Episode7 「肝心なパーツ」
2日後。佳代子が地下室に戻ると、勇気は相変わらず設計書とにらみ合いながら機械をいじっていた。
「勇気君、夜ご飯を持ってきたわ」
佳代子がそう言うと、彼はうつろな目で顔を上げた。その目は赤く充血している。
「ああ、どうも佳代子さん……」
「もう……勇気君、ちゃんと睡眠をとった方が良いわ。丸2日も寝てないじゃない」
近所のコンビニエンスストアで買った弁当が入ったビニール袋を差し出しながら、彼女は言った。
「すいません……あと少しで一区切りつくんですけど、ちょっと詰まっちゃってて……」
彼は弁当を受け取りながら、テーブルの上に置かれた作りかけのガントレットに目を向ける。
「凄い……もう結構出来上がってるじゃない」
佳代子は驚きの声をあげた。銀色のボディが美しいそのガントレットは、近代的でシャープな造形をしている。全長は40cmほどであまり派手なディテールはなく、成人男性が装着するにはちょうどいい大きさだ。所々からカラフルな配線コードが飛び出てはいるが、かなり形にはなっていた。
「ええ、もう少しなんです。でも、肝心なパーツが無い事に気付いて……」
「肝心なパーツ?」
「はい……ネオアークエナジーです」
佳代子は首を傾げる。
「どういうこと?」
勇気の視線は、ガントレットの横にある設計図に移った。
「この設計図を見る限り、サンダーフィストに使われているネオアークエナジーは僕たちが知っているものとは形状が異なります。通常は球体の形をしているんですけど、このサンダーフィストにはなぜか円盤状のものが用いられているんです。こんなもの、どうやって作ればいいんでしょうか……」
「うーん……」
彼女は機械的な話はさっぱり理解できなかったが、とりあえず辺りの棚を見回してみた。そこかしこにネオアークエナジーの試作品のようなものが保管されているが、どれも球体の形状をしている。
「……とりあえず、今は明日のことを考えなさい」
「……明日のこと……?何かありましたっけ……?」
勇気は眠たそうに目をこすりながら言った。
「もう、やっぱり聞いてなかったのね?明日は、横島さんの新社長就任記念パーティーよ」
「ああ……そういえばさっきそんなこと言ってましたね……すみません、作業に集中してて」
佳代子はため息をついた。
「はぁ……まあいいわ。とにかく、その弁当を食べたらお風呂に入って、ちゃんと眠りなさい。明日のパーティーにはマスコミも大勢来るはずよ。そこに前社長の息子であるあなたがいなかったら、騒ぎになってもおかしくないわ」
「……はい、そうですね……」
すると勇気は、両手で弁当を抱えたままうつむいた。佳代子はそれを心配そうな表情で見つめる。
「ねえ、勇気君……社長の殺害に関わったかもしれない男と会うのが、辛いっていう気持ちはわかるわ……。でも、行かないと……」
「……はい……もちろん、わかってます……」
彼は苦虫を噛み潰したような表情で言った。
その声は、ひどくか細いものだった。