トランプ手品の種明かし<解答編>
「トランプ手品の種明かし」の解答編です。
一応問題も提示していますが、問題編を読んでもらった方が状況がわかりやすいと思います。
以下のようにトランプを並べ、以下のルールに沿って指を動かす。
■ ■ ■ □ ■
1 2 3 4 5
1.最初は左端(1の位置)に指を置く
2.言われた数字分、指を動かす。この際、左右の指定がなければ好きなように動かしてよい。
例えば3の位置に指があるときに「2動かす」と言われたら、3→4→5のように動かしてもよいし、3→2→1のように動かしてもよいし、3→2→3のように動かしても良い。
3.指は必ず一つずつ動かし、隣のトランプを飛び越えてはならない。例えば2の位置にあるときに3を飛び越えて4のところに移動してはならない。
4.両端に指があるときは、次に動かす際は反対側の端に飛ぶことはできない。例えば1の位置に指がある場合5の位置にはいけず、次は必ず2に移動する。
このルールに沿って、以下のように指を動かすと、最後に必ず表向きのトランプ(上の図の4の位置)に指が来る。
1.3動かす
2.4動かす
3.1動かす
4.5動かす
5.右に2動かす
何故、どう動かしても最後には表向きのトランプの位置に指が着てしまうのだろうか。
「さてと、そろそろ謎は解けたかい?」
しばらくすると、Tが戻ってきた。
「ぜんぜん分からないぞ。一体どうなっているんだ?」
Uはお手上げ、といったポーズをとる。Y子も必死に考えているが、まったく解答にたどり着ける様子はない。
「仕方ないな。では種明かしでもしてあげよう」
「よし、待ってたぜ」
「……お前、最初から自分で種明かしする気がなかったな」
はぁ、とTは一つため息をついた。
「種明かしの前に、足し算の法則は知っているよな」
「足し算の法則?」
「こういうことだ」
A.偶数+偶数=偶数
B.偶数+奇数=奇数
C.奇数+偶数=奇数
D.奇数+奇数=偶数
「なんか難しそうなことを書いているが……まあ、それは知っている」
「納得いかなければ一応証明を載せておいてやる」
<証明>
任意の整数nに対して、偶数は2n、奇数は2n+1で表される。
A.偶数+偶数=偶数
2a+2b=2(a+b)
2(a+b)は、n=a+bである場合の偶数を表す。
B.偶数+奇数=奇数
2a+(2b+1)=2(a+b)+1
2(a+b)+1は、n=a+bである場合の奇数を表す。
C.奇数+偶数=奇数
足し算の場合、交換法則が成り立つ。よって、Bが成り立つため、Cも成り立つ。
D.奇数+奇数=偶数
(2a+1)+(2b+1)=2(a+b+1)
2(a+b+1)は、n=a+b+1である場合の偶数を表す。
<証明終了>
「……なんだかむずかしそうね」
証明を見て、Y子は頭がこんがらがっている様子である。
「とにかく、足し算においてはA~Dが成立するということだ」
「はぁ。で、それが今回の種明かしと関係あるのか?」
「大有りだ。今回の手品も、実はこれを利用しているのさ」
ほう、とUはメモを見る。
「最初に指が置かれている位置は1、つまり奇数の位置に置かれている。で、上記の動かし方で動かす数は3、つまり奇数だ。奇数+奇数=偶数だから、どう動かしても偶数の
位置、すなわち2か4の位置に指が来るのさ」
「ほうほう、で?」
Uはメモを見ながら納得するが、その先を考える気はさらさら無い。
「後は同じさ。上記の動かし方を奇数と偶数で表すと、こうなる」
1.1の位置から奇数動かす→指は偶数の位置
2.偶数の位置から偶数動かす→指は偶数の位置
3.偶数の位置から奇数動かす→指は奇数の位置
4.奇数の位置から奇数動かす→指は偶数の位置
「つまり、俺は指を偶数動かすか、奇数動かすかで、動かす指をコントロールしていたわけだ」
「ん、じゃあ最後の『右に2動かす』っていうのは?」
「最後の指の位置を偶数の位置にしておくのさ。つまり、2か4の位置だね。たとえば2の位置にあって右に2動かせば、そのまま4の位置になるし、4の位置から右に2動かすとすると、4→5→4という動きになってやっぱり4の位置に指が来る。ということで、必ず指は表向きのトランプに来るわけさ」
「ちょっと待て、じゃあ好きな数を動かすときはどうなるのさ?」
ふとUはメモを見てTに指摘した。数字が固定されているならともかく、好きな数の場合はどうなるのだろうか。
「ああ、指を動かすほうに主導権を渡すって言うのは、まったくのでたらめさ。どんな数でも、二倍すれば必ず偶数になるだろ。つまり、好きな数を二回動かさせる、ということで、二つの動きで偶数を作っていたわけだ」
「てことは、誕生日や性別で動かす数を分けてたのは……」
「数字見たら分かるだろ。相手がどんな性別でどんな誕生日であれ、要は偶数動かすか奇数動かすかだからな」
Tの説明を聞き、Uはほう、とメモを取る。
「T君すごいね、さっきの答えを、手品見ただけで分かったんでしょ?」
Y子は説明を聞いて感動している様子だ。
「まあ、たまたま分かっただけだけどね。でも、こうやって自力で種明かしができると、結構気持ちがいいもんだよ」
ふふっ、とTは謎の笑みを浮かべる。
「まあ、あれか。つまり、この手品はこういう理由を知らずとも誰でも出来るって言うのが結論だな」
「Uよ、それを言ってしまっては種明かしした意味がないぞ」
Tは出していたトランプをまとめ、かばんへ片付けた。