エルフの血脈
この話から少しシリアス系になるので視点を三人称にします。
無事に「贈剣式」を終えたシンは父ハルトと家に帰った。家には当然母リースがおり、夕食は既に準備されていた。そして、夕食を食べ終わろうとしているとき。シンが口火を切る。
「母さん、エンシェントエルフって何?」
リースの目が一瞬ひくつく。
「シンくんもしかしてステータスで?」
「うん。称号で【エンシェントエルフの末裔】があった。それで父さんが母さんに聞けって。」
「そう。シンくんには出たのね。なら仕方ないか。」
リースのいつもの柔らかな雰囲気が急に引き締まり、真面目な顔で言葉を発する。
「エンシェントエルフは約200年前に崩壊したエルフの種族の一つよ。エルフなのに魔法が使えない一族だけどそのずば抜けた身体能力と特殊な能力で史上最強と謳われていたわ。」
「そこらへんは父さんにも言われた。」
「一般的な知識としてはここまででしょうね。母さんの曾祖父が最後の純粋なエンシェントエルフだったって母さんは私の父さんから聞いてるの。そして母さんのおじいさんは約半分、父さんは一部、エンシェントエルフの力を使えたわ。」
「母さんにはエンシェントエルフの力は何も無かった。だからこそシンくんに有ることが驚きなのだけれど。本当は母さんの代で途絶えたほうがよかったのにね。」
「え?何で?エンシェントエルフって凄かったんでしょ?」
「だからこそシンくんには有って欲しくなかったの。エンシェントエルフは別名『狂戦士エルフ』、エンシェントエルフには強い戦闘欲求があってね。その性格と圧倒的な能力から名付けられたの。そして、周りの人族や同じエルフ族からも忌み嫌われていた。その強大すぎる力のせいでね。」
「、、、母さんのおじいさんや父さんはどうだったの?」
「いい目で見られなかった。母さんもエンシェントエルフの血を継いでいると分かると少なからず敬遠されたこともよくあったわ。」
「そんなの間違ってるよ。」
「ええ、間違っているわ。だけど仕方の無いことだったの。それに母さんには父さんがいたから良かったの。」
リースはハルトの方を向いてニッコリと微笑む。ハルトは少し照れ臭そうに下を向いていた。
「シンくんにもいるでしょ?ちゃんと理解してくれている人。」
シンは誰のことかと迷ったが直ぐに察しがつく。
「もしかしてアリシアは知ってたの?このこと。」
「ええ。というより知らないほうが不自然よ。」
「確かに。だからステータスを見てもあんまり驚か無かったのか。」
シンはアリシアの優しさに感嘆した。転生してきた自分と比べればアリシアはまだまだ子供だと思っていたがそんなことは無かった。アリシアは自分よりもずっと大人だった。並の子供なら自分のような危険性のある存在の近くにも入れないだろう。
にも関わらずアリシアは1度もそのような素振りを見せたことは無かった。シンは先程の「贈剣式」で【スキル】が発動したことに喜んでいた自分を恥ずかしく思う。アリシアはシンが異端だと知りながらずっと近くにいてくれた。
(アリシアはすごいな。いつの間にか物凄く大きな恩が出来てたよ。)
シンはアリシアの従者としての役割を担ったことを今一度真剣に考えなければならない。
(俺にできる恩返し、それはアリシアを1人にさせないこと。そのためには力がいる。だから、)
「父さん。アリシアが学院に行くまでオレを強くして欲しい。アリシアを守れるように。」
「よく言ったシン。それでこそオレの息子だ。」
ハルトは胸の中で主であるギルザールに「互いに良い子供を持ちましたな。」と密かに思いながら自分の息子に眼差しを向ける。
シンはリースに向かい。頭を下げると
「母さん。エンシェントエルフの力で出来ることを教えて下さい。」
「それがシンくんの望みなら喜んで教えて上げる。」
「エンシェントエルフは、、、、」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エンシェントエルフについてリースが語ったことは以下の通りで、まずその身体能力。
エンシェントエルフの身体能力は軽く人間を凌駕している。その腕を振り下ろせば人が吹き飛び、蹴りを繰り出せば家が崩れる。特に脅威なのはその素早さにあり、エンシェントエルフの全速力は目で追いきれず、ただそのエメラルドの髪が生み出す翡翠の軌跡を見ることになるという。
エンシェントエルフの持つ特殊な能力は主に3つ。
1つ目は【高速処理】、シンが既に発動したこともある、自身の処理スピードを底上げして反射神経を極限まで高めることで見るものの動きを十全に捉えることができる。副作用として使ったあとの脳への負担が大きいことがある。
2つ目は【魔力装甲】、これは魔力による身体強化に似たものであり、エンシェントエルフの場合ある一定の箇所に魔力集めることにより、そこの防御力を集めた魔力の分だけ高めることができる。
3つ目は【流血変換】、これこそがエンシェントエルフが最強と呼ばれた由縁でもある能力。戦闘中に傷付き、流れた血の分だけ自身のステータスを上昇させる。ここで重要なのは流れた血は本人の血でなくても構わないということ。つまり、相手にダメージを負わせるほど、戦いが進むほどエンシェントエルフは強くなる。
3つ目の【流血変換】は扱えたものはエンシェントエルフでもごく一部だという。しかし、それを除いてもエンシェントエルフの力は強大すぎる。シンが全てを扱えるのかは分からないがシンは強くならなければならない。
アリシアが学院に行くまでの5年間。これがシンにある強くなるための時間。アリシアが「聖女」である限りトラブルは避けられない。もしかしたら教会に反するものが襲ってくるかもしれない。また、その高い価値に目が眩んだ者達がアリシアを自分のものにしようとするかもしれない。
シンはそれらからアリシアを守れる強さを持たなければならない。そのことを考えると5年という期間は短すぎる。だかシンには才能がある。
(オレはエンシェントエルフの力を使ってでもアリシアを守りたい。オレの全てを使って守る。それがオレのような異端を従者として認めてくれたアリシアへの恩返し。)
本来ならシンはこの異世界で平和に生きたいと考えていた。地球では高校生のうちに死んでしまったので異世界では安全に生きたいと思っていた。
しかし、シンには守りたいものができた。強くならなければならない理由ができた。例え自分が傷ついてもあの娘を守りたい。あんなに可愛くて優しい女の子を。
この気持ちを恋だと言われればきっとシンは否定できないだろう。だがシンはすでに決心している。好きだからとかではなく、1人の人として、アリシアを守りたいと。
それに、折角異世界に来たのだから色んなものを見て回るのも悪くは無い。きっと地球には無かった面白くて、新鮮なもので溢れているに違いない。
戦いを知らない日本人だったシンにとってこれからの人生はきっと辛いものになる。人だって殺さなければならなくなるかもしれない。
強くなる過程でシンは何回か壁にブチ当たることになるだろう。しかし、幾度もその壁を乗り越えた先にシンの望む強さは待っている。
地球よりも命が軽いこの異世界で神谷飛鳥はシンとして、アリシアの従者として戦う道を選ぶ。シンは決心する。
(主人公になるのはアリシアでいい。オレはアリシアを守り、支えていく。)
神谷飛鳥は今、本当の意味で「シン」としてこの異世界の人間として生まれた。。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
やっと主人公ぽく書けました。
次話は出来次第朝か夜の9時に投稿します。
よければ評価等お願いします。