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中央図書館

「ゴホ、ゴホッ・・・それにしても空気が汚い。瘴気に満ちた巨大神殿の都だと? 聞いた事もないな・・・」

「神殿・・・ですか?」

「うん? そこら中に立ち並んでいるではないか」


ヒルダは周囲の建物を指差してそう言いました。彼女の目には、レンガ調の赤茶けた建造物の群れが、何かの神殿に見えたようです。


「いえ、実はここら辺の建物は全部、大学の研究棟なんですよ」

「え!!?」


それを聞くと、彼女は目を剥いて驚きました。


「これが大学だと!? 随分と立派だな。この町では学問が盛んなのか・・・フム」

「あ、当たってる・・・」


彼女の言う通り、ここは茨城県にそびえる筑波山の麓に広がる研究学園都市、つくばです。数々の大学や研究機関が軒を連ねる、正に学問の都です。


「それで・・・今は大学の図書館に向かっているという訳だな」

「はい」

「良いではないか! これほど壮麗な大学であれば、図書館の蔵書もさぞ充実していよう。これでエルラーン地方の樹海に帰れる!」


そう言って彼女は屈託のない笑顔を浮かべました。


「・・・・・・・」


私は嫌な予感しかしませんでしたが、この時点では口には出さず、考えている事を胸に秘めたまま、静かに彼女の前を先導して歩いていました。






「な、なんだこれはあぁああぁああぁああぁあぁあああぁぁあああッ!!?!?」

「これ。図書館ではお静かに」


研究学園都市でも随一の規模を誇る大学の中央図書館に、驚愕と絶望がない交ぜになった1人の少女の悲鳴が響き渡りました。私の思った通り、ヒルダが元々いたと主張する世界と、私たちの住む世界は、全くの別物だったようです。


もっとも、彼女の言っている事が何処まで本当なのか、私に判別する術はありませんでした。

携行していた大剣と矢筒と短弓は、中央図書館に入る前に「他人から見えなくする魔法(比較的弱い敵なら騙せる簡単なトラップ)」とかで隠してもらいましたが、それとて実は手品なのかも知れません。

その時の私は、まだ彼女の話す内容を素直に信じる事が出来ていなかったのです。口にこそ出しませんでしたが。


「だって・・・こ、この細長い島々は何だ!」

「日本列島ですが」

「見たことも聞いたこともない!」

「そう言われましても・・・」


ヒルダは日本列島全体の地図と茨城県単体の地図を交互に凝視して、額に冷や汗を浮かべていました。


「聖なるエルデリ山は!? 美しく蒼きラタ川は!? 自由闊達なクムノスの町は!? 広大な平原を貫くオッペン街道は!?」

「山でしたら筑波山。河川なら利根川と那珂川。都市と言えば水戸と土浦ですかね。高速道路なら常磐道、圏央道、北関東自動車道が・・・」

「も、もういい・・・」


彼女は私の言葉を遮り、頭を抱えてしまいました。


「一体、何処にあるんだ!!! そよ風渡る穏やかなツァガーヤ湖は!!???」

「・・・あ、凄い大きな湖なら」

「!!!」

「霞ヶ浦といいまして・・・」

「ちがーう!!!」


途方にくれて世界地図のページを開き、ヒルダは呻くように言葉を絞り出しました。


「見たところ大陸は5つ。そのいずれも私の知らないものだ。ここは、本当に・・・私の知らない世界なのか」

「じゃあ、ヒルダはどこから来たんです?」


悲嘆にくれる彼女を横目に見ながら、私は何とか会話を長引かせようと話し掛けました。


「ナーロッパ亜大陸」

「知らないですね」

「・・・・・・」


それきり暫く黙ってうなだれていたヒルダですが、急に拳を机に打ち付け、悔しそうに歯を剥いて怒りの表情を浮かべるのでした。


「くそっ、竜魔王め! 私を何処へ飛ばしたのだ!」

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