして、大通りに出た途端にぶつっと断ち切ったように聞こえなくなった。

 その道を通るとまた同じ曲が同じ音量で聞こえてきそうで、高石はそれが嫌だったのだ。




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