学院長
なろうコン始まりますね。
「面白そうなことしてるわね。」
まるで瞬間移動してきたかのように突如リングの中央にエメラルドの髪を靡かせ、とんがった耳を持つ長身の美女が出現する。
「が、学院長!」
教員の1人が声をひっくり返しながらその正体を明かした。
カーディナル女学院の学院長はその先のとがった耳が示しているようにエルフ族である。周りの教員達と比べても背が高く、そのスタイルは優美な長身のモデルのようだ。
「いつからいらしていたんですか?」
「そこの2人が融合魔法を打ち合ったところからかしら。」
「あ、やっぱりさっき魔法を弾いたのって学院長ですよね?」
「何のことかしら?」
「いや、ですから学院長がアリシア・ヴェルディベースさんが放った融合魔法を弾いたのではないのですか?」
「貴方たちはさっきの会話を聞いてなかったの?あの魔法を弾いたのはそこにいるなかなかイケメンの少年でしょ。」
「確かにそんなことを話していましたけど、なんというか、その、有り得ないなと、、、、あの魔法はかなりの威力だったので。」
「はぁ、そんな固定概念に囚われて物事を見ているようじゃまだまだね。私は何もしていないわよ。本当に」
「でもあの魔法を弾くには『昇華』していないと無理なのでは?」
昇華とは魔法のレベルが5から6になることを指している。この世界での魔法の最大レベルは実は未だに判明していない。魔法のレベルは使い続けたり、自身のレベルを上げていけばレベル5までは努力すれば上げられる。
しかし、レベル6になるのには「壁」が存在すると言われている。いくら努力を積み重ねてもレベル6にはなれない。レベル6になるには「偉業」を成し遂げる必要があると言われている。死地を乗り越えて強敵を打ち破る必要があるのだ。シンの場合は人類最強クラスの父親ハルトに傷を付けることで『昇華』している。
「あの少年が『昇華』していたってことよ。そうでしょ?暴君の子。」
学院長はシンに向かってウインクしながら尋ねてくる。
「その呼び方はあんまり好きではないのですが。まぁ確かに『昇華済みです。」
「そんなまだ子供なのにLv.5の壁を突破しているの?」
「なーに言ってんのよ。私が『昇華』してのはこの子よりも小さい頃だったのよ。そんな不思議なことじゃないわ。」
「学院長は規格外なんですよ。いくら天才だったとしもエルフ族でもない彼が突破するなんて、、、」
「あら?そうなの?けど、本当にそうなのかしら、ねぇ?」
学院長はシンの目を覗き込んでくる。
(まさかこのエルフ気づいてないだろうな…ありえない、ステータスも見てないからバレてない、はずだ。)
まるで見透かしているような自身の瞳をじっと見つめてくる学院長のエメラルドの瞳がシンに確信を持たせない。耐えられなくなり、学院長の目から視線を外す。すると学院長はシンの耳元でこう囁く。
「君がエンシェントエルフの末裔かな?」
シンはその一言にバッと振り向く。すぐさま冷静を取り戻し、
「なんのことですか?学院長」
「そうね。なんのことだろうね。」
学院長はその整った顔に無邪気な笑顔をのせて意味深なことを言う。
「ところでそろそろ決闘の判定はしなくていいのかな?」
「あ、そうでした。今回の決闘はアリシア・ヴェルディベースさんとミーナ・クルーエルさんの勝利とします。」
眼鏡の教員がそう宣言するとリングに描かれていた線が消える。それと同時に、
「あ、ありえませんわ!私が負けるなんて!私が!」
そこにはやっと正気に戻ったドリアーヌが頭を抱えていた。
「いいえ、今回の決闘でドリアーヌさんは敗者です。」
教員が揺るがぬ真実を告げる。
「どうしてですの?私はまだ1回も被弾していないのですよ!」
「確かに被弾はしていませんが先程の魔法の打ち合いの時にドリアーヌさんは魔力の枯渇で判定負けです。その証拠にあの時、動けなかったのでしょう?」
「そ、それは、、、」
ドリアーヌが口篭っていると、突然野太い声が響き渡る。
「ドリアーヌお嬢様が動けなかったのはそこの小僧が風魔法を使ったせいだろう!小僧が余計なことをしなければお嬢様は対処できていたに違いない!」
「は?」
声をあげたのはドリアーヌの護衛達の隊長をしているオッタム。
全く持ってひどい言いがかりである。あそこでシンがドリアーヌに迫っていた魔法を弾かなければ間違いなくドリアーヌは今頃ベットの上だろう。
「もともとそのような打ち合わせをしていたに違いない!アリシア・ヴェルディベースよ。そのような汚い真似をしよって!汚れているぞ!」
