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魔法使いの僕は、同じクラスの女子に飛び膝蹴りされた  作者: 海ノ10
一章「一般人なら死んでた」
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吐いた嘘


 まるで僕の心を見透かしているような物言いに、思わずビクッと体を震わせてしまう。動揺のあまり自分の顔色が悪くなっていくのを自覚する。

 そして、今まで僕と関わろうとしていた城田さんの行動の意味を理解してしまう。


「っ、ま、まさか……」


 自分の声から出たのは想像以上に情けない声だったが、今はそんなことを気にしている余裕はない。何故なら僕の言いたいことを理解したように城田さんが頷いたからだ。

 そして、城田さんは僕にとって最悪の予想を肯定する言葉を放った。


「そう、わたしは魔法使い。柊と同じね」

「……参考までに、どうしてバレたか聞いてもいいかな?」


 城田さんの自信を持った物言いにもはや隠すことはできないと諦めた僕は、せめてもの抵抗としてその理由を城田さんに尋ねる。

 おおよその予想はついているものの、自分に非がなく運が悪かっただけだと再確認するためにもそれは必要だった。


「わたしの魔眼で視て、あまりにも身に纏う魔力が制御されていたから」


 一般人は魔力という特殊な力を持っていてもそれを知覚できないので制御できないのだが、魔力というものを知覚して操ることができる人がごくわずかいる。それが、僕たち魔法使い。

 魔法使いは普通、無意識のうちに体から発する微弱な魔力を抑え込む訓練をする。だからその体から発する微弱な魔力があるかないかで一般人か魔法使いかを見分けることができるのだが、大半の魔法使いは魔力を視ることはできず感覚的に『なんとなくあるな』とわかる程度。だからこそ魔法使い同士がすれ違ったりしてもお互いに相手が魔法使いだと気が付かない。

 ただし、城田さんのように『魔眼』というイレギュラーな能力を持っていると話は変わってくる。

 魔法使いの中でもごく少数しか持たない魔眼というものには様々な種類があり、視界に入った相手を呪ったり石化させたりと千差万別。その中で最も所有者が多く有名なのが『魔力を視る魔眼』で――僕はその存在を知っていたからこそ今諦めモードになっている。


「よりによって魔眼持ちか……そりゃ嘘もバレちゃうね」

「うん。嘘つくと、魔力が若干揺らぐから」


 そう城田さんは言うものの、実際に魔力を視る魔眼を持っている人の話によれば、『嘘を見抜くことは確かに可能だけど、微弱な魔力の揺らぎを見分けるのは熟練者じゃないと難しい』とのこと。つまり、城田さんは魔眼を使いこなしているということになる。

 扱いが難しいと言われる魔眼を使いこなした熟練者が相手なのだ。これはバレても仕方がなかったと諦めるしかない。


「なら、僕にしつこく話しかけたり関わろうとしてたのは、僕が魔法使いだってわかってたからか」

「その通り。せっかくなら友達になりたくて」

「そうならそうと言ってくれればよかったのに」

「言おうとして人気のないところに呼び出そうとしても来なかったのはそっち」


 そういえば、城田さんから何回か人気のないところに呼び出されたけど、警戒して行かなかった記憶がある。

 だがそれに関しては弁明させてほしい。誰だって呼び出される覚えのない相手から急に呼び出されたら警戒するだろう。そして、自衛のために呼び出しに応じないという選択肢をとることだってあり得るはずだ。

 女子から呼び出されたからと言って浮かれてホイホイつられて行くほど僕は素直な人間じゃない。


「あの時に来てくれればこんな手荒なことせずにすんだ」

「いや、鞄を持って行ったのは僕を呼び出すためだからわかるけど、飛び膝蹴りしたりナイフで脅すのは意味が分からない」

「だって、そうでもしないと鞄だけ持って逃げそうだったから」


 実際に何かあったらそうすることも考えていた僕は、城田さんの話を否定できず黙るしかなかった。

 結局、こうなったのは自業自得だと言わざるを得ないようだ。どうしても納得はしたくないが。


「でも、何もなかったら、こんなことをしてまでわたしが魔法使いだって明かさなかった。

 ここまでしたのは、柊に頼みたいことがあったから」

「あ、もしかしてさっき言ってた学校の噂に関わること?」


 城田さんの正体がわかったからか一気に緊張が緩んだ僕は、城田さんが馬乗りになっているのにも関わらず、ついいつも通りの口調で話してしまう。

 何かあれば魔法で吹き飛ばせばいいや。どうせ死なないだろ。という楽観的な考えが芽生えたというのも大きい理由だが。


「そう。わたしの目で視たから、この学校に妖怪がいるのはわかってる。

 実際に追いかけられて怪我した学生がいる以上、見過ごせない。だから、柊にも協力してほしい」

「協力?」


 意味が分からずに思わず聞き返してしまう。だって、魔眼があれば魔物――ここは日本なので正確には魔物ではなく妖怪と呼ぶほうが正しい――を見つけるのは簡単だろうし、いくら強い妖怪だろうと昼間など弱っている時間帯なら一人でも倒せるはずだ。にも関わらず、どうしてそれをせずに僕に協力を頼むのかがわからない。


「うん、そう。昼に倒そうと思って探しても、巧妙に隠れてて見つけられなかった。だから夜に探さなきゃいけないんだけど、夜だとわたし一人で倒せない可能性がある」

「魔眼があっても見つけられないって……それ、二人でどうにかなるの?」


 魔力そのものを視る能力すら欺く相手を、若い魔法使い二人で倒せるのだろうか。西洋の魔物としか戦ったことのない僕には、日本の妖怪の強さは未知数だしどうしても不安がある。魔物たち相手なら自信あるのだが、妖怪と魔物はその性質からして全くと言っていいほど違う……かもしれない。違いがあるのかすらもよくわかっていないのだ。

 ただ、魔物と妖怪の差異がどんなものなのかには純粋に興味がある。


「わからない。けど、協会はもっと被害が大きくならないと動かないから、わたしたちがするしかない」

「あー、日本の魔法協会は慎重派だって有名だしね」


 欧米の魔法協会はむしろ積極的に魔物を狩ろうとしていた記憶があるけど、やはりそういうのも国柄が出るのかもしれない。魔眼を欺く能力があるってだけで大人数での対処が必要な事案だと思うのだが、日本の魔法協会は何を考えているのだろうか。


「それもあるし、人手不足って言うのもあるし……まぁいろいろ。で、協力してくれる?」

「いいよ。道端にいるような弱々しい妖怪なら見たことあるけど、ちゃんとした妖怪は見たことないから気になるし」

「……お願いしたわたしが言うのもなんだけど、軽くない?」

「そう? 魔法使いは好奇心に従って動くものでしょ?」


 僕がそう言うと、城田さんは驚いた顔をした後、面白そうにくすくすと笑う。何がそんなにおかしいのかわからないけど、何かがおかしかったのだろう。

やっぱり城田さんは変な人なのかもしれない。

 それより、話がいい感じにまとまったのでそろそろ僕からも城田さんにお願いしたいことがある。




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