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女と電話 1
これは根っからのホラーではありません。恐怖を与える物語ではないのでご了承ください。あくまでも不思議な物語の連なりとなっています。
あるアパートの一室で電話がなっている。
“墨”に沈められたような暗闇が部屋中に広がっていた。
広々としたその部屋は閑散とし、どこか寂しい。それは日の光とは無縁の冷たい深海を思わせた。
今のところ、受話器を上げる者が居ない。
しばらく鳴り続けた結果、留守番電話に切り替わる。
長々と機械的な女の声が流れたあと、
【メッセージをどうぞ】
「・・・・・・。」
受話器の向こうの者は喋ろうとしない。
耳につく無音の中、受話器ががガチャンと音を立てて切られる。
ツーツーツー……、
真っ向から突き放されたように再び静穏な空気が部屋に浸透する。
しん、と静まり返った部屋の中で『女』は我にかえったように電話を見つめた。
―――――電話が鳴っていたかしら、そうじゃなかったかしら。
電話に視線を注いだまま、女は心の中で首をかしげた。
確かに電話が鳴っているような気がした。
しかし女はそれに自信が無くてそれ以上考えることを止めにした。




