三輪車
高石は困っていた。
三輪車に追いかけられるのだ。
一昨日、学校の帰りに空き地の前の細い道路を歩いていると、後ろからキコキコと音を立てて三輪車が走ってきた。
何気なく振り向いた高石は、こちらへ向かって走ってくる三輪車を目にして全速力で走り出した。
三輪車には誰も乗っていなかったからだ。
丁字路になっている道路のところまで逃げると、三輪車は追ってこなくなった。
やれやれえらい目に遭ったと息を吐いていたのだが、昨日もまた同じ道で三輪車に追いかけられた。
この分だと今日の帰りも同じことがありそうで気が重い。
違う道を通って帰ろうかと思うが、相当な遠回りになってしまうため家に着くのが夜遅くなってしまう。
放課後までずっと悩んだが、結局いつもの道を通って帰ることにした。
一ヶ月ほど前、丁字路で一時停止を無視した車に轢き逃げされて、三輪車に乗った女の子が亡くなっている。
それなら逃げた車を追いかければいいのに、何故俺が追いかけられるんだと高石は理不尽さに胸がもやもやした。
空き地の前に差し掛かると、やはりキコキコと三輪車が追いかけてきた。高石は振り返らずに走り出した。
丁字路に飛び出したところで、横から何かに激しくぶつかられて、高石は地面に転がった。
何があったのかと目を白黒させた高石の前で、白い車がエンジンをかけて走り去っていった。
(……当て逃げかよ)
高石はあちこち擦りむいて体中がズキズキ痛むものの、大きな怪我はなかった。
車の色やナンバーの一部を高石が覚えていたため、当て逃げ犯はすぐに捕まった。
その後、警察の調べによって、一ヶ月前の轢き逃げと同一犯だと判明した。
高石が当て逃げされた日から、三輪車が現れることはなくなった。
犯人を捕まえて欲しかったのかもしれないが、自分がそれに利用され巻き込まれたのは理不尽だと高石は思う。
しかし、車にぶつかられる瞬間に自分と車の間に飛び込んできてクッションになった見えない何かのことを思うと、あまり腹をたてる気にもならない。困ったことに。




