尋問
「あ、あの、ひょっとして君! 大学の生物学部の研究室なんかから、に、逃げ出して来たんです、か?」
「がルルル・・・」
「ち、違います? ・・・そりゃそうですよねぇ」
それは、テレビでも図鑑でも動物園でも、まるで見た事のない姿形をした生物でした。
厳つい頭部。顔の横から後ろ向きに生えた数本の角。全身が赤茶色の鋭い棘に覆われ、太くて長い尾の先には脱皮した後の皮膚や棘の一部が塊になって残っている。あれで殴られたら死ぬほど痛そう・・・というより、一瞬であの世に行ける。
そんな見るからに危険で、牛や馬ほどの大きさがあるトカゲにゾウの足を生やしたようなフォルムの生物が、私を警戒して睨んで来ていたのです。
「何だそいつは!?」
「この世界の人間だ! 見つかっちまった!」
「見られた! 生きて帰すな!」
私の後ろの方からも何人かのしわがれた大声が聞こえてきます。
これでは、挟み撃ち。絶体絶命の大ピンチです。
「そ、そんな殺生な! ・・・って、え?」
再びそちらを見ると、子供くらいの背丈の何者か3人が、斧や短弓、数十センチ程度の細長い筒(恐らく吹き矢の類い)を持ってにじり寄って来ていました。
驚いたのはその人たちの容貌です。立ち姿は人間に似ているのに、肌は暗い焦げ茶色。顔には皺と年季が入ってもう随分な大人と思われるのに、やはり身長は1メートル程度しかありません。どう見ても、人間ではない別の知的生命体です。
頭部全体はヘルメット状の防具に覆われ、上半身は軽微な鎧を纏い、下半身はまるで旧日本陸軍やナチスの軍袴のように太腿の部分が膨らんだズボンを穿いています。短小な足は、小さな体躯には不格好に思えるほど頑丈なブーツで守られていました。
先ほどゴミ捨て場にいたのは、彼ら・・・人に似た人ならざる者たちだったのです。
「そこなるお前! 何者か!?」
「!!!??」
今度はトカゲもどきまで口を利いたのか!? ・・・と思いきや。
その背には、やはり同じ格好をした彼らの仲間と思しき人物が乗っていました。よく見ると、トカゲもどきの首の下には黒いロープが回され、その人が左手で握る手綱と繋がっています。
そして、彼の右手にもクロスボウのような飛び道具がありました。
「グルルルルるる・・・」
よく飼い慣らされているのでしょう。トカゲもどきが低い唸り声を上げますが、棘だらけのいかついシルエットに似合わず、先ほどからやけに大人しくしています。
とは言え、凄まじい迫力で恐怖すら覚えますが・・・。
「み、民間人です! すぐ近くに住んでます。武器もなければ、敵意も有りません!」
「・・・・・・・・」
「グろろロロ・・・」
「あっ」
言ってしまった後で気付きましたが、武器は無い、なんて言うべきじゃなかったのでは?
だって、攻撃しても相手が抵抗して来ないと分かっているなら、攻撃し放題ではないですか!!!
ここは、話題を自分自身の事から逸らしておかないと・・・。
「あ、貴方たちこそ、どちら様ですか!? 人間には見えませんが・・・」
そう訊ねると、彼らは互いに目配せをして、ひそひそ何かを話し合い始めました。
「・・・・おい、どうするんだ?」
「よし! ここは俺がこの場で始末して・・・」
「いや、脅せば何か情報が得られるかも知れん」
「何かって、何だよ!」
「食い物の在りか、とか」
「む・・・・・」
彼らのうち、短弓を持っていた1人がゆっくりと矢尻を地面に向けて下ろし、こちらをしかと見据えました。
「おい若造!」
「は、はひいぃ」
「こんなところでムザムザくたばりたくないだろう! 生きて帰して欲しければ、まともな食い物がどこで手に入るか言え!」
「えっ・・・は、はい!!!」
上手く対処すれば、命までは取られない・・・かも知れない。
そう思うと、俄かに希望が湧いてきました。何とか彼らをごまかして、早く警察に通報しなければ・・・!