第9話 マッタリハイキング
翌日、空は何処までも高く雲ひとつないハイキング日和。
当然、昨晩はやましいことは無かった。
と言うより自分が想像していた以上に疲労困憊していたらしく、ベッドを借りてからの記憶が無かった。
やはり歳には勝てないのである(笑)
そして今朝、水汲みに行くと唐突に言われたのだった。
水汲みとか……前世の水道の有り難さが身に染みる……
蛇口を捻れば直ぐ飲める水が出るとか、どれ程有り難い事だったのかと、当たり前の事が当たり前では無くなって初めて気付かされる。
朝食が終わり後片付けをして、着替えて水汲みに来た。
水のある場所は裏から少し草原を越えて山の中の泉にあるそうだ。
今日のティナは高い位置のポニーテールである。
服は昨日と同じくベージュのミニっぽいワンピース。
この時代に輪ゴムって有るのかと聞いてみたがそんなものはなく髪を結ぶ時は革製の紐で結んでいた。
当然、靴とかもゴムとか化繊何て物は無いので木製か革製に限られる。
そして、靴下と言う物は存在していないので直に靴を履いていた。
俺も寝巻きのままなので靴下は履かずに直に靴を履いている。
「マサキ~!こっちだよ~!」
ティナはなぜか歩くのが相当速い。
背は恐らく150ちょい位なのでちょこちょこ早送りの様に歩いている。
まるで小動物だ。
あ、そうだ以前アニメで見てた〇らド〇の手乗り〇イガみたいな感じだわな。
リアル〇イガが間の前に……(萌)
まぁ、性格とか見た目は違うんだけど、そういや〇イガも金髪だったよなぁ……
「マサキ~!なに1人でブツクサいってんの?早く行くよ!」
「あ、おぅ!わかった~!」
前世に未練……と言うよりも前世の記憶の方が印象深い?ので色々と今起こっている事と照らし合わせてしまう。
つーか、オタ変換やばいわ!
未経験の事象がてんこ盛りで無意識にハイテンションになってるのかも。
と、少し冷静になって自分を分析してみた。
森を通るとの事で腰には出掛ける前に武器を渡された。
刃渡り50cm程の長方形の刃物。
先端に向かって若干広がっている。
「武器というか、コレってマチェットだよなぁ……薮祓い?武器にも使えるけどリーチ足りないだろ……」
とは言え丸腰で森の中を歩くの寄りはマシと思ったが、コレを使えるかと言えば疑問が残る。
使う機会が無い事を祈ろう。
肩には棒の先端に前後一対の木製バケツがぶら下がって居る。
「ティナ~!こんなちっさい水汲みで何往復するの?」
「ん~……大体5往復位かなぁ……」
「え?……」
思わず動きが止まった。
「マジで?」
「マジで!(ニヤリ&サムアップ)」
嘘では無いらしいが、コレをあのちっさい身体でやってたのかと思うと少々可哀想な気がした。
「コレ毎日やってたのか?」
「毎日って程じゃ無いけど2、3日に1回はしてるよ!私、こう見えても力あるから!キリッ」
笑顔で力こぶを作って見るが、そこに力こぶは無い。
(よくこの華奢な身体でやってたよなぁ………)
「さぁ、森に着いたよ!森の泉まではそんなに遠くは無いけど静かに着いて来てね。」
神妙な顔付になりティナが言った。
「何か音とかおかしいと思ったら直ぐに教えて!」
ティナはメッセンジャーバッグの様な鞄から地球コマ見たいなのを取り出し、革紐で回転させると「ヴーーン」と低周波的な音を出している。
しっかり回って音が出ている事を確認したらそれを腰にぶら下げた。
「それなに?コマ?」
「これ?これは魔除けだよ。これを鳴らして居ると寄って来ないの。狼とか動物も寄って来ないから一石二鳥なんだよ!」
「やっぱり、魔物って居るんだ……」
(ぶっちゃけ魔物ってどんな物か見て見たい気もするけど、命の危険の可能性があるなら会わないに越したことないな…)
「それでも偶にコレが効かない魔物も居るからさ。一応注意はしてね。」
「解った。周りも注意するわ」
(効かないてどんな魔物よ!それ強いんじゃ無いの?やばくね?てかそんな所にしか水無いの??井戸掘れよ!)
