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第5話「遺跡」

 翌日、2人は再びローバーに揺られていた。

 崖を迂回しなければならなく時間がかかることを予想し、2人は日の出とともに移動を開始していた。


「こ、腰が痛い……」

「もう、軟弱な男ねー」


 太郎は揺られすぎて腰を痛めていた。

 一時停止をし、大きく伸びる。

 パキパキッという音と共に、じわじわと熱いものが腰を流れるのを感じる。


「ふぅ」


 ローバーの構造は「武骨」そのものだ。

 快適機能なんて一切無い。天井すら無いのだから。

 さすがに長時間の移動を続けると体への負担も大きくなる。


 それでも前に進む。戻るところもないのだから。

 進むにつれ次第に明瞭になる建造物らしき建物。


「やっぱり高速道路みたいだな」

「緻密な造形ね」

「誰が何のために作ったんだ?」

「いわゆるオーパーツね」


 小さな太陽がだいぶ傾いてきたころ、2人は建造物の端へたどり着いた。

 そして太くて大きな橋脚を見上げている。

 

 橋脚の高さは30メートルくらいある。

 切り取られた石が複雑に重なり合い、その柱を形成している。

 柱に支えられるように高速道でいうところの車道部分が渡っている。

 その長さおよそ3キロくらいだろうか。

 反対側の先端は山脈に飲まれるように刺さっている。


「登れそうには……ないか」

「そうね。とりあえず山の麓までいってみない?」

「そうだな。そうしよう」


 2人は建造物を観察しながらゆっくりと付け根に向かって進む。

 橋脚は100メートルに1本ずつ立っているようだ。

 もうすぐで最後の1本、というところでミシェルが何かを発見した。


「太郎、階段があるわ!」

「整備用の階段か? まるで俺たちに『ここへ来い』って言ってるみたいだな」

「そうね。どうする?」


 太郎が辺りを見渡すと太陽はほぼ水平に見え、酷く冷え込む夜の到来を告げていた。


「とりあえずここで一夜を明かして、明日装備を整えて行こう」

「ええ、そうしましょ」



 ◇   ◇   ◇



「遺跡……か?」


 翌日。2人は照明や掘削機器など持てる範囲の装備を背嚢に詰め、橋脚の横に張り付くように取り付けられた階段を上った。

 上り切った後、そのまま吸い込まれるように山の中へ通じる通路を進むと、大きく岩盤がくりぬかれた広場に出たのだ。


「こっちからあの長細い建物につながっているわ」

「そう考えるとここが格納庫で建造物は滑走路か……?」

「私たちの知識から考えると、それが一番納得できるわね」

「滑走路は使われていないのか。かなり砂が堆積してるな」

「そのせいで衛星写真から見えなかったのかしら」

「どうだろ。可能性は半々じゃないか。時間帯によっては影だって映ってただろうし」


 そんなやり取りをした後、改めてその空間を見渡すと直方体に切り抜かれたこの空間も、やはり人工的に手が加えられたものだと考えざるを得ない。

 風化したのか片づけられたのか、空間には何も「物」と言えるようなものはの見当たらない。


「何もないな。この先は何かないとつまらないな……。ん?」


 太郎が空間の左奥に目を移すと、おもむろにそちらに向かって足を進めた。


「ミシェル! 通路だ!」

「待って、すぐ行くわ」


 太郎が見つけたのは紛れもない通路だった。

 まっすぐ100メートルくらい進めるようだ。

 突き当りまでは見えない。


「とりあえず進んでみよう」

「ええ」


 恐る恐るその足を進める2人。

 通路の壁は、その昔は何かでコーティングされていたのか、ところどころ白い壁が残っている。

 そして不思議なことが1つ。


「奥まってきたのに暗くならないな」

「あの天井の穴からうまく太陽光を導入してるみたいね」

「すごい技術だな。季節によって角度も変えなければいけないだろうに」


 しばらく進む2人。


「あ! 太郎。階段よ」


 その先には螺旋状の階段が下に向かって伸びていた。

 太郎が下をのぞき込むがその先は薄暗くて見えない。

 しかし、真っ暗ではない。


「すごいな」


 迷うことなく階段を下りる。

 下りる。

 ひたすら下りる……。

 ……。


「はぁ、もうどれくらい下りた?」

「分からないわ。これで何もない突き当りだったら凹むわね」

「だな」


 体感で1時間以上階段を下っただろうか。

 その時、2人の身に纏っている防護服に異変が起きた。


「ん? 外部の気圧が上がってるぞ。センサーの故障か?」

「いえ、私のも上がってるわ」


 防護服には様々なセンサーが装備されている。

 気温、外気圧、大気組成分析、放射線分析などである。

 このセンサーを見れば、防護服が必要なのか不要なのか一目でわかる。

 その中の外気圧センサーからもたらされる値が上昇したのだ。


「空気が濃くなってる?」

「ということよね」


 さらに階段を下る。

 それにつれて上がる気圧。


「もう、300hPaもあるわ」


 300hPaというと、地球の3分の1ではあるが宇宙の船外作業をする際の宇宙服内の気圧と同じだ。

 酸素濃度にもよるが慣れてしまえば生活できないことは無い。


 さらに階段を下る。

 気圧も連動して上がる。

 2時間くらい階段を下った頃、防護服のシグナルに大きな変化が訪れた。


「なに、防護服不要のサイン……だと?」


 防護服が、この環境を「安全」と判断している。

 信じていいものか。

 いや、俄かには信じられない。

 火星では人類は生きていけない環境というのが常識だ。

 だからこそコロニーを建設したり、防護服を用意したりして、その過酷な「環境」と戦っていたのだ。

 太郎の中で今までの常識がガラガラと音を立てて崩れる。


「防護服、どうする?」

「私は怖いわ。とりあえずこのまま進みましょ」

「わかった」



 ◇   ◇   ◇



 遂に2人は階段を降り切った。

 降り切った先から明るい光が差し込んでくる。


「太郎、これは……」


 2人が見たもの。


 それは、「村」だった。

 子供が走り回り、大人は畑を耕している。

 服装は粗末なボロ布を纏っているだけだ。

 顔は欧米人のように見える。


 空には明るく光る太陽、否、クリスタルのようなものが輝いている。

 そして雲が流れ、見たことのない鳥が飛んでいる。


 階段の出口で呆然と立ち尽くす2人。


 村人の1人が太郎とミシェルに気付く。

 その次の瞬間、2人へ向け五体投地する。

 それに気づいたほかの村人も1人目に続く。


 その後太郎とミシェルが地上に戻ることは、無かった。


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