才能の発見
朝、オレは起きた。体にキツさもだるさも感じない。風邪は治っている。ベットから降りて、体を軽く伸ばしたり、腰を回して背骨をボキボキ鳴らしたりしてから部屋を出てリビングへと向かった。
「父さん、母さんおはよう。」
「シン、風邪はもういいのか?」
「もう治った。」
「そうか、それならいい。移った人もいないみたいだしな。」
「そっか。よかった。」
「、、、アリシアお嬢様にはちゃんと礼を尽くせよ?」
「分かってるって。ちゃんと考えとく。」
「そうしておけ。あと今日は自分で体を動かしておけ、父さんも少し用事があってな。」
「分かったよ。」
父さんにそう答えてオレは朝ごはんに手を付ける。今日の朝ごはんはいつも通りのパンとオムレツ、そして昨日余ったシチューを少し変えてスープだった。当然おいしい。
朝ごはんを食べ終えたらまずはヴェルディベース家に仕える者としての仕事を済ませなければならない。昨日までは風邪で休んでいたが治ったからにはそうはいかない。オレに割り当てられている仕事は以下の通りだ。
午前中は井戸へ水を汲みに行き、洗濯の手伝いをする。洗濯を終えたらメイド長に今日のスケジュールを確認し、必要があれば手伝いをする。というかほぼ毎日なんかしら仕事はある。
昼を告げる鐘がなったら昼ごはんだ。主であるギルザールを初めとしたヴェルディベース家の人達が食べたらオレ達の昼ごはんがやってくる。メニューはだいたい決まっており、パンとチーズ、日替わりの一品だ。少し量が物足りないことを除けば特に文句は無い。どうしてもお腹が空いたらアリシアにお菓子を持っていくついでにアリシアに頼んで少し分けてもらっている。アリシアさんマジパネェっす。一生付いていきまっす!
昼ごはんの後は掃除が待っている。オレはメイド数人と一緒に書庫と玄関、それとアリシアの部屋に階段周りの掃除をする。玄関やギルザールの部屋、応接間などの重要なところはメイド長を始めとするエキスパート掃除チームが担当している。このエキスパート掃除チームはガチですごい。掃除したあとはリアルにピカピカのエフェクトが見えそうなぐらい綺麗になっている。
掃除が終わればオレはお役御免だ。アリシアと少し話したら家に帰る。他のメイド達も住み込みを除けば日が暮れる前に帰っているのでヴェルディベース家はなかなかホワイトだ。そしてオレにとってはそこからが本番だ。家に帰ってから1時間ほどすると父さんが帰ってくる。地獄の始まりだ。今日はその地獄は始まらずに済みそうだが、いつもならここから3時間ほど絞られる。今回は自主練となるのでそこまでするつもりはない。病み上がりだしね。
訓練用のレイピアを取り出し3.4日ぶりの感触を確かめながら固まっている筋肉をほぐしていく。息を整え集中する。
「シッ!!」
腕の力だけでなく、腰や肩も使って踏み込みと共に真っ直ぐレイピアを突き出す。真っ直ぐな軌道を描けた時に出てくる余波のようなもの。この感触がたまらなく好きだ。前世ではスポーツで得意なものなんて無かったけど今は違う。オレにはレイピアがある。普通の剣では無いのがやはり残念だが。
レイピアは切ることができない。つまり、『〜斬』や『〜切り』という中二心を燻るような技名を付けることが出来ないのである。実に残念だ、うーむ残念。
ちなみに補足しておくと現時点でオレはステータスを持っていない。なら何故オレには才能が開花しているのか。それには【スキル】と【称号】の在り方の違いが関係している。
まずは【スキル】、これはいわゆる特殊能力だ。持っている人は限られているし【スキル】はステータスによって授けられるのでオレには何の関係もない。
そして【称号】、こっちは誰もが持っている。【称号】はその人を表すものでもあるため、誰でも少なくともその人のことを表す【称号】を1つ絶対に持っているのだ。複数持っていることもよくある。
【称号】は基本的にあるだけでその能力も発現する。常に発現しているものと意識した時だけのもの、特定の状況下でのみ発現するものに分けられる。
