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眠って候 終わり

ちゃんと布団で寝なかったから?

スプリングが飛び出して、これ以上ぼろくなれないほどに汚ねぇソファに寝てしまったからか?

     いいや。問題はそこじゃないだろ。


おれがこの世のものじゃないものと接するとき、

それはきまって必ず寝るか寝ないかの瀬戸際に起こっていた。

     寝るか、寝ないか?その意味がわからねぇって??

ああ。

だれにいっても首を傾げられるんだな。

寝るか・寝ないかの瀬戸際に奴さんたちが現れるのは、正直言ってきついんだよなあ。

おれの親父の家系は昔から霊能力があるというのか、必ずこの世のものじゃないやつらとせっせするときは、その前兆として「鈴の音」が聞こえるという。

おれは全くそんなの聞こえないんだがよ、親父たちが言うに、まず無数の鈴の音がおとなしく近づいてきたかと思うと、それがお構いなくじゃんじゃん揺さぶられてまるで鼓膜を打ち破らんとするようにけたたましく鳴るらしい。

そして、ぴたりと音が止んだところで奴さんたちが訪れるらしいが・・・

うちの親父はかすかな鈴の音が聞こえるだけで、ついぞ奴さんたちを見たことがないという。きっと親父でその力も途絶えたんだろうよ。

おれの場合の寝るか、寝ないかの瀬戸際ってのは、また厄介でなあ。

体と意識が反発しあうんだ。

意識は、いま正に寝ようとしているのに体が起き上がろうとする。

体を動かすのは意識であるから、意識がしずめようとするが体が抵抗して起き上がろうとするんだ。意識はそのうち体を制するのをあきらめて、自分だけが眠ろうとするから厄介だ。おれのかすかな意識はグルングルン回り、体は見えない何かに貼り付けられたようにしながらも抵抗し続ける。

仰向けになった体は、つねに上を目指して起き上がろうとし、

意識はつねに下のほうを目指して起き上がらせないようにする。

それに振り回されるのは俺だってのによ。


それがしばらく続くと、奴さんが現れたりするんだ。まぁ、ときに現れないときもあるんだぜ。


あのときは、血だらけになって敵の手の内にある土井さんの姿が、未だにまざまざしかったから、きっと死人になって魂へとかわった土井さんが枕もとに現れるかと思ってた。


が、そうじゃあないんだなぁ。


『・・・く、いく・・・。おい、幾さん』


聞き覚えのない声、といったらそりゃあ嘘だね。

まちがいなく、死んだ「泉田」だった。

文字通り、がばっ、と起き上がりたかったが・・

あいにく俺は、二つの抗力にさいなまれて未だに不自由の身である。自由に目もあけられずにいるんだ。

いっとくが、この状態に俺があるときは俺自身の意識はお留守となっているから、おれが自由にできる意識なんてのはない。ただ体と意識かに翻弄されてぐらぐらしてるだけの俺だ。

口なんてきけないから、ただ聞くことしかできない。

だけど、不思議だよなあ。死んだ泉田が枕もとに現れても、まったく怖くなかったんだからよ。しかも、この時ばかりは意識がはっきりしてやがる。


『ど・・ドラム缶・・・ドラム缶・・・だよ、幾サン』


ドラム缶。

そいつがやつの口から出てきたときは呪い殺されるだろうと思ったが、そうじゃあなかった。

『ドラム缶を狙ってるんだよ・・・あいつら・・・・・』

なんでだ。

『土井さんも服部さんも殺されちゃあいないよ・・』

だが、土井さんは血だらけで敵につかまっちまったし、服部さんとはもう連絡が取れないんだぜ。殺されてんだよ。おれだけしか、生き残ってないんだ。ちくしょうめ。


『はめられたんだよ・・・おれら』


ああ。そうだろうな。泉田、おまえには悪いが、おれらはお行儀よくしとくべきじゃあなかったんだな。けどよ、仕方がねえだろう。もうおれらはハメられちまったんだからよ。お前を殺すことを任された時点で、おれと土井さんと服部さんと・・・大条は仲間内で既にはめられちまってたんだよ。


『かわいそうになあ・・・、幾サン』


はめられちまったのは、どうせおれだけじゃあねぇよ。 言ったろ? 土井さんに、服部さんに・・


『それは違うよ。幾さん』


あ?


『はめられたのは、おれと幾さんだよ』


待て。おい、待て。待ってくれ・・!


『ドラム缶のなかにおれの遺体と、大事なものが隠されてるんだよ・・』

大事なものってなんだよ。

『あれ、タバコだと思ったでしょ?あれはね、タバコじゃない。タバコに見せかけた偽ものだ。親分と他のシマが、あるかけ引きをするための、ブツだったんだよ・・・』

そんなのきいてねえよ。 そもそもなんでお前が死ぬ必要があるんだよ。 

なんで・・・またおれが?

『平多だ。・・・平多だよ。親分は自分の息子を、そのシマのかしらにしたいんだ』

しま、って言ってもよ。 そのしまの頭は了承してるのか?

『知らないだろうよ。駆け引きが行われてるのは、親分とそのシマの子分たちとの間で行われてるんだ・・・』

馬鹿野郎。 親分を裏切るような子分の上に立って、成り立つとでも思ってんのか? 

それで・・・、それでなんでおれがそれを知らないんだ? おれだって、お前だって親分の子分だぜ。

『実は平多が親分からいいつかった任務があるんだ』

っは・・・。馬鹿いえよ・・。

『他のシマの親分の座をやるかわりに、いちばん信頼していた兄貴分を殺せ・・っていうのさ』

それが、俺ってか。

『残念だけど、平多は幾さんを殺すことになんの躊躇いもないそうだ』

お前が殺される必要は・・・あったのか?

『おれは、その話をたまたま盗み聞きしちゃったからだよ。そこを土井さんと服部さんに見つけられちゃって、即、親分のまえに突き出されたさ。きっと、俺のことだから幾さんに秘密をばらすと思ったんだろうね。おれは、自分でも言うけど、仲間思いだからさ。忠実ってこういうことだろう』

ちくしょう・・・。 おれの信頼はどこへ置けばいいんだよ。 ・・・平多か? 平多に、殺されるんだろ・・おれ・・・。 それだけじゃない。 服部さんに、土井さんも・・おれをはめてたんだろう。

どうすれば、いいんだ。

『逃げればいい』

ふん。 そこまで命が欲しくねえよ。

『まさか・・・』

知ってしまった以上、もう逃げるところもないさ。おれは、親分のところに行く。親分のところに行って、何食わぬ顔をされたら・・・そのときはそのときだろ。





そのときは、その時だろ。

覚めやらぬ意識が働いて、懐の銃に手が触れた。





おれは、それっきり泉田とは会話をしていない。

まさか、殺したやつから命を救われるとはな。

じゃあ、おれ・・・罪のない泉田を殺しちまったってわけかよ。

それなのに、泉田はおれを救ってくれた。


ほんとうに、忠実なやつだよ、泉田。



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