プロローグ
ヒーローと呼ばれていた幼馴染みは、俺を容易く裏切った。
新西暦20年、二つの世界が一つとなりオカルトと科学が共存する新しい世界が出来て20年が経つ。
その間に、魔法科の高校が世界各国の各地に造られたり、人間以外の獣人や竜人との領地協定が結ばれたりと世間では大きな動きがあった。
俺が住む国、倭も山奥では竜が飛び回るほどにオカルトに染まっている。
元々はニホンという国だったらしいが、ややあって新西暦に変わると同時に改名をしたらしい。
天道未空、それが俺の名前だ。
成績はさして優秀といえるものではなく、学校では目立たないようにひっそりと過ごしている。
特徴といえば、珍しい属性の魔術を使うこととか、右目を隠すようにして包帯を巻いていることぐらいだ。
属性は基本、火属性、水属性、土属性、風属性の四つの属性に無属性を加えた五つだ。
大抵の者がこの五つのいずれかが扱え、その他が扱えない。
しかし、俺の場合は基本属性の火属性に加え、氷属性が扱える。
なのにも関わらず、成績が平凡とは俺がどれだけのレベルなのかお分かりだろうが。
二つも属性が使える者は、珍しくはないがそれでも普通に比べたら凄いはずなのだ。
二つ目の俺の特徴、右目に関してだが、これには理由がある。
“授式”。
それは、魔力を使わずに発動できる魔術のようなもの。
それは、一つの効果を持つ超能力のようなもの。
それは、通常の魔術を遥かに上回る力を持つ。
神から与えられし、特別な能力。
それなら、魔術を発動するのに必要な魔力を使わずに済むし、その魔力の量がそれほど多くもない俺でも戦闘ではかな有利にことを運べる。
しかし、何の苦労もなく生まれたときからその力が備わっていたわけではない。
それ自体は、とある幼馴染みに巻き込まれたときの“死にかけた”体験からきている。
あの体験から、全てが変わった。
あれから、自分が取り巻く世界が変わった。
一番変わったのは、自分かも知れなかった。
…………………
……………
………
まだ、俺が幼いころによくつるんでいた幼馴染みの一人、海道夢路。
ヒーローと皆からいわれていて、そんなあだ名が一番しっくりときているのだから凄い奴なのだろう。
俺は、そんな奴と比べられていつも苛立たしかったが。
夢路は、何故か俺と一緒にいることを好んだ。
それが返って、俺とアイツの溝を深める要因となってるとも知らずに。
小学校の帰り道、夢路が俺へ誘ってきた。
「なぁ、ソラ。今日、あの森を探索してみないか?」
あの頃、俺たちはお互いの事を「ソラ」と「ユメ」といっていた。
そして、夢路がいった「あの森」とは少々危険な獣が出ることで子供だけの立ち入りが禁止された場所のことだ。
今思えば、そのときはっきりと断っておけばよかったのかも知れない。
「ユメ、あそこはケモノが出るから危ないって、みんないってるよ」
俺は勿論、そんな危ないところに自ら進んで行きたくはなかったし、夢路と二人で行きたくもなかった。
最初、それで断ったつもりだったが、アイツは執拗に俺を誘う。
あまりのしつこさに、投げやりの気持ちで俺は行くことを了承してしまった。
そう、頷いてしまったのだ。
「なぁ、いいだろ?」
「…しょうがないな」
そして、俺たちは一旦家に鞄を置き、森へと向かった。
大人たちが獣が危険だからと、わざわざいってくれていたのに。
夢路と俺は、そこへ行ってしまった。
…………………
……………
………
「な、なぁ…ソラ、先に行ってくれないか」
「え!?…そんなぁ…」
森へと入った俺たちだが、あまりにも奥へと行き過ぎたせいか、日が傾いて辺りはもう夜の帳が下りようとしているころだった。
不安と恐怖が混じり、進もうとする足の動きを鈍くする。
いい加減戻らないといけないのに、その提案は何度も夢路によって却下されていた。
どんどんと進んでいき、仕舞いには俺に先頭をいかせる。
もしこんなヒーロー君を見たら、皆は幻滅するのではないだろうか。
余裕のある頭でそんなことを考えながら、歩き続ける。
しかし、先程からの違和感で内心の俺の恐怖感は限界まで達しようとしていた。
子供の考えで、俺が焦らないことにより、夢路にパニックを起こさせないようにしようとする心遣いは中々のものだろうと、今でも思う。
ともかく、先程から感じる違和感。
