森ノ民
「教えてくれ!! ここは一体、どこなんだ!!?」
「どこって・・・茨城県ですけど?」
私・・・建部陽は、問われるがまま目の前の少女にそう答えました。
ところが、「い、いう゛ぁ・・・ら?」彼女は上手く発音できなかったようです。
初めは無理もないように思いました。
艶やかな黄金色の髪に、透き通るような蒼い瞳。堀は深くて、肌は血の通った白。鉤鼻も高くて、およそ「超絶美人の外国人」にしか見えませんでしたから。
「き、聞いた事もない名前の町だな。だとすると、彼奴の言った通り、私は・・・? いやでも、言葉が通じるぞ!?」
ですが、一点だけ明らかに違います。この子は・・・果たして人間なのでしょうか? 或いは・・・。
「あの・・・これって、何かの撮影ですか?」
「さつ、いぇ? って何だ?」
「それとも・・・ドッキリ?」
「どっ、くり? 何の話をしているんだ?」
「いえ何でも」
話が通じなさそうなので諦めました。
とにかく私は、彼女の耳が気になって仕方がありませんでした。何しろ、長さが常人の2倍ほどもあって、先が尖っているのですから。明らかに人間のものではあり得ません。
中世ヨーロッパの騎士か狩人のような服装といい、アスファルトに突き刺した大剣といい、特徴的な「耳長」といい。私は彼女を・・・正確に言えば彼女のようなキャラクターを、何度も何度も目にしてきたのです。
そう、映画やRPGやアニメの中で!
「貴方は・・・エルフ?」
「む、森ノ民を知ってるのか!」
少女の表情がパッと明るくなりました。少女といっても、大人と子供の中間くらいの見た目で、私と年齢は大きく変わらないように見えますが。
・・・うん、笑顔が可愛い。
「そうか、エルフはいるんだな! 安心したぞ。最寄りのエルフの郷は何処にある?」
「え、いやそんなものは・・・」
「あー、待て待て! そういう事は自分で調べるべきだな! おい、この地方の地図は何処に行けば見られる?」
「う、うーん。中央図書館に行けば・・・」
「図書館だな! よし、地図さえ見れば目印となる山々や水系、町があるはずだ。すまないが、案内してくれないか!」
そう言って彼女は右手を差し出しました。
「私の名はヒルダ。エルナン族の戦乙女だ。よろしく頼む!」
自分は人外だ、と胸を張って自己紹介されているようなもの。はっきり言って、怪しい事この上ありません。
これはもしかすると、何処かのテレビ局がドッキリ映像を撮っていて、そこら辺の見えないところに隠しカメラが有るのかも知れません。
或いは、ちょっとどころか、だいぶ残念なコスプレ少女という可能性も。どちらにしろ、私は口車に乗せられ、ダシにされてしまう事になります。
それでも・・・。
「分かりました。じゃあ、私に付いてきてください! 私の名前は陽って言います!」
ちょっと面白そうだ、と私は思いました。何故か私は、彼女の申し出に対して、ちっとも嫌な気持ちがしなかったのです。
だから私は、冗談半分ではありましたが、ほんのちょっとだけ目の前の可憐な美少女に付き合ってみる事にしたのでした。
「かたじけない! 感謝するぞ、陽!」
10月のある秋晴れの研究学園都市で。
こうして私は、自分の人生を大きく変える事になる、不思議な少女と出会ったのでした。