厄日
どうも初めまして、新と申します。
読もうと思ってくれた方には感謝しかありません。
素人の拙い作品ですが、どうぞよろしくおねがいします。 2019年現在、一度改稿させて頂いています。前よりもっと面白く、文章もマシになっていると思います。よければ読んでいってもらえるとありがたいです。それでは、どうぞ。
俺、風祭仁は今途轍もないピンチに陥っている。
高校の休日になんとなく母さんについて来ただけなのだが、最悪なことに巻き込まれた。
「さっさと床に伏せて手を頭の上に置け!」
銀行強盗だった。覆面を被った男たちは、銃を天井に発砲しながらそう叫ぶ。
ドラマとかでよく見るけど、本当にこのセリフ言うんだなー。
俺は言う通りに床に伏せ、手を頭の上に置く。撃たれたくないもん。痛いのは嫌いだし。
ていうか撃たれたら絶対死ぬ。人間そんなに体が丈夫にできていないし、よくて失血死?
……ここの銀行には悪いけど、大人しくお金を盗まれてくれ!
俺は伏せながらチラリと横を見た。横には母さんがいる。母さんも床に伏せていて表情は見えないが体は震えていた。怖いのだろう。当たり前だ。もちろん俺だって怖い。
けど、今はあいつらの言う通りにしないと最悪の事態になる。そもそも俺が銃を持った三人に勝てるわけがない。うむ。空手を十年ほどしてるけど、流石に銃には勝てない。
俺はそんなことを考えながら床に伏せていた。
――突然、その思考を遮るような泣き声が伏せている客たちの前方から聞こえてきた。
「おかあさーーーん!」
五、六歳くらいの少女だ。母親を呼んで泣いていた。近くにいなかったのだろうか? と思ったら後ろから掠れた声が聞こえてきた。
「まりちゃん……!!」
どうやらこの後ろにいる人が母親らしい。後ろを振り向いて確認できないが、焦ったような声だから間違いないだろう。
「おかあさん、どこーっ!?」
少女は泣き叫びながら母親を探してキョロキョロしていた。
すると、強盗の一人が叫びだす。
「うるせぇぞガキ! 静かにしねぇとぶっ殺すぞ!」
「おい。子供相手にキレるなよ」
「そうだぞ。たかが子供だろ?」
残りの二人が叫んだ男を宥めていた。だが、少女は泣き止まない。
すると叫んだ男の体が震え始めた。その様子を伏せながらギリギリ見えていた俺はマズいと思った。
あの震え方は怒りが爆発する寸前だ。頑張って宥めてくれ! お仲間さん!
「お゛か゛あ゛さ゛ーん゛!!」
少女の泣き声がさらに大きくなった。
声が移動しているので、どうやら歩いているらしい。
くそっ。伏せてるから耳でしか情報得られねぇぞ。これ以上顏をあげると危ないか……?
と考えていたその矢先、さっき叫んでいた男の怒声が響き渡った。
「もう我慢できねぇ! 俺が一番嫌いなのはガキの泣き声なんだよ! びーびーうるせぇぞクソガキ!」
そう叫ぶと、少女に銃口を向けた。
その様子を見ていた俺は目を見開く。
おいおい、マジかよ……。
「いいか!? 今すぐ黙らねぇとこの銃で撃ち殺すぞ! あぁ!?」
覆面の男は少女に向かってそう言い放った。
少女は二回の怒声でビックリしたのか、涙目で声を出すのを我慢していた。
子供ながらに銃の危険性を理解してるらしい。それを見て男は銃を下げた。
少女の方は見えないが、泣き声が聞こえないのなら大丈夫だろう。
そう思った矢先に、泣き声が響いた。
「お、お゛か゛あ゛さ゛ーん゛」
どうやら我慢の限界が来ていたらしい。
俺だって怖いんだ。小さな少女が怖くないわけがない。
そして、恐れていたことが起きる。
「……ああ、うるせぇなぁ。死ねよ」
男は無機質な声でそう言うと、銃を構えた。
――咄嗟に俺の体は動いた。
「!? てめぇ床に伏せ……ぐぼぁ!」
気づけば俺は覆面の男を殴り飛ばしていた。
やっちまった……。殴った拳を見ながら冷や汗をかく。
俺は頭を抱えそうになったがそんなことしてる暇はない。
「なんだお前は!?」
「よくもてめぇ!」
男たちは俺に向かって怒声を放ち、銃を向けてくる。
俺は慌てずさっき殴って気絶している男を盾にした。
どうだ? 仲間を撃てまい。ふっふっふ。我ながら最低だな、俺。
そのまま盾にしたまま俺は男たちに近づいていく。
っていうか重いな! やっぱ映画みたいにはいかねえ!
