旧校舎の怪談
「旧校舎の怪談、知ってるか?」
放課後、教室でだらけていると友人にそう話しかけられた。
「旧校舎の美術室の前を通ると、女子がこっちに背を向けて絵を描いてるんだってさ」
高石は机の前に立つ友人を見上げた。旧校舎の怪談など聞いたことがない。
「見た奴いんの?」
あんまり興味がないが一応尋ねてみた。
「いるから噂になってんだろ。でもさあ、その女子の前のキャンバスが真っ白だったらいいけど、何か絵が描かれていたらやべぇんだって」
「やべぇって?」
「死ぬとか行方不明になるとか」
ふわっとしているなぁ、と高石は馬鹿馬鹿しくなった。くだらない噂話だ。
だが、友人は楽しそうに言う。
「なあ、旧校舎に行ってみようぜ」
「ええ……やめとく」
わざわざそんなもの確かめにいく気になれない。
「いいじゃん。ちょっとだけ」
「メンドくせーし」
高石はよく同級生や部活の先輩から無気力系と言われる。心霊スポットに突撃していくような元気はない。
「頼むよ。一緒に行こうぜ。ほら」
「え〜……」
しかし、無気力ゆえに、強引に手を引く友人に逆らうことも出来ないのだった。
仕方がない、ちょっと行って見て帰ってくるか。そんな軽い気持ちで、友人の後ろをだらだらと歩いてついていった。
校舎を出て、旧校舎に向かおうと足を向けたところ、
「高石さん」
後ろから呼ばれて足を止めて振り向いた。
部活の後輩である雨居が立っていた。
「どこに行くんですか?」
「ああ、ちょっと旧校舎に……」
答えると、雨居はじっと高石をみつめてきた。
「部活、遅れちゃいますよ」
生真面目な後輩にそう指摘されると、そうだ部活に行かなきゃって気になる。
「早く行きましょう」
そう言って部室の方へ歩いていく。
高石は先に行く友人に声をかけ、「やっぱり部活に行く」と告げてから雨居を追いかけた。
玄関から入ったところで、ちょうど体育館に行こうとしている同じ部活の同級生に行き会った。
「なにしてんの?」
「いや、クラスの奴に旧校舎の幽霊見に行こうぜって誘われて、でも玄関出たところで雨居に会って止められてさ」
高石が説明すると、同級生の河村は怪訝な顔をした。
「お前……何言ってんの?」
河村は低い声で言った。
「うちの学校に旧校舎なんかないだろ。それに、雨居は先月死んだだろ。交通事故で……」
言われて初めて、高石は後輩の葬式に参加したことを思い出した。
そして同時に、さっきまで友人だと思っていた奴の顔が思い出せないことに気づいた。