入学式(2)
アリシアとシンが王都に着いてから2日がたった。
「これを着らなきゃならないのか。」
「文句言わないの。私も着替えてくるから早く済ませててよ。」
腕を組んで唸っているシンの目の前には従者と護衛用の学院指定の制服がハンガーに掛けられていた。
「正直に言うと、ダサいなこれ。」
シンの制服は日本にあるもので例えるからば制服とジャージのハーフという感じのものだった。その上にロングコートを羽織るかは個人の自由とされている。
「生地はジャージっぽいのになんで学ランみたいに前でボタン止めするのか。これをデザインしたやつの顔を見て是非とも拝みたい、否、一発殴らせろ。」
シンはしぶしぶ制服に腕を通していく。まだロングコートを羽織ればマシだと思い、背中から回すようにして羽織った。
その上で鏡に自分を写すと、
「これならまぁいいかな。おかしくはない、、、と思う。」
最後に腰に「千穿」を付けて鞄の中身を確認して身支度を終える。
「いいじゃない。似合ってるわよシン。」
「そうか?それならいいんだが。」
「けどロングコートは早いんじゃない?まだそんなに寒くないわよ。」
「いや、これは絶対に着ていく。絶対だ。」
「何よその無駄なこだわりは、、、それよりもどう?」
アリシアはその場で一回転してみせる。制服のスカートがフワリと漂う。
シンの制服とは打って変わって、アリシアの制服は華やかさ清純さ程よく合わさったデザインをしている。
今までシンはアリシアのドレス姿しか目にしたことが無かったが、今日のアリシアは可愛らしい制服を纏い、そのしなやかな肢体がスカートから伸びている。
まだ果実は未熟だか制服の上からでも分かる程度には成長している。いつもと違うアリシアを見てシンが少しでも動揺してしまったのは内緒だ。
「よく似合ってる。可愛いと思うよ。」
「えへへ、ありがと!」
「そろそろ時間だから行こうか。」
「そうね行きましょ。」
アリシアとシンは学院に向けて出発する。周りを見渡すと同じように入学式に向かうであろう人がチラホラいるのが分かる。中には馬車の上で豪勢な椅子に座り、周りを鼠一匹も通さないように護衛が取り囲んでいる強者がいたりするがシンはあえて無視した。
____________ああいうのは関わったらいけないとオレの直感が告げている。
シンの直感は数時間後不幸な形で当たってしまうことになるが今は置いておく。
「それにしても皆、護衛の数がすごいな。」
「いくら家を継がないといっても貴族の子息だからよ。何かあったら問題なるわ。」
「普通はそうなんだろうな。というか貴族って魔法使いが多いんだろう?魔法が使えるならあそこまでする必要はないと思うけどな。」
実は貴族には魔法使いが多い。この理由には幾つか説があるが、1番有力だとされているのが魔法使いの才能は遺伝するというのが関係しているというものだ。貴族は優秀な血筋を取り入れる傾向があり、その関係で魔法使いの血筋が多く入っているのでは、とされている。
「だからこそでしょ。」
「え、どういうこと?」
「魔法使いはその存在だけで価値があるから。貴重な才能を万が一にも潰させるわけにはいかないのよ。まぁ全員が全員魔法使いではないでしょうけどね。」
「その貴重な才能をたった1人の従者に預けるお嬢様はどうなんですかね。」
シンは軽く茶化してみる。
「その話はさっき終わったでしょう?私だって屋敷で魔法の訓練はしてるんだから大丈夫よ。それに、、、」
「それに?」
「シンは私のこと絶対守ってくれるって信じてるから。」
前を歩いていたアリシアは後ろで手を組んで振り返り、腰を曲げてシンをしたから見つめる。
所謂「上目遣い」。
「そ、そんなの当たり前だろ。そのためにオレはここにいるんだから。」
「そうよね。頼りにしてるわ。」
そんなやり取りをしていると周りからの視線に気づいたのでシンは学院に向かう足取りを早めた。
「それじゃあ行きましょうか。これからもよろしくね。」
「どこまでも付いていきます。アリシアお嬢様。」
「やっぱり敬語を使うシンはなんだか不思議ね。」
「学院ではきちんと身分を弁えるように決めたのはお嬢様ですよ。」
「そうだけど、、そうね2人だけのときは戻してくれる?」
「承ります。」
学院に入ると、教員と思われる女性から声を掛けられる。
「入学されるかたですね。会場へ連れていける護衛は1人となっています。と言ってもアナタは最初から1人のようですね。今どき珍しい。」
やはり護衛が1人だけというのは異例らしい。ほかの入学者はそれぞれの隊長だと思われる人物を連れて会場へと向かっている。
アリシアは入学する生徒に用意された椅子の1つに座り、シンはその後ろに立つ。
周りにいる護衛よりもシンは頭一つ分凹んでおり、背中に好奇の視線がいくつか刺さっているのシンは気付いていた。それと同時にシンの他にも視線を集めてる人物がいるのにも気づく。
こっそり視線を向けるとそこにはシンと同じぐらいの背丈をしている金髪の少年がいた。
(仲間がいた!)
