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???(エピローグ4)

 燭台に照らされた説教壇は、神に祈るための場というよりはむしろ、邪悪な異教の神を祀る祭壇のようにも思えてくる。

 

 ルチアは深夜の礼拝堂にひざまずき、ただひたすらに祈りを捧げていた。

 

 四〇〇年以上の時を生きてきたヴァンパイアの司祭は、いささかのさざなみも感じ取れないおのれの心の静寂に絶望している。

 

 一昨日も、パーティを楽しむ年若い友人たちをながめながら、どうしてもその中に入っていけない自分を感じていた。

 

 自分でもいやらしいとしか思えない薄ら笑いを浮かべて、自分の中からはとっくになくなってしまった感情を偽装する。

 

 それですべてはうまくいく。

 相手はルチアに微笑みを返し、幻想の充足感を得て、さきほどまでの話を続け、あるいは別の話題に移り、場合によっては満足感とともにその場を辞す。

 相手はルチアとの間に感情の交流が成立したことを確信して疑わない。

 

 しかし、ルチアの側で彼らの感情を共有することができない以上、それは一種の同床異夢にならざるをえない。

 

 彼らの中にあって、ルチアのみが疎外されている。

 

 孤絶している。

 

 彼らはルチアに、ルチアの失ったものの大きさをまざまざと見せつける。

 

 彼らに悪意などないとわかっていても、思い出したように噴き出す苛立ちが、消えてなくなるわけではない。

 

 別に、彼らのことが嫌いなわけではない。

 

 が、とりたてて好きなわけでもない。

 

 そういう一切の感情的な色彩が、ルチアの心の中からはすでに失われてしまっている。

 

 今回の事件のこともそうだ。

 

 ルチアは吸血鬼となった守良美芳の激情にも心を動かされなかったし、その犠牲となった青年についても、何を思うこともなかった。

 

 本人たちにとっては重大な出来事にちがいないが、冷めた目で見れば、まれに起こる吸血鬼事件のひとつにすぎない。吸血鬼事件としては犠牲者は少ない方だったし、犯人への裁きも穏当きわまるものだった。

 

 この程度の出来事では、ルチアの錆びつき、凍りついた心には、いささかの揺るぎも生じえない。わかっていたことではあるが、改めて確認すると、自分の生のいびつさ、むなしさに途方もない孤独感がわき上がってくる。

 

 移り変わる地上のありさま、人々の暮らしに比べて、自分はどこまでも変わらず、何に感じ入ることもなく、ただ冷たく、存在しているだけ。

 

 夜空に浮かぶ青白い星のような自分のありさまを思うと、とっくに擦りきれたはずの心の底から、音もなく、色もない絶望がこみあげてきて、ルチアの心を透明のまま塗りつぶすのだ。

 

 ルチアは言いしれない寒気を感じ、自分の肩をかき抱いた。

 

 神への祈りは、通じたのかもしれない。

 

 それは、ルチアの感じた久方ぶりの生の感情だった。

 

 心が揺らがないという事実に感じる恐怖。

 

 それこそが、ルチアに残された最後の感情なのである。

 

 だからこそ、摩滅した心の最後のひとかけらを守るために、ルチアは――

 

「……どうしたんだ、こんな遅くまで」


 ふいに声が聞こえた。

 

 ルチアは薄明かりの中でふりかえる。

 

 そこにいたのは帰ったはずの雹夜だった。

 今回の件の事後処理で、先ほどまで礼拝堂に関係者が集まっていたのだ。

 

「あら、忘れもの?」


 ルチアは立ち上がって聞く。

 

 その顔には、優しい笑みが浮かんでいる。

 

 その笑みにぎこちなさを感じているのは、笑みを浮かべている当の本人だけだった。

 

 その笑みはどこまでも透明で、どこまでも純粋な作りものだった。

 

 笑みの背後に悪意があれば、勘の鋭いものならば気づくだろう。

 

