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入学式(1)


アリシアとシとは屋敷を発ち、半日ほどかけて馬車で王都へと向かう。順調に行けば日が沈む前には王都へと着く。



馬車を走らせてから2時間程たち今、簡易的に舗装された森の中にある道を走っている。シンはあることに気付き馬車を止めるよう言う。



「魔獣が向かってきています。恐らく、、足音からして鬼熊でしょう。僕以外馬車の中に。」



(鬼熊は森に生息している魔獣の1種で、基本的には単独行動をしている。強さはシルバーランクの冒険者と同じぐらいだったかな。)



シンは屋敷を出るまでに頭に叩き込んだ魔獣の情報を思い出しながら腰にある「千穿」を抜く。


ほとんどの魔獣は人や餌となる下位の魔獣に気付くと一直線に襲ってくる。群れを形成している場合は連携を取ることもあるが、ほとんどの場合、魔獣は本能の赴くままに戦う。


鬼熊も同じように馬車の進行方向だった道に森から飛び出してきて、シンを睨む。



「まずは足を止める。エアスラッシュ。」



シンはLv2の風魔法で斬撃の効果をもつエアスラッシュを鬼熊の足を目掛けて飛ばす。


鬼熊は弾速の早いエアスラッシュを避けきれずにそのまま足に直撃する。


鬼熊がひるんだところでシンは足に力をこめる。「千穿」を体の前に構えると、シンの足元にまるで爆発したかのような跡を残して一直線に鬼熊の胸に飛び込んだ。


鬼熊の背中からは「千穿」が突き出る。鬼熊は顔を苦痛に歪めるが、直ぐに先程まで殺気立っていた目からは生気が失われる。


シンは力尽きた鬼熊の胸から「千穿」を抜き、血を払って納刀。解体用のナイフを取り出し、鬼熊から魔石を抉り出し、死骸を森の中に放り捨てて馬車へと足を向ける。本来なら死骸は使える部位を切り取って処理するものだが、今は先を急いでいるためそれをしない。



「シン、お疲れ様。」



「これがオレの役目だから気にしないで。」



普通ならば複数人で囲んでヒットアンドアウェイを繰り返して倒すことが推奨される鬼熊をシンはその常人離れしたステータスによって1人で圧倒した。



この後は魔獣に遭遇することなく森を抜け、再びしばらく馬車を走らせると、



「ねぇシン見て見て!王都が見えるよ!」



確かに目を凝らせばそこには王族の住む城が見える。そしてその手前には王都を取り囲む巨大な壁もある。



「すごいな。初めて見たけど話に聞いていた通りだ。」



馬車は門のあるほうへと向かい検閲の順番を待つ。10分ほどすると、検閲の兵士が声を掛けてくる。



「王都へようこそ。何か身分も示すものをご提示ください。」



アリシアがヴェルディベース家の紋章を施したメダルを出す。



「ヴェルディベース家の紋章。なるほど学院に入学される方ですね。どうぞ中へ。」



門の前で構えていた兵士が横に退き、敬礼して道を開ける。



門の向こう側には今まで見たことの無いもので溢れていた。まず目に入るのは幅10メートルはゆうにあり、城まで真っ直ぐに伸びている大通りとその道を行き交う沢山の人と馬車。脇に無数に並ぶ店。活気のある城下街を馬車からシンとアリシアは目を輝かせながら学院へと向かった。



学院で王都に無事着いたことをギルザール知らせる手紙を書き、寮へと向かう。しかし、シンは学院で衝撃な事実をしる。



「アリシア、ひとつ聞いてもいい?」



「なに?」



「学院が学院って知ってたの?」



「知ってたよ。なんで?」



「いやだってさ、なんかさ、いろいろ問題じゃないの?オレがアリシアと同じ寮で生活するのって。」



「シンは私と一緒はいやなの?」



「いやいやそういう事じゃない。アリシアと一緒なのは大丈夫。問題は周りに女の子しかいないってこと。」



「そうなるわね。付いてくる護衛か従者も基本的に女性らしいわね。」



「ますます問題じゃないか。」



「大丈夫シンなら。」



「どこに大丈夫な要素があるか教えてくださいアリシアお嬢様。」



「シンだから。シンだから大丈夫なんだよ。」



「それは信用してくれているってことでいいのかな?」



「我が従者として期待せているわよ、シン。」



「精進いたします、、、」



シンは大きくため息をつく。アリシアが通う学院は「カーディナル女学院」。貴族の子息の中で女子だけが通う学院だ。教員も女性しか学院にいないため、学院にいる可能性がある男性は警備をする衛士かシンのような主について来た従者か護衛だけになる。


シンは地球にいた神谷 飛鳥の時から女性が苦手だった。学校でも必要なときしか女子と喋ったことがない。この世界ではアリシアは共に過ごした時間が長いので大丈夫だが、従者としてアリシアと一緒に学院にいることになれば話は変わってくるだろう。

例えばアリシアが友達を作ればほぼ確実にシンとも少なくとも知り合い程度の関係は持つことになる。中にはシンに興味を持つ人もいるかも知れない。



(周りに女子しかいないとか無理だよ!女子は集まれば集まるほど強くなる生き物だとオレは知っている。もし集団で責められたり、陰口を言われたりしたらオレは、オレは、どうしたらいいんだーー!)


シンが軽く暴走していると、



「シンはどうするの?」



「えっ?どうするってなにが?」



「これよこれ。従者の服装。」



アリシアは学院で貰った入学に関する冊子のある部分を指で指した。


「えっと、学院指定のものを着るか自由な服装をするかって?それなら自由にしたいけどな。楽だし。」



「自由な服装だと教室に入れないよ。」



「え、どういうこと?」



「もう、ちゃんと読んでよ。学院指定のだったら従者や護衛も学院の生徒として扱うことになってるの。教室には生徒しか入れない決まりだから、自由な服装だと教室の外で待つことになるよ。」



「むむ、それは困るな。どんな授業するのかとか興味あるんだけどな。ねぇ、アリシアはどっちがいいと思う?」



「私はシンにも授業受けてほしいわ。それに私の場合、護衛はシン1人だから側にいて貰わないと。」



「それなら学院指定のを着るか。ってあれ?普通護衛って1人じゃないの?」



「1人じゃないよ。大体皆1小隊ぐらい連れてくるらしいわよ。」



「ギルザール様はなに考えてんだか。それなら他にも連れてくればいいのに。」



「お父様は関係無いわよ。私がシン1人でいいって言ったのよ。」



「なんで?他にもいたほうが安全性は高くなるのに。」



「シン1人でも1小隊ぐらいの強さがあるし、なによりシン以外に信用できる人がいなかったもの。」



「ギルザール様に称号使って貰えばいいじゃないか。」



「お父様の称号はある程度実力がある人には効き目が薄くなるの。だから護衛に付くような人達に使っても信ぴょう性が低いのよ。だからお父様もハルトさんとハルトさん直轄の部隊以外は近くに置かないでしょ?」



「そうだったのか。それなら、まぁ納得。」



「取り敢えず、そんなことより買い物に行きましょ!さっき馬車から見ていたら楽しそうなお店がいっぱいあったわ。」



アリシアはシンの手を引いて外に駆け出す。その顔は笑顔によって満たされていた。



(叶わないなぁ。アリシアには)



シンは半分あきらめ、半分感心しながらアリシアに付いて街へでた。



入学式は2日後、これはアリシアが普通の女の子でいられるタイムリミットでもある。


ここまで読んでくれてありがとうございます。


次話は出来次第朝か夜の9時に投稿します。


よければ評価等お願いします。

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