ことり
クラスの女子の肩に、小鳥が後ろ向きにとまっていた。インコか何かか、鳥に詳しくないので高石にはわからなかった。
薄く黄色みがかった白い小鳥は、女子の肩にとまってじっとしている。
次の日、女子の肩からは小鳥がいなくなっていた。女子は顔に絆創膏を貼っていた。
何日か後、同じ女子の肩にまた小鳥が後ろ向きにとまっていた。
翌日、女子は額に包帯を巻いていた。小鳥はいなくなっていた。
あれは、あの女子が昔飼っていた小鳥だろうか。
見ないようにしようと思っても、とまっているとついつい見てしまう。
また小鳥が後ろ向きにとまっていた翌日、女子は右目に眼帯をしていた。
次に小鳥がとまっているのを見た時、高石はたまりかねて休み時間に廊下を歩く女子に声をかけた。
「あのさ、小鳥飼ってる?」
女子は怪訝な顔をした。
「飼ってないよ」
高石は迷った。変なことを言う奴だと気味悪がられて、クラスの連中に言いつけられると困る。
けれど、小鳥がとまる度に怪我がひどくなっているような気がして、これを見て見ぬ振りして何かあったらと思うとたまらない。通りすがりの赤の他人なら構わないのだが、毎日顔を合わせるクラスメイトだ。万が一にも大怪我とかされたら、顔を合わせる度に妙な罪悪感を覚える羽目になるかもしれない。
けれど、お前の肩に小鳥がとまっているとはっきり言うのもはばかられた。
悩んだ末に、高石は変な質問だと自覚しつつも、こう切り出した。
「前から見ても後ろから見ても、後ろ向きで顔が見えないのって何でだと思う?」
気味悪がられるかと思ったが、女子はそれを聞くなりさっと顔色を変えた。
「やだ、なんで、うそ」
女子は高石が怯むほど狼狽して、涙目になって走り去っていった。
高石が教室に戻ると、女子は早退していた。
それから何故かその女子は学校に来なくなり、学期末に転校していった。
事情もなにもかも何一つわからないが、向こうには何か心当たりがあったということだろう。
彼女がどうなったか、高石にはもう知る由もない。あまり酷い怪我をしていなければいいな、とは思う。薄情かもしれないが、目の届かないところに行ってくれて有り難い。
ただ、高石はちょっとだけ、小鳥が苦手になってしまった。