 が、ルチアの笑みの背後にはいかなる感情も存在しない。

 

 生の感情の厚みを奪われたルチアの笑みは、ガラス細工の仮面のように、笑みというものの純粋な外形をなぞったものであり、生身の人間には浮かべえないはずのものであった。

 

 その意味で、ルチアの笑みは神の笑みであり、天使の笑みであり、また悪魔の笑みでもあった。

 

 今目の前にいる少年――浦戸に棲むヴァンパイアたちの王・有門雹夜は、まるで仮面の奥を見通そうというかのように、ルチアの笑みを凝視してきている。

 

 が、そんなことをしても無駄なのだ。

 

 ガラスの仮面の奥には、いかなる素顔も存在しないのだから。

 

「……あんた、本当に暗示にかかってたのか?」


 有門雹夜が聞いてくる。

 

 ルチアは答えず、雹夜に笑みを向け続ける。

 

 その笑みから何かを悟ったのだろう、雹夜は深いため息をついた。

 

「おかしいと思ったんだよな。あんたみたいな強力なヴァンパイアが、あの程度の吸血鬼の暗示に抗えないわけがねーだろ」

「あの程度って……、元・ヴァンパイアハンターのかるらさんも、暗示にかけられていたわよね?」

「……わかってて言ってるだろ。あいつは神の器だ。おのれを極限までむなしくすることで、自我の中心に空隙を作り出し、その空隙に神の恩寵を引き込む、そういう特殊な訓練を受けてんだ。そのせいで被暗示性がやたら高くて、放っておくと日常生活にも差しさわる。だからこそあいつには信仰が必要になるし、俺が彼氏のふりをしてそばにいるようにしてるのだって、そのためでもあるんだ。もちろん、暗殺教団にとっちゃ、その方が使いやすいって面もあったんだろうな。強力な神の器でありながら教団のいいなりになる最強の剣ってわけだ。

 とにかく、あんたみたいな上位の聖職者からの命令には、あいつは絶対に逆らえないんだよ。だからこそ、あんただけは――あいつを裏切っちゃいけなかったんだ」

「彼女にいいように利用されてしまったことについては、申し訳なく思っているわ。でも、しかたがないじゃない。暗示をかけられていたんだから」

「だから――あんたは、暗示をかけられてなんてなかったんだろうがっ!」


 雹夜が視線を鋭くする。

 

 ルチアは、この少年のことを、若いながらも獅子の素質を秘めた男だと思っているが――それでも、ダメなのだ。この程度の視線で揺れるような心など、ルチアには欲しくともない。

 

「……どうしてそう思うの?」

「そりゃ、思うだろ。守良美芳についてはおかしなことが多すぎた」

「おかしなこと?」

「まずは守良美芳の能力だ。たしかに、超自然的能力(ヴェスペル)が眠ってるってことはまれにある。だが、守良美芳の能力は相当にレベルの高いものだった。あれだけの能力が、守良くらいの歳になるまで発現しないなんてことはありえねえ」

「一般的には、そうかしらね。でも、そういうことだって、絶対にないとは言い切れないわ。超自然的能力(ヴェスペル)については、まだまだわからないことだらけだもの」

「ああ、それだけならな。だが、能力ということでいえば、あんたの能力だって謎のままだ。四〇〇年の時を超えて生き延びた〈蘇生者(リザレクト)〉が、なんの能力も持ってないなんてことはないはずだ。〈蘇生者(リザレクト)〉に関する文献は少ないが――大いなる母だとか、始祖だとか、与えるものだとか、そんな風に表現される能力を持っているらしいな」

「…………」

「それだけじゃ、なんとも解釈のしようがねーんだが、こないだのことでふと思いついたことがあるんだ」


 雹夜は短く言葉を切った。

 

 もちろん、そんな演出に動揺する心など、ルチアには欲しくとも残っていないのだが。

 