シンがその少年を見ているとあちらも気付いたのかシンと目が合う。すると、その少年もシンと同じことを思ったのか目を耀かせている。シンとその少年は互いに目で挨拶を交わしてまた主のいる方へ向き直した。
入学式は学院長の形式的な挨拶から始まり、学院内にある施設紹介や担当する教員の紹介が終わり残すのは入学者の情報及びステータス確認のみとなった。
「シン。」
アリシアはシンの裾を掴み、不安そうに俯いている。
「顔を上げてくださいお嬢様。」
「え?」
「お嬢様は安心して堂々としていてください。大丈夫です、例えどんなことがあっても私はここにいます。」
「そうね、そうだったわ。ごめんなさい私どうかしてた。」
ステータスとともに生体情報も登録することができる水晶型の神器の前に1列に並び、順番を待つ。
護衛も登録しなければならないため人数が人数だけに時間がかかる。
あと2.3組というところで前方でざわめきが起こる。シンが何事かと目を向けるとそこには先程入学式で見かけたシンと同じぐらいの少年とその主と思われる銀髪を綺麗に切りそろえた12歳にしては小さめな女の子が登録していた。
「三属性魔法適性だ!」
「うそ!」
「魔力量もすごいぞ!」
どうやらあの少年の主はアリシアと同じく三属性魔法適性があるらしい。
「アリシアお嬢様と同じですね。」
シンはアリシアの耳元で他の人に聞こえないように囁く。
アリシアは心做しか自分と同じような人がいて嬉しそうに目を見開いている。
そして、ついにアリシアの順番が回ってくる。
「ステータスのときと同じように血を垂らしてください。」
受付の女性が説明をしてくれるがシンは前に出てポケットから茶封筒を取り出す。
「失礼します。これを。」
シンが女性に渡したものはギルザールから出発前に渡されていた茶封筒だった。
「これは、、、ヴェルディベース家の蝋印ですね。中を拝見させてもらいます。」
そういい中から手紙を取り出し目を走らせると途中で女性の目が驚愕に見開かれる。そして手紙とアリシアとの間で視線を何度も往復させてから手紙を畳み元に戻す。
「内容を確認させて貰いました。学院長にも伝えておきます。」
「ありがとうございます。時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした。」
シンは一礼してアリシアの後ろに下がる。
アリシアは指先にナイフで小さな切り口を付けて血を水晶へと垂らす。
水晶は輝き、アリシアのステータスを表示させる。
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アリシア・ヴェルディベース
age 7
Lv32
体力 250/250
魔力 1080/1080
筋力 E
敏捷 D+
防御 E+
魔耐 S+
【スキル】
火魔法適正Lv.4
雷魔法適性Lv.3
回復魔法適正Lv.4
【称号】
名主の子・貴族・■■・天才魔法使い
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そこには聖女の記載はされていなかった。
ギルザールがシンに渡した手紙には聖女の称号をこの時に見えない様にしてもらうように書かれてあったのだ。
もちろんずっと隠すことはできないが、学院生活が安定してから知らせることで余計な騒動を抑えることができる。
アリシアは自分のステータスを見て驚いてシンのほうを見るが、シンが耳元でギルザールがこのように手配したことを伝えるとほっと安心する。
が、
「この子も三属性魔法適性だ!」
「今年はどうなっているんだ!」
「さっきは二属性魔法適性の子も何人かいたぞ!」
やはり、魔法適性のことで話題になるのは避けられない。
周りが少し落ち着いたところでシンも登録する。
シンは完全に油断していた。自分も常人とはかけ離れた存在だということを忘れていたのだ。
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シン
Age 12
Lv72
体力 850/850
魔力 520/520
筋力 B+
敏捷 S
防御 A
魔耐 C+
【スキル】
風魔法適性Lv.6
血盟契約Lv.2
【称号】
暴君の子・■■■従者・レイピアの申し子・エンシェントエルフの末裔
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シンのステータスも聖女の従者は記載されることはなかったが、
「Lv72だと!」
「しかも暴君の子!」
「暴君というとあの元金剛級のハルトか!」
______________しまった、、、
周りはアリシアの時と同じぐらい騒ぎになっている。エンシェントエルフの件はステータスが表示される前にアリシアが隠してくれた。
アリシアとシンはそこから逃げるようにして去っていった。
「何してるのよシン。」
「すいませんお嬢様。すっかり自分のことを忘れていました。」
学院内にあるベンチに座ると目を合わせ、おかしくなって2人は笑った。
そこへやって来たのは、
「やぁ、ちょっといいかな同士よ。」
「あ、君は!会いたいと思っていたんだ同士よ!」
シンと同じく護衛をつとめていた少年だった。
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