「じゃ行くよ!」
ソレを合図に二人共会話が減る。
周囲を警戒しながら山を登って下って家を出発して1時間程で付いた。
木々が茂る中ポツンとできた池があり、岩の間から湧き水がでている。
「やっとついたよ!お疲れ様!」
ティナはあまり疲れた様子も無く平然としていた。
「やっとかぁ……ここまでだけで疲れたぞぃ!」(ちゃんと両手でゾイポーズしたった!)
(片道1時間つー事は往復で2時だろ?それを5回?て1日仕事じゃん!)
「ティナ……これを後5回するの?」
「いや、今日は2回で終わるよ!だって今日はマサキ居るからさ!」
(今までは1人だったから5往復だったのか……マジ体力すごいな……コレが若さか…………)
「なるほどね。今まで1人でよくやってたなぁ…」
思わずヨシヨシと頭を撫でてしまった。
「こっ!子供扱いしないでよ~!」
(プクッと頬を膨らませて怒ってる振りをしてるのがまた可愛い……)
「サッサと汲んでまた来ましょ!」
「合点承知之助!」
帰りは何となく道も分かっていたので距離感を掴めてすんなり帰れた
が、両方バケツに水を入れて歩くとバランスが取れずとても歩きづらかった。
1往復目から小休止して2往復目に出掛けた。
1日に同じ所へ何回も行くのは忘れ物を取りに行ってる感覚で無駄な時間と思えてしまう。
(あ~駄目だ駄目だ!無駄とか非効率とか現代人の癖だ。もっと非効率を楽しむ方向で生きて行かないと……美少女との会話を楽しむ方向で……と思っても何を話せば良いのか解らない…)
悶々とアレこれ考えながら歩いていたらあっという間に森の前まで来ていた。
ティナがまた魔除け地球コマを回して低周波を出している。
「さっきから言ってる地球コマってなに?」
「えーっと……触っても倒れないコマの事。(ジャイロ効果とか言ってもわからんよなぁ……)普通のコマって回す軸と回る縁というか丸いとこってくっ付いてるでしょ?」
「うんうん」
かなり興味有げに話を聞いている。
「けど、地球ゴマってさ回す軸と回転部分がくっ付いて無いのね。それで軸は回って無くても回転部分が回ると遠心力が働いて……ってこんな話解る?」
「いやぁ~……ごめん、余り良くは解らないんだけど、マサキ楽しそうだなぁ~って………」
「そっちかい!ま、いいや、なんかその魔除けみたいな感じなんだよね、地球ゴマって。それも丸い所を回すんでしょ?」
「そうだよ!回ってる縁にギザギザがあって、外側のギザギザと当る事で音が出る仕組みなんだよ!」
ヴーーンと唸る音を出している。
「それ、軸を伸ばせば地球ゴマになるよ!(笑)」
「そうなの?倒れないコマかぁ……なんか面白そうだね!あ、でもコレは大切な魔除けだから変な事は出来ないの。」
「ですよね~……うん、分かってた(笑)それ無きゃ水汲み来れないもんな!」
「そうそう!だから大切にしないとね!」
2往復目の往路は地球ゴマの話で盛り上がり最初に来た時よりも楽に来れた感じがした。
時計を見ると丁度お昼過ぎ。
森の中に唐突に現れる池は木漏れ日が差し込み神秘さを増していた。
「あ、もうお昼頃だね!帰ったら昼ごはんにしようね!」
(なんでわかるんだろう?確かに昼なんだけど……)
「ここはさ、ちょうどお昼にならないと陽が差しこんで来ないの。それで、今は池の真ん中辺に陽が指してるからお昼だなって分かるんだよ!(ドヤ顔)」
「要は日時計みたいな感じ?」
「そうそう!役場に行けばちゃんとしたのが有るんだけど、そこまで時間を気にする必要も無いから家には無いんだよね。(笑)」
(なんと言うアバウト!分単位で動いていた頃が馬鹿馬鹿しくなって来るわ……)
「水も汲んだし後は帰るだけだ!」
「帰ったら何食べた……」
途中まで言い掛けてティナは急に黙った。
「ティナ?」
状況が解らずティナに声を掛けるが
「しっ!黙って!魔物が居る。」
広い森の中に魔除け地球ゴマの音だけが鳴り響いていた。