「〈灼魔の天遣〉の能力は、ヴァンパイアの能力を『灼く』能力だ。つまり、他のヴァンパイアの能力を奪い、消去する能力だな。そんな反則じみた能力があるんだとしたら、〈蘇生者(リザレクト)〉にだって、それにふさわしいトンデモ能力があっておかしくねえ。大いなる母、始祖、与えるもの……解釈も何もねえ。そのまんまなんじゃないか? つまり、あんたの超自然的能力(ヴェスペル)は、他のヴァンパイアに超自然的能力(ヴェスペル)を付与する超自然的能力(ヴェスペル)なんだ」

「……面白い話ね。でも、そんな力、本当にありうるのかしら?」

「たしかに、一見突拍子もない話だが、考えてみれば、吸血鬼ってのはそもそもそういうもんなんじゃねーか? 吸血鬼に血を吸われたものも吸血鬼になる――使い古されたモチーフだ。そういう意味では、吸血鬼という存在の根幹にかかわる能力だとも言える。あんたは本当の意味で吸血鬼なんだ――と、そう言ってもいいだろう」

「……言うだけなら、それは雹夜くんの自由だけれど」


 ルチアは笑みを浮かべたまま雹夜を見つめている。

 

 雹夜は構わず続ける。

 

「守良美芳は、従兄弟を吸血鬼に奪われたショックから、この礼拝堂に通いつめて祈ったんだってな。そしてその結果、超自然的能力(ヴェスペル)に覚醒したと言っていた。実際、相当に必死だったんだろうな。自分で信じてないと言ってた神に、すがりつかずにはいられないくらいにな。だが、そんな奇異な学園生がいたとしたら、礼拝堂の管理者で司祭でもあるあんたが、気づかないはずがない。いや、気づかないどころか、あんたの方から声をかけて、相談に乗ってやるくらいのことはするはずじゃねーか。あんたは司祭なんだからよ。それなのにあんたは、あの日の放課後、俺を待ち受けていた守良のことを、初めて見ると言っていた。つじつまがあわねーだろ」

「……わたしにも、司祭としての仕事があるわ。守良さんに気づかなかった可能性だってある」

「かなりか細い可能性だと思うけどな。それに、アルトが言ってたんだ。守良の超自然的能力(ヴェスペル)を灼いたとき、手応えが軽すぎたって。守良ほど強力な能力なら、十分二十分、下手すりゃ本物の火炙りみたいに半日がかりなんてこともありうるんだそうだ。それが、数分と経たないうちに終わっちまった。生まれつきの能力が、地中深くにまで根を張った巨木みたいなもんだとしたら、守良の能力は、もともとの木に後から絡みついて寄生した寄生木(ヤドリギ)みたいな感じだったってのが、アルトの感想さ」


 ルチアは微笑んだまま口を開かない。

 

 そんなのは何の証拠にもならない――表情でそう語ってみせる。

 

 雹夜が焦れているのがわかる。

 

「そして、『金髪の吸血鬼』だ。俺は最初、それは守良のこしらえた嘘なんだと思った。実際、放課後の礼拝堂で俺に語った『金髪の吸血鬼』の目撃情報は、守良のそらごとだったんだろう。ひょっとしたら、どこかのトマト泥棒を目撃した人がホントにいたのかもしれねーけど、守良がそんな目撃情報をわざわざ拾ってくるわけもねーから、まず作り話とみていいだろう。

 が、裁判の過程で出てきた、鴇田孝弘を襲ったという『金髪の吸血鬼』はちがう。守良があそこで嘘をつく意味はないからな。だとしたらやっぱり、『金髪の吸血鬼』は存在するんだ。捕まってない以上、この街のどこかにまだいるはずだ」

