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8話

 相変わらずあいつは分かりやすいな。

 俺は修也が消えた席を見ながら次にここに来る予定の人物を待つ。


 大体時間にして5分ほど。


「村正くん。どう?」


 三枝木がさっきまで修也が座っていたイスに座って、恥ずかしそうにしている。


「どうしたんだ?」


 様子がおかしかったので尋ねると、三枝木は顔を真っ赤にする。


「こ、このイスが神村くんのぬくもりで……うわぁぁ」


 うっとりと頬に手をやってにへらぁとだらしなく口角を下げる。

 こ、こいつ、ここまで残念なやつだったか?


 修也に告白するまではここまで変ではなかった……はずだ。

 同じ学校だった俺も、修也にいろいろ言ったが三枝木の小学校時代の事をほとんど知らない。


 中学2年の時に神村についていろいろ相談事をされたことにより一緒だったなと思い出せただけだ。


 結局の所よく覚えてないんだ。

 それはひとまず置いておくとしよう。


「それで、相談って何だ?」


 ここに俺が来たもっともな理由は目の前のこいつに呼ばれたからだ。

 

「そ、その神村くんと一つの約束をしたのよ」


 約束、か。あいつは人との約束は必ず守るのでこれから三枝木が話す約束も必ず守るだろうな。


 そしてあいつは馬鹿だから自分にとって不利な約束をよくする。

 あとになって気づくのだ。


「何か言う事聞いてくれるって……」


 頭から湯気が見えるのは気のせいか? それにしても、これは俺にとって好都合だ。


 前から修也は恋愛ごとに関してかなり奥手だったからこの機会に少しは慣れてもらおうと三枝木に俺は協力している。


 一応参考程度に訊いてみるかな。


「三枝木はどんな頼みをしたいんだ?」


「わ、私は――は、わぁっ。口に出せるわけないじゃない!?」


 何をさせるつもりなんだ!?

 ある意味気になるが訊いてはいけない気もするのでここはスルーにしておこう。


 この様子じゃぁろくな案はでなそうなので考える。

 単純にデートとかでいいような気もする。試しに想像してみるか。


 『お、おい三枝木あんまくっつかないでくれ。……俺無理だぁぁぁあああーーーっ!』


 『私も恥ずかしくて一緒に歩けるわけないじゃない! 神村くんとデートはしたいのに恥ずかしいわよ!』


 見たいな感じだよな。修也はまあ、無理だな。

 ただ、三枝木の場合は自信さえつけば結構いける。


 そもそも、三枝木は単純なのでさっきの想像のようにはならないだろう。


「俺から提案したいんだがデートとかでどうだ?」


「デデデデデデデデ……デぬ!」


 噛んでしまったらしい。

 せわしなく手を動かし、恥ずかしがっている三枝木。


「デートだ。デート」


 もう一度言ってやると大声で怒鳴られた子供が怯むように驚いた後、


「デデデデデデデデ……デート!?」


 どうやら、やっと進んだようだ。

 

「どうなんだ?」


 三枝木は顎に手を当てる。


「い、いい……じゃない」


 途切れ途切れで声も小さかったが確かに聞こえた。


「じゃあ――」


 作戦を伝えようとすると、三枝木は「待って」と俺の言葉を遮る。

 どうしたんだ? と訊こうと思ったのだが、言いづらそうに口をもごもごさせていたので訊くのを止め、話すのを待つ事に。


「……神村くんに迷惑じゃない、かな?」


 唇をギュッと噛み締め、俺から目を外す。

 なんでこいつはそんな答えが分かってるようなことを訊くんだ。


「修也はな子供っぽいんだ。嫌な事は嫌だってはっきり言う奴だ。お前はそう言われたのか?」


 首を横に振り、否定を表す。

 だろうな。さっき修也と話して確かめたが嫌っている様子はなかった。


 まあ、友達としたら好きだと思っているだろうな。

 恋人としてで訊いたら走って逃げ出すだろうな。


「だったら今考えた事はすべて意味がないぞ。とりあえず忘れろ」


「わ、分かったわ。はい忘れたー!」


 便利な頭だ。

 三枝木はイスから立ち上がる。


「じゃーね。また明日」


「いやいや、お前どこまで忘れたんだ?」


「何が?」


 眠るように首をかくんと曲げる。疑問符で埋め尽くされた顔を見るとあきれるしかない。


「これから何を命令するのか考えるんだろ?」


「あっ……。わ、忘れてたわけじゃないわよ! 何その残念な子を見る目で見るのよ! 残念? そうね、確かに私は忘れてたわよ。残念よ! 残念な子ですよーだ! 好き勝手に馬鹿にすればいいじゃない! しなさいよ。ほらさっさとしやがれ!」


 ……終わったみたいだ。

 こいつが時々おかしくなるのは知っている。


 俺の対処法は聞き流す事にしている。

 聞く必要はないし、聞いたら耳が痛くなるだけだし。


「忘れていないのは分かった。それで、デートなんだがどこでしたい?」


 肩で息をしながらイスに座りなおした三枝木に再度質問。


「そ、そうね。ゆ、遊園地かな」 


 妥当だな。俺は一度もデートなどしたことはないのでどこに行くのが当たり前なのか知らないがおかしくはないだろう。 


 もじもじ髪の先を弄くっている三枝木の横顔を見る。


「いいと思うぞ。いつ行きたいんだ?」


「なるべく早く」


 さっきまでと打って変わり真面目な色が混じっている顔つきに。

 三枝木の周辺の空気が変わるほどに真剣さが伝わってくる。


 時々、俺には事情がまったく分からないが三枝木は真剣になることがある。

 慣れているって程じゃないけど多少慣れているので俺はすぐに返事をする。


「じゃあ、明後日の土曜日にしよう」


 俺の提案を聞きパァッと顔を輝かせる。

 表情がころころ変わるところはとてつもなく子供っぽい。


 子供っぽいところは修也に似ているな。


「じゃあ、今誘ってくる」


「待て」


 即座に体を翻した三枝木を掴んで止める。


「何?」


「今は誘うな。土曜日の朝に『今日一日なんでも言う事を聞いてもらう』っと言う事で誘えばデート以外のことも頼めるぞ」


 本当はこの先何でも言う事を聞く、とかも思いついたんだが、それは絶対に修也が嫌がると思うのでやめておく。


 まあ、いいかなと修也が思えるラインはここだ。


「も、盲点だったわ。まさかここまで策士だったなんて……。頭堅そうなのに」


 ぐわぁぁぁー! 心に凄まじい痛みが走る。

 胸を手で押さえるが物理的な痛みじゃないので意味はない。


 ……ひどい。


「分かったら、さっさと帰れ。暴走女」


「なんか引っかかる言い方してるわね。まあ、いっか。村正くんいろいろ今までありがとね」


 今にも壊れだしそうな果敢ない笑みを浮かべて、去って行った。

 妙に心に引っかかる物が合ったが俺には理由なんて分からない。


 何か、三枝木は隠してるのか?

 だけどすぐにその考えは捨てる。


 俺にはこいつの考えが分かるはずがない。

 それに何かあれば修也が解決してくれるだろ。


 俺の言葉よりもあいつの言葉のほうが不思議と心に響くんだ。

 それに俺は午後から明日の模擬戦の練習があるのでそろそろ行かないとな。

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