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転生に関する雑考

「転生という概念は世界各地に見られます。宗教的な話題の中で語られるもので、それが信仰や文化の中心とされている場合から欧米や中東の一神教世界のように否定されている場合まで多種多様です」

「・・・ん?」


首を傾げるヒルダ。ほんの少しばかり難しいかも知れませんが、構わず話を続けます。


「例えばチベット仏教の象徴たるダライ・ラマは衆生救済を目的として転生を繰り返しつつ現世に生き続ける観音菩薩かんのんぼさつご本人と信じられていますが、彼が臨終を迎えたとして転生する先はチベット高原のどこかで新しく誕生した小児ですから以前の肉体が再生する事はありません従って今のヒルダさんの状態とは異なるため参考にはなりにくいと考えられます」

「え、ええ・・・?」


彼女の瞳がぐるぐるし始めます。しかし、まだまだ話は終わりません。


「また日本の天皇もある意味では転生し続けている穀霊とみなす事も可能です天孫降臨により高千穂峰に降り立った瓊瓊杵尊ニニギノミコトは天照大御神の孫にして皇室のご先祖様とされていますがこの神の名は稲穂が成熟した様子を表していますそして歴代の天皇は大嘗祭という重要な祭祀の中で穀霊を先帝から受け継ぎさながら以前と同一の存在として振る舞ってきましたですから象徴的に天皇は原初の穀霊たる瓊瓊杵尊ニニギノミコトご本人としてこの国に君臨し続けてきた訳ですしかしこれも先程のダライ・ラマと同じく肉体は受け継がれませんのでヒルダさんの転生について考える上であまり役には・・・」

「おえぇ」


一度に長々と話をし過ぎて少し息苦しくなってきたので息継ぎをすると、ヒルダが机に突っ伏して意識を失いかけていました。


「うぅ・・・」

「あ、ヤバい」


一方的に夢中で語り続けていたため、説明が下手くそな学者のような悪い癖が出てしまいました。やはり異世界から来たばかり(だと主張しているが真相は不明)という人に、こういった高尚な話は少々難易度が高かったようです。


「ちょっと飛ばし過ぎましたかね」

「ちょっとどころじゃない!!!」


要するに、いわゆる転生を行なった場合、肉体は全くの別人に生まれ変わるのが一般的なのです。


なのにヒルダの場合、以前と同じ肉体がそのまま再構成されている・・・らしい。そこが謎でもあり、彼女の言う"もう1つの世界"に戻るためのヒントもまた、そこに隠されていそうな気がするのです。


「何が起きているのか、まるで分からんな・・・」


そう言って彼女は困惑の表情を浮かべました。確かに、これでは埒があきません。なので私は、思い切って提案する事にしました。


「竜魔王さんにもう一度お会いする事は?」

「んなッ!!?」

「可能なのでしょうか・・・・」


ヒルダの目の色が変わりました。やがて彼女の表情も、怒りを帯びたものになって行きます。


「馬鹿な! あいつは汎人類ホムを大虐殺したんだぞ!」

「元の世界に戻るための方法を知っているのでは?」

「あいつに教えを乞う? なら死んだ方がマシだ!」


いやしかし、死んだ方がマシ、などと言いましても・・・。


「もう既に貴方は・・・」

「言うなと言っているッ!!!」


ヒルダが涙目になりながら叫びました。ケ〇シロウの「お前はもう・・・」と同じレベルの非情な事を言ってしまったかも知れません。


「しかし・・・竜魔王さんを頼れないとなると、別の方法を探らないといけないですね」


不明点は幾らでもあります。例えばヒルダの転生先は、なぜ日本列島の、茨城県つくば市の大学構内だったのか。何しろ、配達先が地球でなかった可能性すら有るのです。太陽に送り込まれて、もう一度丸焼きにされてたかも・・・。


「ふふっ・・・」

「陽。お前、何か失礼な事を考えてないか?」


凄い顔で睨まれました。ぐっと目に力が籠っています。いけません、ここら辺で止めておかないと、大剣で斬られて二分割されそうです。自重、自重(笑)。


「くくっ・・・いえ別に、何でも・・・ブフォッ(笑)」

「・・・・・・・」


しかし、冗談はともかくとして、冷静になってみると・・・別の考えが頭をもたげて来ます。

そもそも私はどうして、彼女が別の世界から来たなどという話を、いつの間にか本気にしているのでしょうか。「ただの痛いコスプレ少女」の線だって、否定し切れていないではありませんか。


それでも・・・先ほどヒルダは確かに私を助けてくれました。その時の彼女は、とても勇ましく、途方もないほど頼もしく思えたのです。

彼女の言っている事は本当なのではないか? 私は薄々そう思い始めていたのでした。

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