「そんなことしてないわ!シンが弾かなかったらドリアーヌさんは怪我してたかもしれないのよ!」
「問答無用!少し痛い目をせんと分からんようだな。行くぞ!」
オッタムがうおぉぉぉと腰から長剣を抜き、リングの外からアリシアに向かって駆けてくる。とっさに学院長を始めとする教員たちが魔法を発動しようとする。が、走ってくるオッタムの前に人影が割り込む。
『ドコォン!』
いつの間にかオッタムが構えていた長剣をその場に落とし、リングを囲むように広がっている壁に激突し、轟音を訓練所に響かせる。
壁に勢いよく当たったオッタムの周りには土煙が立ち込めており、その場にいた人間には何が起こったか分からない。2人を除いてたが、
1人は学院長。彼女は最初から魔法の準備すらしていなかった。あたかもオッタムに何が起こるのかが分かってかのように。
そしてもう1人は、土煙の中にいる。
「オッタム!どうしたの?!」
ドリアーヌはなぜ突然オッタムが壁に吹き飛んだのかが分かっていない。
土煙が薄れて、その中には2つの人影がある。1つはオッタムのものでもう1つはオッタムを吹き飛ばした本人であるシン。
「取り消せ。」
シンはオッタムの襟を握りしめ、もう片方の手で千穿をオッタムの喉元へと突き付けながら冷ややかな声でそう言った。
「な、なにが起こったのだ?」
オッタムは衝撃と共に一瞬にして切り替わった己の視界と現在の危機的状況により頭が回らない。180はある自分を頭1つ以上は背丈が低い少年は片手で持ち上げて壁に押し付けてくる。
「もう1度言う。取り消せ。」
シンはオッタムを睨み、殺気をぶつける。
「ひっ、な、何を取り消すのだ」
「さっきの発言だ。よくもアリシアを侮辱したな。」
「な、何を言うのだ。ドリアーヌお嬢様が負けるはずがないのだ。あの小娘が小細工をしたに違いないではないか!」
「もう黙れ。」
シンはオッタムの喉元へと突きつけていた千穿を少し引いて腰で溜める。
「こ、小僧。何をしている?」
「アリシアを侮辱したお前を消す。」
シンは千穿を握る手をきらめかせ、神速の突きを繰り出す。千穿の剣先がオッタムの喉元へと触れる瞬間、
「シン!やめて!」
アリシアの声が訓練所に響き渡る。シンの手もそこで止まる。
「シン、やめて。もういいから。」
「……分かりましたお嬢様。勝手な真似をして申し訳ありませんでした。」
シンはオッタムから手を離し、アリシアの元へと戻る。オッタムは白目で気絶している。
シンがアリシアの元へと向かう途中、その場にいた全ての人の目がシンに集まる。シンがアリシア以外に殺気を向けると、学院長以外の視線がシンから外れる。
「すごいわねシンくん。あのオッタムを瞬殺なんて」
「殺してはいませんよ。」
「あはは、そうだったわね。でもオッタムは元金級の強者よ。」
「あんな奴が強者ですか。ならばオレの父は化け物ですかね。それに貴方にも同じことができるのでしょう。」
「どうかしら?」
(掴みどころがない。警戒したほうがいいかな。)
「用がないならアリシアお嬢様のところへ行かせてもらいます。」
「後で学院長室に来てくれるかしら?アリシアさんの件も含めて。」
それを言われればシンは行かないわけには行かなくなる。シンは内心で舌打ちしながら了承する。
「シン。ごめんね、私のせいで。」
アリシアは碧眼をウルウルさせながらシンのことを見上げる。
「お嬢様は気にしないでください。オレも少しやり過ぎたと思っています。」
アリシアとシンは2人で訓練所を出て行く。
学院長はその背中を見ながら先程のことを振り返っていた。
(オッタムが飛び出した瞬間猛スピードでオッタムに迫り、長剣を持っていたほうの手を貫く。その後腹を蹴飛ばす。オッタムが吹き飛ぶのに並走し、壁に激突した衝撃で動けないオッタムの襟を掴んでレイピアを突きつける。すごいのはその動き全てが速すぎることね。末恐ろしいわ。)
(それにしてもアリシアさんは愛されているわね。羨ましいわー。)
アリシアとシンはこの後、学院長室でもう一騒動あることをまだ知らない。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次話は出来次第朝か夜の9時に投稿します。
よければ評価等お願いします。
追記
感想を書いていただけないでしょうか?初投稿作品のため何をどうしたら良いのかがよく分かっていません。悪い点はもちろん改良点も指摘いただければ嬉しいです。できればで構いませんのでよろしくお願いします。