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Episode18 「尋問」

 月明かりが照らすコンテナ船の甲板の上を、一人の警備員が懐中電灯片手に歩いていた。周りは茶色のコンテナだらけで暗いため、懐中電灯の明かりがなければ一寸先も見えないだろう。


「……ん?」


 警備員の男が自分に割り振られた巡回ルートを歩いていると、前方で誰かが倒れていることに気付いた。彼は懐中電灯で前を照らしながら慎重に進む。


「……お、おい!おい!大丈夫かお前!」


 彼の眼前でコンテナにもたれかかるように倒れていたのは、青い制服を着た同僚の警備員であった。


「……う、嘘だろ……」


 しかも、一人ではない。懐中電灯の明かりで周りを照らしてみると、そこには三人の警備員が倒れていた。つまり、コンテナ船の甲板上を巡回していた自分以外の警備員が、全員何者かによって倒されたということである。


 彼は慌てて倒れていた警備員の一人に駆け寄り、右腕に触れて脈を確かめる。


「……良かった……ただの気絶か……」


 同僚の無事を確認した彼は、胸ポケットからトランシーバーを取り出した。入り口を警備している二人の警備員を応援として呼ぶためだ。


 だがその瞬間、後ろから声がした。


「待て」


「!?」


 驚きで心臓が飛び上がりそうになりながら、警備員は後ろを振り返った。そこには、一人の男が立っていた。青いフードを目深にかぶっており、右腕に装着された銀色のガントレットのようなものが一際目を引く。どこからどう見ても、不審人物だ。


「なっ……!」


 警備員は叫び声を上げようとするが、目の前の男の動きは素早かった。目にも止まらぬ速さで警備員が左手に持っていたトランシーバーを蹴り上げる。そして男はそのまま接近してきて、ガントレットに包まれた右腕で警備員の口をふさいだ。当然警備員の方もそれなりに護身術を身に着けていたが、まったく手も足を出せなかった。


 フードの男は凄まじい力で、警備員をコンテナに向けて投げつける。したたかに背中をぶつけた警備員は痛みに悶えた。


「一つだけ教えろ」


 警備員の前で仁王立ちしたフードの男が、口を開く。


「……な、なんだ」


 命の危険を感じた警備員は、反撃する素振りを見せず息も絶え絶えに応じた。


「ここに、今朝倉庫から盗まれたというパワードスーツはあるか?」


 フードの男が聞いてくる。勿論心当たりはあったが、答えるわけにはいかない。


「……何のことだ」


「白を切るな」


 そう言うと、フードの男は右腕で警備員の首を掴み上げ、コンテナに押さえつけた。ガントレットの冷たい感触が警備員の首を圧迫する。


「早く言うんだ。俺だってあまりこういう事はしたくない」


 ガントレットにこもる力が少しずつ増していく。


「な、なんなんだこの力は……」


 ガントレットの拘束を外そうと必死にもがくが、フードの男の右腕はびくともしない。むしろもがけばもがくほど、次第に呼吸が苦しくなってきた。


「……わ、分かった……分かった、言うよ……」


 雀の鳴くようなか細い声で、警備員は答える。それを聞いて、フードの男が右腕の力を少しだけ弱めた。しかし決して拘束は外さない。


「よし、言うんだ。だが絶対に大声をあげるな」


「あ、ああ……ああ……言う、言うよ……」


 心底つらそうな表情で警備員は言った。


「よし、ネアスはどこにある?」


「ね、ネアスは……あのパワードスーツは……お前の、後ろだ……」


「何?」


 その瞬間。


 フードの男の背後に置かれたコンテナから、轟音が響いてきた。彼はすかさず警備員の首から手を離し、後ろを振り返った。


「何だ一体……」


 目の前のコンテナがドシン、ドシンと振動し、その度に鋼鉄の壁に亀裂が入る。


「これはまずいな……」


 フードの男が身構えた。その隙に警備員が逃げ去っていくが、そちらに構っている余裕はない。


 徐々に、コンテナの中から聞こえる轟音が大きくなってきた。壁に入った亀裂も広がっている。


 そして、数秒後。爆音とともにコンテナの壁がすさまじい勢いでぶち破られ、中から二人の男が出てきた。


「こいつは……」


 フードの男――勇気が驚きの声を漏らす。中から出てきた男たちは、どちらもパワードスーツを体に装着していた。背中のバックパックから伸びる鋼鉄のフレームが、装着者の腕部と脚部を覆っている。間違いない、ネアスだ。しかも、先日パーティーで発表されていたものとは形状が若干違う。全体的に、よりマッシブで兵器的な重みを感じさせるデザインだ。


「さて、仕事だ……」


「侵入者め、覚悟しろ」


 そう口々に言う二人の男は、どちらも軍人の様に屈強な体をしていた。一人はひげ面で、もう一人はメガネを掛けている。明らかに、二人とも戦い慣れしているような風貌だ。


「おいおい、普通に扉から出てきてよかったんじゃないのか?」


 冷や汗を流しながら、勇気は軽口を叩いた。二人の男がニヤリと笑う。


「俺達もネアスを装着して戦うのは初めてなんでな」


「少し、準備運動がしたかったのさ」


 強化外骨格に身を包んだ二人の男が、静かにファイティングポーズを取った。胴体プロテクター中央のネオアークエナジーが青く輝く。


「はぁ……くそ……」


 小声で悪態をつきながら、フード姿の勇気も戦闘態勢に入る。威圧するように前に突き出したサンダーフィストが、相手に負けじと手の甲のネオアークエナジーを光らせながら、青い電流をバチバチと散らした。


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