Episode14 「路地裏の戦い」
午後8時、暮明町の繁華街から少し外れた路地裏にて。一人のサラリーマンが、三人の不良グループに囲まれていた。
「な、なあ、頼むよ。見逃してくれ……!」
切れかけの街灯がちかちかと点滅する狭い通路。その通路の壁によろよろともたれかかりながら、およそ40台とみられるサラリーマンの男性がそう言った。なんとも弱弱しい口調だ。
「なあおっさん、俺達も別に喧嘩がしたいわけじゃないんだ。ただちょこっとだけ、遊ぶお金が欲しいだけなんだよ」
不良の内の一人が、ニヤニヤ笑いながら言う。これは誰が見ても「たかり」というものだとわかる。しかし夜の路地裏には、彼ら以外に通行人などいなかった。
「も、もう俺には金がないんだ!勘弁してくれ!」
サラリーマンの力ない声がこだまする。
「おいおい、じゃあ無理やり奪うしかないか……?」
「へへ、力ずくっていうのはあんまり好きじゃねぇんだけどなぁ」
その言葉とは裏腹に、不良たちの顔はとても楽しそうだ。小さな子供が道端のありをいじめて殺すのとはまた違う――そういう無邪気さではなく、明らかに邪悪な魂胆が見て取れる。
「や、やめてくれ……やめて……」
サラリーマンは声を震わせながら懇願した。不良たちがその光景をあざ笑う。
「へへへっ」
「……おい、どうする?」
「決まってんだろ……こうすんだよ!」
不良の一人が、おもむろに拳を振り上げた。そのまま勢いよくサラリーマンの顔に殴りかかる。
「ひぃっ!」
怯えたサラリーマンが顔を伏せた。
だが、不良の拳は無様にも空を切る。
「……へ?」
決して、サラリーマンがパンチを避けたのではない。その一瞬に何が起こったのかを不良が完全に理解した瞬間には、もう遅かった。彼の身体は、凄まじいスピードで後ろに引っ張られていたからだ。
「うがっ!」
後ろの壁に激突した不良が、カエルがつぶれたような声をあげて気絶する。
「……な、なんだ!?」
「おい、大丈夫か!」
残された二人が、焦った顔で後ろを振り向いた。だが、そこには完全に意識を失って壁にもたれかかる不良しかいない。
「い、一体誰が……」
突如襲い掛かってきた謎の襲撃者に混乱する二人。状況に取り残されたサラリーマンは、ただただ怯えたまま体をうずくませることしかできなかった。
「おい!どこに行きやがった!」
「とっとと姿を現しやがれ!」
口々に叫ぶ二人の不良の声が、夜の路地にむなしくこだまする。
「くそ、なめやがって……!」
そう言うと彼は、懐からナイフを取り出した。
「おい、刃物は流石にまずいんじゃ……」
「うるせえ!舐められたままやられてたまるか!」
言い合いになる二人組。その瞬間、先程からちかちかと点滅していた街灯の明かりが完全に切れた。路地裏が完全な暗闇に包まれる。
「おい!明かりは持ってねぇか!」
ナイフを握りしめた男が言った。
「す、スマホならあるぜ!」
仲間の男がそう答えると、懐からスマートフォンを取り出す。
「……これで見えるか?」
男がスマホの電源を付け、ほのかな光を発する画面を前に向けた。その瞬間。
「よう」
「!?」
彼が明かりを向けた先には、一人の男が立っていた。突如眼前に現れた男は青いパーカーを着ており、フードを目深にかぶっているため顔が見えない。
だが、1つ特徴的な部分があった。右腕だ。右腕に何やらガントレットのような、銀色の機械を装着している。
「なんなんだてめえ!」
ナイフを持った不良が激昂しながら襲い掛かる。その瞬間、フードの男が正拳突きを繰り出した。ガントレットに包まれた鋼の拳が、その不良の鳩尾に当たる。
「なっ!?」
想像を超える衝撃が彼を襲った。その正拳突きはもはや、常人が繰り出すそれとは一線を画している。なぜこれほどのパワーを出すことが出来るのか。そんな混乱を抱えたまま彼は吹き飛び、壁に頭を打ち付け気絶する。
「あ、ああ……」
わずか数秒で一人になってしまった最後の不良は、恐怖に支配されその場から動けずにいた。
「さて、と……」
フードの男が振り返る。焦った不良はスマホを地面に落とし、後ずさりした。落ちた衝撃でスマホのライトが消え、路地裏が再び暗黒に包まれる。
うずくまっていたサラリーマンが、顔を上げた。すると暗闇の中に突然、青い稲妻がほとばしる。そして、ドサリ、と人が倒れる音がした。
「い、一体何が起こったんだ……」
サラリーマンが茫然とした表情で呟く。数秒後、街灯のライトがジジ……と死にかけのセミのような音と共に明かりを取り戻した。しかし奇妙なことに、サラリーマンの目の前には、意識を失って突っ伏す三人の不良以外には誰もいなかった。