そして今大事なのは【称号】はステータスが無くても存在しているということだ。ステータスは【称号】を表しているだけなのだ。つまりオレは今多分、少なくとも従者とレイピアに関する称号を持っているはずだ。
後、これは父さんに聞いた話だが最近は出なくなったがオレの髪の色が変わる現象。赤ん坊のころは泣くたびに色が変わっていたらしいが。これはもしかしたら【称号】が関係している可能性があると言うのだ。多分エルフに関するもの。母さんがハーフエルフだからかね。
いくら【称号】の恩恵があるといってもまだオレの腕前では2連突きが限界である。超有名な某VRゲームのヒロインを見てやってみた人はいるのではないか?オレはやりました。そして分かったんですよ。『突く』ということを連続でやるのは難しい。作中で出てきたような連撃は何か人外の力が働かないと無理なのである。異世界におけるアシストは多分ステータスがあるのでいつかはできるようになるだろう。そう願いたい。今度父さんに聞いてみるか。
ステータスの恩恵はかなり大きい。この世界では見た目で人を判断できない。極例だが小学生のようなロリっ子が自分よりも大きな岩を軽々と持ち上げたり、力士みたいな人がめちゃくちゃ早く反復横飛びできたりするのだ。見た目ではなくステータスがその人の能力を表す。
そのことを前提に考えると主ギルザールはなかなかチートな人材なのだ。父さんから聞いたが実はオレ達のいるヴェルディベース家の収めるヴェルディベース領はザオキール州の中でもかなり上位のほうに当たるらしい。ギルザールの称号である『真実を見極めしもの』は人の感情と能力の伸び代を見ることがでけるようになる称号だ。ギルザールは本当に忠誠心のある家臣を集め、適材適所で人に仕事を割り当てる。そのおかげでヴェルディベース領はここ数年で力をかなり伸ばしたらしい。
オレは素振り(?)をやめて今日新たに思いついた訓練を始める。まずは手頃な木を見つけないと。
オレがやろうとしている事、それは漫画やアニメでもちょくちょく目にするヤツだ。木の葉を落としてその葉っぱを利用して訓練をする。作中だと熱いキャラがやってたりするやつだね。
しかし、これやって見るとかなり難しい。木の葉は風を受けてヒラヒラとまるで嘲笑っているかのようにレイピアを避ける。葉っぱのクセに、、、
しばらくの間格闘していたが一向に上手くいく気配はない。木を蹴って揺らすのも辛くなってきた。次を最後にしようと意識を集中させて目を凝らすと不思議なことが起きた。視界が変わった。
視界に緑のフィルターがかかっている。それだけではない、落ちてくる葉っぱの動きがさっきより遅くなっているのだ。
(なんだこれ。けどこれなら!)
オレは落ちてくる葉っぱの動きに合わせてレイピアを突き出す。
ザクッ!ザクッ!
オレのレイピアは葉っぱのど真ん中を2枚貫いていた。なんだよコレ、、、
オレが驚いているともう一つの違和感が訪れた。
(あれっ?視界がゆがんでる?)
オレは気付くと足をもつれさせてその場に倒れていた。
(体に力が入らない、、、意識はあるのに)
オレはその後10分ほど倒れているとようやく動けるようになり、家に帰った。
その日からオレは父さんとの訓練のあとにこの練習をして、そのたびに倒れて父さんに運ばれた。
母さんはこの現象を知っていた。母さんの父、つまりオレの祖父が同じようなことができたというのだ。これエルフの遺伝子からでしたか。なら【称号】の可能性が高いな。
どうやらオレはエルフの遺伝子による才能にも恵まれていたらしいな。隔世遺伝ってやつか。
その日からもともと地獄クラスの父さんの訓練にエルフの力を生かすための訓練が加わった。
オレが死にかける回数が増えたのは言うまでもない。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
次ステータスもらいます。やっと異世界もの書いてる感じがでますね。
次話は出来次第朝か夜の9時に投稿します。
よければ評価等お願いします。