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家族写真





 通学途中の横断歩道の前に古い写真屋がある。

 信号待ちをしていると、なんとなく道路の向こうのショーケースに並んだ家族写真や赤ちゃんの記念写真が目に入る。何年も代わり映えしない写真はいったいいつ撮られたものなのか、着物に埋もれるようにして笑っている赤ちゃんなんて、もしかしたらもう大人になっているんじゃないだろうか。


 その日の朝もいつものように信号待ちをしている間、ぼーっとそれらの写真を眺めるでもなく視界に収めていた。

 ただ風景として視界に入っていたというだけで、ちゃんと見ていたわけではなかったのだが、一瞬、何か動いたように見えた。

 ゴミか虫でも飛んでいたんだろうと、何も気にせずに横断歩道を渡って、通り過ぎざまに何気なくショーケースに目をやった。


 右端の写真が動いていた。

 高石は「え?」と思わず足を止めた。


 なんの変哲もない家族の記念写真だ。スーツ姿の父親とよそ行きに着飾った母親、小学生くらいの女の子が卒業式で着るようなお洒落な格好をして立っている。

 どこにでもある、なんてことのない写真だ。

 ただ、その父親が動いている。


 ゆらゆら揺れているのではなく、右に左に、無理やり引っ張られているような動き方で写真の中でぐらぐらしているのだ。

 もちろん、写真なので表情は変わらない。撮られた瞬間の貼り付けた笑顔のままだ。


 絶句したまま見ていると、ぐいぐいと引っ張られてガクンガクンとしていた父親が、今度は突然ぎゅう、と細くなった。


「ひっ」


 思わず、喉の奥から声が漏れた。

 父親の体は引っ張られて伸ばされたのではく、こよりのようにぎゅるりと捩じ上げられて細くなった。

 肌色とスーツの黒が混じった細い棒みたいなものが、微笑む母と娘の隣にある。


 と、思うと、次の瞬間に細い何かがすっと消えた。

 後に残ったのは、母親と娘だけが微笑む、不自然に空間の空いた家族写真。


 高石は何も見なかったことにして足早にその場を去った。

 

 帰宅時は信号が青だったので立ち止まらずに駆け抜けてショーケースを見なかった。



 翌朝、いつものように横断歩道の前に立ち、青信号に変わるまでの間、目の前の写真屋のショーケースと向き合う。

 そこから確認すると、昨日の家族写真にはちゃんと父親が写っていた。

 横断歩道を渡ってからもう一度見てみたが、やはりちゃんと三人の家族写真だ。

 とすると、昨日のは見間違いだったかとほっと胸を撫で下ろした。


 ただ、昨日は微笑みを浮かべていたはずの写真の中の父親が怒ったような表情になっていた。


 この家族に何があったのかは知りたくないし、それ以来、高石は信号待ちの間は写真を見ないように目をそらしている。




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