早いとこあの二人をぶちのめさないと腕が持たねぇ!
俺はそう思うと、盾にしている男を投げた。
「「!?」」
銃で撃つのを躊躇っていた間、突然投げられた仲間に意表を突かれた男たちはモロに食らった。
「ぐっ…」
「……!」
男たちは後ろに転倒した。その隙を逃さず、俺は片方の男に蹴りをぶち込んだ。
体重が乗った蹴りは男の意識を刈り取るのに十分なようだった。
男が気絶したのを確認した俺は軽くステップを踏んで方向転換し、もう片方の男に迫る。
「く、くるな!」
既に立ち上がっていた男は銃を俺に向かって構えていた。
だが、俺のスピードの方が速い。俺は銃に届く距離で足を止め、右足で回し蹴りをした。
銃身に俺の蹴りが当たり、横の出口に転がっていった。
回し蹴りをした反動で俺の体は右に回転する。そのまま回転して左足で後ろ蹴りを男の腹にぶち込んだ。
「げぼぁ……」
男は胃液を吐きながら前かがみに倒れていった。
俺は伸ばしていた足を元に戻し、額の汗を拭った。
「ふぅー……死ぬかと思った」
我ながら情けない声が出た。
その声が合図になったかのように、周りから歓声が起こる。
「兄ちゃん! すげぇな!」
「今の凄い動きでしたね!」
「子供を助けるたぁかっこよすぎるぜ!」
俺を次々と誉めたて、お礼を口々に言う周りの人達。
突然上がった歓声に俺はビックリして目を丸くした。
子供を助けたのは遂体が動いただけだし、あんなにうまくいくとは俺も思ってなかった。
お礼を言う人たちに返事を返しながら母さんの所へ戻っていく。
戻る途中、袖がクイッと引かれた。
振り返って見ると、さっきの少女とその母親がいた。
「おにいちゃん、ありがとう!」
「本当に、ありがとうございました……!」
どうやらお礼を言いに来たらしい。母親は涙を流してお礼を言ってくる。
その様子に照れくさくなる。そして少女の方を見て、俺はその子の頭を軽く撫でてこう返した。
「おう。もうお母さんと離れたらダメだぞ?」
「うん!」
少女は笑顔になって頷いた。
それに満足した俺は母さんの所へ歩いていく。
と思ったら母さんから近づいてきてくれた。
「母さ……ぶっ!」
「このバカッ! 撃たれたらどうするの!? 死んじゃうのよ!? 私が一人になってもいいの!?」
近づいてきた母さんにビンタされた俺は目を瞬かせる。
――母さんは一人で俺を育ててくれた。父親は俺が幼いころに亡くなったらしいが、よく覚えていない。
ただ、母さんが独りで泣いていたのは覚えている。その姿を見て当時の俺は『守りたい』。ただ、漠然とそう思った。そのために俺は空手を習い始めた。別に守るためならなんでもよかった。それが空手だっただけだ。
近所の爺さんに空手を習っていたのだが、昔は有名な空手家だったらしい。今は小うるさい爺さんにしか思えないのだが。
その爺さんに俺はみっちりと鍛えられて、今の俺がいる。普通の高校生よりは強靭な肉体。成人男性なら打撃を喰らわして一撃で気絶に持っていけると、自負している。
その俺なんだが、今体が倒れそうになっている。
母さんに初めて殴られた。いや、ビンタだけど。
そのことに衝撃を受けてビックリしていた。
だが、倒れる前にちゃんと足で体を支える。精神的なことだったため、特に問題なく踏ん張れる。
「……ごめん、母さん。咄嗟に体が動いたんだ。ホントにごめん」
俺は素直に謝った。咄嗟の行動とはいえ、上手くいく保証なんてなかった。
確かに無茶だったかもしれない。だけど結果、少女を助けられた。