それは、音がしない。静けさだけが、異様に耳についた。
いつからか気付いたときには、俺たち以外の音が消えて、静寂が辺りを包んでいた。
怖い、と全身が震えそうになるが、何とか堪える。
しかし、確実に状況は悪化していると思えた。
そんなときだ、近くの草むらから一つの影が飛び出してきた。
「うわっ…!!」
「――――――ッ!?」
最初に反応したのは俺でも、悲鳴をあげて行動を起こしたのは夢路だった。
簡単だ、俺を飛び出した影に向かって突き出したのだ。
両手でドンと、思いっきり突き飛ばす。
そのまま体勢を崩した俺は、前のめりに倒れ、転倒の衝撃で頭が眩んだ。
次に痛みを感じたところは、右肩だった。
見れば、先程の影―――獣がその歯を立てて喰らいついていた。
「うわ、わぁあああああああああああああああああああああ!!?」
「ユメッ!?」
必死に左手で払いのけようともがく最中に、遠ざかって行く夢路の悲鳴。
一瞬だが、確実に思考が止まった。
そして次の一瞬で、夢路が何をしたのかが理解できた。
逃げたのだ。
俺を、裏切って。
それが理解できたと同時に、俺の顔から表情が薄れた。
右肩の激痛など、喰らいついたままの獣など、そんなことよりも。
この身を焼き切るような、劫火の怒りが全身に行き渡る。
ふざけるな。
そう叫びたかった。
この肩の痛みも、その獣も、周りの評価も、
それら全てが煩わしい。
「――――――ぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」
喉から奔った、絶叫。
瞬間、怒りが、爆発した。
右目が破裂したような痛みに、再度の絶叫が響き渡る。
肩に喰らいついていた獣は、既に離れていた。
それよりも、溢れるような“何か”が凝結し、形作るこの感覚はなんだろうか。
同じように、左目にも痛みが走り、身体が意思とは関係なく暴れる。
痛い、痛いと叫んでいるのに、心は逃げた夢路への怒りで染まっている。
真っ黒な怒り、全てを焼き尽くす劫火と、どこまでも冷たく冷えた絶対零度を含んだ怒りは、全身からあふれ出ているようだった。
頬をに何かが流れる感触がし、触れてみればそれは赤く染まった涙だった。
けれど、今はそれすらもどうでもいい。
倒れていた身を起こし、右の掌を、爪が食い込むほどに握る。
こちらを警戒する獣が視界に映り、その全貌が明らかとなった。
灰色の毛並みで、一メートルぐらいの大きさだ。
だが、今感じているのは、恐怖ではなく怒り。
頭で分かっていた。
自分の今の状態を。
何が出来るか。
何を出来るのか。
「――――――」
零れるような笑みが、自然と表情に出た。
左手を肩と水平にして、ひょいと目の前を払うように振る。
それだけで、突如として俺の頭上に出現した氷柱が標的に向かって飛んで行く。
「………ぎゃうっ!?」
氷属性の魔術、<氷柱>。
ただの氷柱を作り出して飛ばすだけの魔術だが、避けるのはさほど難しくはない。
ただ一直線に飛んでいく氷柱は、横に避ければ済むことだからだ。
そんな<氷柱>が、獣の左足に突き刺さっていた。
「はは…ははは…はっはっはっははははははは!!」
与えられし特別なチカラ、<授式>。
俺の場合は、<不可視の攻撃>。
氷柱を不可視にして、獣に目掛けて飛ばしたのだ。
血を垂らした獣は、そこを庇うようにしながら、なおもこちらを睨んでいる。
それは、獣の本能が敵に背をむけることを逸らしたのか。
どちらにせよ、俺がやるべきことは変わらない。
「グルァッ!」
――――――…<氷柱>と、頭の中で唱える。
次いで、肩の高さの位置に氷柱が出現し、形作ると不可視になった。
それが、吸い込まれるように一直線に、獣の逆の足に突き刺さる。
獣が痛みを感じると同時に、氷柱がその姿を現した。
耐え切れなくなったのか、獣は二本目を刺すと同時に、力なく地面に倒れる。
見れば、鋭利な氷柱の先端が深々と突き刺さっていた。
その光景に、俺の心の奥深いところで奮えを覚える。
「これで、俺はユメにも…」
そこで、俺の意識が薄れていく。
駄目だ、と思っても、力が身体から奪われていく。
身体が倒れ、地に伏した衝撃が全身に伝わっていく。
…………………
……………
………
それが、俺が記憶している全てだ。
厨二展開乙、連載始めました。