「……それがわたしだと言うの?」

「浦戸がヴァンパイアの隠れ里だっていうのは、ダテじゃねえ。市内のヴァンパイアの動向は市役所鬼神係の小此木さんがしっかり把握してる。小此木さんによれば、市内に金髪の女性ヴァンパイアはあんただけなんだそうだ。髪の色を変化させることのできるヴァンパイアはいるが、そいつの変化は黒髪から白髪への変化に限られてるし、身体を強化するような超自然的能力(ヴェスペル)は持ってないそうだ。

 それから、もちろん知ってると思うが、市外からのヴァンパイアの侵入は、〈天狗の会〉の監視網か、烙浪輪神社の結界で捕捉されるようになっている。ここ数日では、アルトがやってきたときに反応があったほか、ヴァンパイアの出入りはなかったそうだ」

「…………」


 ルチアは笑みを浮かべたまま表情を変えない。

 

「あんたは、守良の記憶を操作して、自分のことを忘れさせたんだろうが、まさか守良が自分の姿を以前にも目撃していたとは思わなかったんだろう。あるいは、気づいてはいたものの、守良がヴァンパイアになりたいと望むきっかけとなった記憶だけに、消してしまうと何か不都合でも生じかねなかったのか。どちらにせよ、守良の心の中には、あんたが鴇田孝弘を襲ったときのイメージがはっきりと焼き付いていた。それが、守良の口にした『金髪の吸血鬼』の正体だよ。

 守良自身は、『金髪の吸血鬼』とあんたとを結びつけてはいないようだったが、それはあんたのかけた暗示のせいなんだろう。アルトの力で、守良の中にあったはずのあんたの暗示は、守良の力もろとも灼かれたはずだ。総合病院の馨先生によれば、まだ混乱してて話が聞ける状態じゃねーらしいが、落ち着き次第、『金髪の吸血鬼』についての聴取がはじまる。そうなれば、ことの真相はすぐに明らかになるだろうよ」

 

 そこまで言っても、ルチアの表情に変化はなかった。

 

 雹夜ががくりと肩を落とした。

 

「……なあ、否定してくれねーか。俺は……嘘だと思いたいんだよ。俺はあんたに憧れてたんだ。あんたを火にかけるなんて、俺はやりたくねーんだ」


 ルチアは無言のまま雹夜に近づき、その頬に触れた。

 

 雹夜が顔を上げる。

 

「ごめんなさいね。わたしには、雹夜くんの感情を理解してあげることができないのよ。でも、だからこそ、あなたの感情が……うらやましい。もうわたしからは枯れてなくなってしまったものだから」

「……なんで、こんなことをしたんだ」

「一種の回春……かしらね」

「は……?」

「回春。失われたものを、わたしはとりもどしたかった」

「失われたもの?」

「そう。わたしにはもう、心がないの。雹夜くんがそんな風に思いつめた顔をしてくれても、ほとんど心に波風が立たないのよ。わたしの心は歳月で摩耗して、このままだとわたしは生きる屍のようになってしまう。不死者(イモータル)なんて、まったくいいものじゃないのよ。これじゃあ、ただの……死に損ない(アンデッド)よ」

「……そんな」

「わたしは雹夜くんの憧れるような女じゃないわ。わたしがよい司祭なんだとしたら、おのれというものがないからでしょうね。感情がないから、〈聖霊の声〉の教えや神の定めた掟に従うことに、なんの葛藤もないだけ」

「俺は……そんなことを言ってるんじゃないッ! あんたはいつだって優しくて、苦しみと孤独に耐えて、過酷な運命にも音を上げず、前を向いて生きてきたじゃないかッ!」

「そんなことはないのよ。そうじゃなかったら、どうしてうまくもない人の生き血を啜ってみたり、恋に悩む女の子を焚きつけて、想い人を殺させたりするものですか」

「それは……っ!」

「わたし、想像したのよ。雹夜くんに捕まって、火炙りにかけられるあの子の姿を。とろとろと時間をかけて炙り殺されるあの子の姿を。想像を絶する苦痛に苛まれながら、愛しい人との想い出を回顧するあの子の姿を。ねえ、それってとても素敵なことだと思わない? きっと彼女にとっては、地獄の責め苦ですら、愛しい人とのつながりを感じさせる甘美な麻薬でしかないのよ。自分のすべてを、想い人への愛に捧げきった満足感に包まれながら、彼女は死んでいくの。死すら奪われたわたしからすれば、羨ましくてしかたのない贅沢よね。それに――」

