関係ない話
どこの学校にも怖い噂はある。
よくあるのは昔死んだ生徒がいて云々という始まりだ。
だから、本当に死んだ生徒がいると新しい怪談が創作されてしまう。作る方は面白半分なのだろうが、その生徒をよく知っている人間達からすると冗談じゃないと思う。
後輩の雨居は校門を出てすぐの歩道で飲酒運転の乗用車に突っ込まれて死んだ。二ヶ月前の七月だった。
同じ部活でも、高石はそれほど雨居と親しくしていた訳ではない。高石は後輩の面倒をよくみるタイプではないので、挨拶したり皆で雑談する程度の中だった。
友人の河村は雨居を可愛がっていた。とにかく何かと構っている姿をよく見かけた。
だから、その噂が出始めた時には壮絶な形相で怒りを露わにしていた。
一人で校門をくぐると、背後から「ねぇ」と声をかけられる。それに答えて振り向くと、ききぃーっがしゃんっという死んだ生徒が死の直前に聞いた音が聞こえる。その音はその後も何度も聞こえる。音を聞こえないようにするためには、校門の前で生徒がひかれた18時15分から救急車が到着するまでの9分6秒間動かずに立っていなくてはならない。
めちゃくちゃな話だ。ひかれた時間だの到着する時間だの、そんなもん、正確に計っていた人間などいるわけない。
さすがに雨居と同じ部活の者達に直接噂を吹き込んでくるような輩はいなかったが、噂は学校中に広まっているようだった。
部員達は少しでもその噂が聞こえると不快を露わに示すようにしていたけれど、それで反省して噂をやめるような奴は少数だった。
ある日、高石は二階の廊下の窓から校門を眺めていた。先程から校門前に二、三人の女子が居て、なにやら笑いさざめいているのだ。
職員室に行っている河村が戻ってくるまでに、どっかに行ってくれと思う。
そう思うと同時に、一つ気になることがある。
二、三人の女子がいて、彼女らのすぐ側に人の形の黒い影が立っている。
あれはなんだろう。
「……雨居」
「違いますよ」
心外だ、とでも言いたげな不服そうな声がすぐ横でした。
振り向いても、誰もいない。
窓の外に視線を戻すと、女子達は気が済んだのか校門から移動するところだった。
彼女達に付いて、黒い影も移動する。彼女達は付いてくる黒い影に気づいていない。
雨居じゃないならいいや。関係ない。
あの場所に霊がいるって決めつけたのに、実際にはそこには霊がいなかったから、適当な他の霊が居場所が出来たと引き寄せられてきたのかもしれない。
どうでもいいや。関係ない。雨居じゃないんだから、どうだっていい。
「お待たせー」
河村が戻ってきた。
雨居の声が聞こえたなんて、河村には言わない。河村は雨居を可愛がっていたから、高石だけに聞こえたなんて言ったらきっと不機嫌になるに違いないのだ。