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Episode19 「二対一」

 強化外骨格「ネアス」を身にまとった二人の動きは、見た目に似合わず機敏であった。勇気がひげ面の男が出してくるパンチを避けると、今度はメガネの男が足元を狙って蹴りを入れてくる。


「うおっと!」


 勇気はきりもみするような形で、後方宙返りをした。普段であれば絶対にできない動きだが、右腕のサンダーフィストの力で強化された筋肉が、不可能を可能にする。


 次に彼は勢いよく体をひねりながら、メガネの男に正拳突きを繰り出した。だが、その拳はネアスの固い装甲によってガードされる。


「まだだ!」


 勇気は負けじとガントレットから青い電流を放出させた。驚いたメガネの男が、さっと後ろに跳んで距離をとる。あまり電撃のダメージは受けていないようだ。


「なんなんだ?あいつの腕の武器は」


「わからん。とにかく、早急に倒すべきだ」


 すると今度は、ひげ面の男がアメフト選手よろしく肩を前面に出して突っ込んできた。外骨格に包まれた体の全体重を利用してのタックルだ。まともに喰らえば、いくらサンダーフィストを装着している勇気でもただでは済まない。


「ふんっ!」


 勇気は勢いよく前方にジャンプし、タックルしてきたひげ面の男を跳び越えた。勢い余った相手はそのままコンテナに爆音とともに突っ込むが、すぐに体勢を整えて再び勇気目がけて襲い掛かってくる。それと同時に、メガネの男も左ストレートを繰り出してきた。


「クソッ!」


 勇気は右腕を高く掲げ目を瞑り、サンダーフィストの出力を瞬間的に最大まで上げる。手の甲のネオアークエナジーがまばゆく光った。


「なんだ!?」


「うお!」


 唐突なフラッシュによって、敵二人は目の前が真っ白になる。目くらましに成功した勇気は、そのままひげ面の男の眉間目がけて強烈な回し蹴りを放った。ビュンという風を切り裂く音とともに、その蹴りは鋭く命中する。


「っ!」


 ひげ面の男がたまらず後ろに吹き飛び、コンテナの壁にぶつかった。鉄と鉄の激しくぶつかる音が、夜の貨物船にこだまする。だが、ひげ面の男は立ち上がった。


「くそ!しぶといなあんたら!」


 少し息切れしてきた勇気が叫ぶ。


「へへ!このスーツの性能を舐めてもらっちゃ困るぜ」


 メガネの男が不敵に微笑みながら、じりじりと勇気に歩み寄ってくる。


「……」


 この危機的状況で、勇気は頭をフル回転させて考えた。おそらく、ネオアークエナジーの出力的にはネアスよりもサンダーフィストの方が圧倒的に上である。そのため一対一であれば勝ち目がある。しかし、コンテナに囲まれた狭い空間で、かつ二対一という状況では、長期戦になった際に確実に負けてしまう。


 しかもこちらはサンダーフィストの助けを借りているとはいえ、戦闘経験がかなり浅い。対して敵の二人は間違いなく手練れだ。何か状況を打開する手立てはないものか。


 勇気が考えていると、後方からせわしない足音が複数聞こえてきた。


「今度は何だ?」


 彼は敵二人とうまく距離を取りつつ後ろを振り向く。そこからやって来たのは、三人の警備員であった。先程逃した一人が、入口の警備をしていた二人を応援に呼んで戻ってきたのだろう。その三人がきびきびとした動作で拳銃を構え、勇気に向けた。


「そこの君!両手を上げてこちらへ来なさい!」


 警備員の一人が声をあげる。


「おいおい、こんな時に!」


 勇気はすかさず、渾身の力で踏み込み真ん中の警備員の懐へもぐりこんだ。この圧倒的脚力も、当然サンダーフィストの補助があって初めて成り立つものだ。


「なにっ!?」


 恐ろしいスピードで接近してきた勇気に呆気にとられる警備員。その隙を逃さず、彼はガントレットで相手のわき腹にちょこんと触れた。


「うがぁ!」


 触れられた警備員の体内を強烈な電流が駆け巡る。手にした拳銃の引き金に指を掛ける間もなく、彼は痙攣しながら倒れた。


「なんなんだこいつ!」


「撃て撃て!」


 残された二人の警備員が引き金を引こうとする。勇気は素早く反応して、高くジャンプした。


 そして鳴り響く複数発の銃声。


 だが、勇気にはかすりもしない。彼は器用にコンテナの壁を蹴りながら相手二人との距離を詰めると、前方宙返りをしながら右側の警備員の鳩尾をキックした。凄まじい慣性とともに繰り出されたその跳び蹴りに、相手はなすすべもなく倒れ込む。勇気はゆっくりと立ち上がると、フードの下から最後の一人となった警備員を睨み付けた。奇しくも、その警備員は先程勇気が取り逃がした人物だ。


「ちくしょう!ちくしょう!」


 彼は少し涙目になりながら拳銃を前に向けるが、その時既に勇気は眼前にはいなかった。


「なっ……」


 唖然とする警備員。


「じゃあな」


 勇気は、彼の後ろに回り込んでいた。そのまま右腕で警備員の首に手刀を入れると、彼は力なく地面に突っ伏した。


「さて……」


 勇気が警備員三人を倒すまでにかけた所要時間は、およそ15秒。だが、かなり体力を消耗していた。息を切らしながら彼が辺りを見回すと、そこには先程までの二人の敵がいなかった。


「……?」


 逃げたのだろうか。いや、ありえない。


「こっちだ!」


「!?」


 勇気が頭上を見上げる。強化外骨格に身を包んだ二人が、コンテナの上から勢いよくジャンプして肉薄してきていた。


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