「それに?」

「ヴァンパイアたちに迫られ、あの子を火炙りに処す雹夜くんの表情も、きっと見物よね。あなたは、自分のふがいなさを呪いながら、それでも自らの課した刑の結末を見届けようと、心をやすりで削られるような痛みをこらえながら、火で炙られる彼女をじっと見てるの。その痛ましさ、けなげさ、純粋さ……そして、そういうものをもはや快楽の具としか考えられなくなったわたし自身への、身を切るような自責が、むなしさが、寂しさが……そんな切なくて、もの狂おしい感情ならばきっと、わたしの凍てついた心をいくぶんかでも溶かしてくれるんじゃないか。ひび割れ錆びついた心に、暖かい油を差してくれるんじゃないか。そんなふうに思っていたのよ。まあ、雹夜くんたちの活躍で、それは実現できなかったんだけど」

「……吸血鬼事件は事実として起こった。人も死んだ。事件を収拾できたからって、事件がなかったことになるわけじゃねーんだぞ」


 鴇田孝弘を殺した犯人でこそないものの、守良美芳が吸血鬼になるきっかけを作ったのもルチアなら、美芳に超自然的能力(ヴェスペル)を与えたのもルチアだということになる。

 

 ひょっとしたら、鴇田を殺すように、美芳を唆すことすらしたかもしれない。

 

 だとすれば、まさにルチアこそ、今回の吸血鬼事件の『元凶』だったということになる。

 

「……そうね。わたしのやったことは十分に罪と呼べるものだわ。でもね、雹夜くん。それだけのことをやってみても、わたしの心にはおぼろげな影しか浮かばないの。……あなたは知っているかしら? 長い歳月を生きたヴァンパイアを苦しめるのが何か?」

「……いや」

「……頽廃、よ。極度の頽廃。気取らないで言えば、ただの退屈ね。退屈で退屈でしょうがなくて、生きている意味どころか、生きていることそのものすら怪しくなってくるのよ。だからこそきっと、吸血鬼なんてものが現れるのね。人の生をもてあそぶことでしか自分の生を実感できない。そんな救いがたい存在が、歳を経たヴァンパイアというものなのよ」

「……そんな……」

「雹夜くんには、まだわからないことでしょうね。それはきっと、幸いなことでもある。でも、あの子はどうかしらね? 魔王の血を引く〈灼魔の天遣〉、アルトディーテ・ソラーレは? 今はまだわからない。でも、あの子もいつか、わたしと同じ頽廃にとらわれるのかもしれない」

「…………」

「わたし、あの子にはとても興味があるの。雹夜くんと同じくらいに、ね」

「……俺と?」

「そうよ。言ったでしょう? デザートは最後にとっておくって」


 雹夜の目をのぞきこむ。

 

 雹夜はびくりと身を震わせ、ルチアを引きはがそうとした。

 

 が、

 

「くっ……!」


 ルチアの腕がすさまじい力で雹夜の肩をつかんでいる。

 

「あなたには、期待しているのよ」


 ルチアは雹夜の耳に息を吹きかける。

 

 ルチアの腕の中で雹夜が身じろぎする。

 

「せっかくだから、あなたにもあげるわ。力を。ヴァンパイアの王たるにふさわしい力を。誰もがひれ伏す力を。他のヴァンパイアなんて、鼻歌まじりに蹴散らせるような力を。わたしの与えられるすべてを、あなたにあげる。だから――もっとわたしを愉しませてね、雹夜くん」


 そう言ってルチアは雹夜の首筋へと唇を近づけ――

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