Episode11 「完成」
午後7時。私服に着替えて宮田邸の地下室に戻ってきた勇気と佳代子は、神妙な面持ちで立ったまま話し合っていた。
「父さんは、あのスーツの存在を知っていたんだ。そしてあれを破壊するために、サンダーフィストを設計した」
「ええ、そうね。おそらくあのネアスを警察に通報したとしても、表向きは医療用の人体支援スーツとして開発されているものだから、取り締まる事が出来ない……」
「くそっ!まさかもうあそこまで完成しているなんて!僕も早くサンダーフィストを完成させないといけないのに!」
勇気が、珍しく焦燥感をあらわにしながら言った。その顔には苛立ちの色が浮かんでいる。
「落ち着いて、勇気君。ここで焦っても、事態は良い方向には進まないわ」
佳代子は冷静さを崩すことなく、彼をなだめた。
「すいません、佳代子さん……とにかく、このサンダーフィストに使われている円盤状のネオアークエナジーを作る方法を見つけないと……」
勇気は作業台の上に置かれた作りかけのサンダーフィストを拾い上げ、深刻な表情で見つめる。現在この部屋に保管されているネオアークエナジーの試作品は、全て直径8cmほどの球体である。このガントレットにぴったりとはまるような円盤状のものは、どこにもない。
「……あまり根を詰めてもしょうがないわ。とりあえず、コンビニに夜ご飯買ってくるわね」
「ああ、はい。お願いします……」
そして佳代子は、すたすたと地下室の階段を上がって夕飯を買いにいった。
「はあ……」
一人残された勇気は、ため息をつきながら傍らの椅子に深々と座った。背もたれがギシギシと鳴る。
「父さん……教えてくれ……僕はどうすればいいんだ……」
そうぼんやりと呟きながら、頭の後ろで手を組み、天井を見上げた。
「……父さん……」
遺言の映像に映っていた、厳格な父の表情を思い浮かべる。彼はあのビデオの中で確かに、「お前に最後の希望を託す」と言ったのだ。だからきっとこの部屋のどこかに答えはあるはずだと、勇気は確信していた。
「……ん……?」
ライトに照らされた真っ白な天井を見つめていると、唐突に、彼の脳裏を電流が駆け抜けていった。
「……!」
圧倒的な確信。間違いない。「あれ」が、そうだ。
「……そうか……そういう事か……ふふっ……」
全てに合点が言った瞬間、自然と笑いがこみ上げてくる。
「父さん……これは……これは、いくら何でも……ははっ、用心深すぎるだろ!」
勇気はさも愉快そうに笑いながら、勢いよく椅子から立ち上がった。先程までの苛立ちの色は完全に消え失せ、雨上がり後の空のように晴れ晴れとした表情をしていた。
10分後。佳代子が弁当の入ったビニール袋を持って地下室に戻ってくると、奇妙なことに部屋には電気がついていなかった。
「……勇気君……?」
恐る恐る彼女が声をあげると、暗闇の中から返事がした。
「お帰りなさい、佳代子さん……」
その瞬間、佳代子の目の前でまばゆい光が発せられる。
「な、なに!?」
彼女は驚きながら、その光から目を背けた。
「ああ、すいません。ちょっと出力が大きすぎましたね……」
部屋に響く勇気の声。するとその光は徐々に小さくなっていき、最終的には半径5mを照らす程の明るさになった。
「佳代子さん……完成しましたよ!」
佳代子はちかちかとする目で前を見つめる。光の発生源は、どうやら勇気の腕の部分のようだ。
「勇気君……それ、まさか……」
「はい……サンダーフィストです!」
銀色に輝く鋼鉄のガントレット。近未来的でスマートなディテールのそれが、勇気の右腕に装着されていた。手の甲でまばゆい光を発しているのは、円盤の形状をしたネオアークエナジーである。
「そのネオアークエナジー……一体どこにあったの?」
佳代子は戸惑いながら疑問を口にした。
「ふふ。ずっと、僕たちの近くにあったんですよ」
勇気はガントレットに覆われた鋼鉄の拳を握りしめながら、ニッコリと微笑んだ。