それに俺は満足している。
「……私は、あなたを失ったら生きていけないの……。子供を助けたことは誇りに思ってもいいわ。だけどね、ちゃんと考えて行動しなさい。じゃないといつか身を滅ぼすわ……私が言いたいのはそれだけ」
「母さん……」
泣きながらそう言い終ると、俺は悲しい気持ちになって顏を伏せる。
すると、頬に母さんの手が当てられる。
「けどね、よくやったわ。流石母さんと父さんの息子よ。 私は誇りに思うわ」
まだ目に涙が残っているが、柔らかい笑顔を俺に向けてくれた。
それだけで俺の悲しい気持ちは吹き飛ぶ。
「うん。とりあえず警察を呼ぶよ」
そう言って俺はポケットからスマホを取り出し、警察に電話をかける。
コール音が数回鳴り、繋がる。そして男性の声が聞こえきた。
『はい、○○署です。どうしましたか?』
「すいません。○○市の○○銀行で強盗が」
そこまで喋ると、背後から物凄い音が聞こえた。
俺は振り向いて音が聞こえたほうを見た。
そこには、最初に気絶させた男が上半身だけ起き上がらせて俺に向かって銃を向けていた。
「て、てめぇのせいで俺達は……」
その向けられた銃の銃口から薄い煙が出ていた。
次に気づいたのは、俺の胸の違和感だ。妙に熱い。なんだ?
ゆっくりと俺の胸を見た。中心より左に小さな穴が開いていた。
そこから、赤い液体が流れでている。――血だった。
……は?
手に持っていたスマホが落ちる。全てがスローモーションに見える。
「そいつを抑えろ!!」
一人の男性がそう口にすると、次々と銃を持った男に飛びかかっていく。
銃は取り上げられ、うつ伏せに抑えられた。
「あ、ああ……仁! 仁! あぁ……!」
母さんが俺の手を握ってまた泣いている。
気づくと、俺は倒れていた。口から血を吐き、呼吸が荒くなってくる。痛みよりも熱さが強い。
……本格的にヤバいなこれ。どうする? っていってもどうにもできないな。
そんなことを呑気に考える俺。だが、大事なことを忘れてはいけない。
「……母さん、大丈夫だよ。俺の体は丈夫だから……母さんを一人にしないよ……」
泣いている母さんに安心させるようにつたえた。
だが、徐々に俺の意識に靄がかかってくる。
当たり前だ。背中を撃たれて胸まで貫通してる。
あー……ヤバい。
「仁! すぐに救急車を呼ぶから……誰か! お願いします! 救急車を!!」
必至に周りに訴えかける母さん。慌てて周りの人達はスマホやガラケーを取り出して電話をかけていた。
だが、俺の意識はもう持ちそうにない。
悪いな、母さん。約束……言ったそばから破っちまうわ。
「かあ……さん」
俺は息絶え絶えに母さんを呼ぶ。
「どうしたの仁!?」
かなり声が小さくなっているのか、俺の口元に耳を近づけてくる。
もう、口が動かない。だけど、これだけ言ってから逝くぞ。
「……愛してたよ」
それは物心ついてから十年間、ずっと思っていたことだ。
いつもは恥ずかしくて言えないけど今なら言えた。
それが俺の最期の言葉になった。もう口を動かす力もでない。
後はこの苦しい時間が終わるのを待つだけだ。
ゆっくりと、目を瞑った。
暗闇の中、俺の耳に母さんの言葉が聞こえてきた。
「私も……愛してるわ、仁」
その言葉に表情が和らぐ。
――しばらくして、俺の意識はこの世界から消えた。
誤字や脱字、おかしな部分は気づき次第修正します。
2018.9.10 読みやすいように改行や加筆しました。