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Episode1 「会見」

 午前10時。だだっ広い部屋の中でソファに座りながら、宮田勇気はうつろな目でテレビを眺めていた。窓のカーテンは全て閉めきられているため、午前中にも関わらずその空間は薄暗い。テレビの画面には、でかでかとした字で「独占生中継」と書かれている。そして画面中央にいる一人の男性が、声を発した。


「みなさん、初めまして。私がこの度宮田コーポレーションの社長に就任した、横島健吾です」


 安定感のある声がテレビのスピーカーを通して部屋に響く。その瞬間、猛烈な勢いでカメラのフラッシュがたかれる。光の点滅に軽く目を傷めながら、勇気はテレビを見つめ続けた。


 横島健吾、34歳。短く清潔に整えられた黒髪と、年の割に若く見える色白で端正な顔立ちが特徴的な、いかにも好青年といった風貌の男性だ。彼は今黒いスーツに身を包み、たくさんの記者に囲まれながら会見を行っている。


「今後の弊社の展望についてですが……私はまず、前社長である宮田信弘氏の意思を継ぎ、ネオアークエナジーの開発予算を大幅に引き上げることを決定しました」


 再び、カメラがフラッシュをたく。記者の一人が手を挙げた。


「健吾さん、そのネオアークエナジーというものの具体的な使用目的を、ここでお教えいただけますでしょうか」


 記者の質問に、健吾は力強く頷く。


「いいでしょう。まず初めにネオアークエナジーとは、前社長の頃から宮田コーポレーションが全力を注いで開発を行ってきた新世代エネルギーのことです。大きさは直径8cmほどの小さな球体ですが、そこから膨大なエネルギーを得ることができます」


 彼はここで一拍を置いて、続けた。


「このネオアークエナジーを使用すれば、世界中が直面しているエネルギー問題を解決することができます。原子力発電や火力発電よりも環境に安全で、かつ風力や太陽光と言った自然エネルギー発電よりも効率的な電力供給を可能にするのです。形状もコンパクトですから、設置にスペースを取ることもありません」


 ネオアークエナジーを完成させて、世界のエネルギー問題を解決する。それが勇気の父親である信弘の口癖であった。だが、彼は4か月前に亡くなってしまった。車に乗って帰宅している最中に、突如彼の車が横転したのだ。しかしその事故の目撃者が一人もいなかったため、現場の被害状況から「不注意でガードレールにぶつかって横転した」ということで捜査は打ち切られてしまった。


 だが、勇気は納得していなかった。信弘は父親としても社長としても非常に厳格な人物だったからだ。そんな父が不注意で事故を起こすということが、彼にはどうしても信じられなかった。


「……それでは会見はまだ途中ですが、ここで通常の報道に戻ります」


 勇気が考えにふけっていると、番組が中継を終え、普段のニュース報道のコーナーに戻っていた。


 そして番組では今日もいつもと同じように、大して興味もないタレントや政治家の不倫報道を特集している。ニュースレポーターやコメンテーターが、赤の他人である人々のプライベートについて、ああでもないこうでもないと言いあっていた。勇気はテレビのリモコンを手に取って、電源を消す。


 部屋が静寂に包まれた。


「はあ……」


 彼はため息をついた。この豪邸に住んでいる人間は、とうとう一人だけになってしまったのである。勇気は小さい頃、厳格な父と優しい母の3人で何の不自由もなく暮らしていた。しかし勇気が6歳の時に、ガンで大好きだった母親を亡くしてしまった。その時のことはあまり覚えていないが、ただ、泣き続けていた記憶だけが残っている。


 そしてその日から父と2人で生活をしてきたが、それも4か月前に終わってしまったのだ。この家を売り払ってしまおうかと考えた事は何回もあったが、思い出が詰まった場所を手放したくないという考えが後を引き、今に至っている。


「……買い物でも行くか……」


 その日は、まだ何も口に入れていなかった。近所のスーパーに何か食べ物を買いに行こうかと立ち上がったその瞬間、彼の傍らに置いていたスマートフォンが着信音を鳴らした。少しビクリとしながら、勇気は電話に出る。


「……はい、もしもし」


 彼の耳に聞こえてきたのは、懐かしい女性の声であった。




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