7話
俺は隠し部屋の中央にある台座の上に乗っているカードに手を触れる。
隣には暴走を終えて肩を落とした三枝木もいる。
『神村修也。三枝木紗枝。二名の合格を確認。10秒後に帰還魔法が発動しますのでその部屋から出ず、おとなしくお待ちください』
ミッションをクリアして、カードから女の人の聞き取りやすい声が聞こえる。
このダンジョンは科学でできていると言ったのは覚えているか?
カードから聞こえた声はこのダンジョンを管理している人の声だ。
ダンジョンはいろいろな機械があるから今のこの状況も向こう側からは見る事ができているだろう。
そんな場所を管理する人はさぞ大変だろうな。
俺達は言われたとおりおとなしく地面に座り込んで休憩している。
戻ったらモンスターが出現した事についていろいろ言ってやるかな。
ちらと三枝木の方を見るとたまたまか、じっと見ていたかは知らないが三枝木と目が合ってしまった。
ぶわぁと顔を赤くすることにすべての力を使ったかのようなぐらいに耳までを高速で赤くする。
「ずっと見てたわけじゃないわよ! 神村くんの横顔かっこいいなぁとか思ってたわけじゃないわ! 断じて違うわ! ってこれじゃあずっと見てたみたいじゃない! ちょっと今の忘れろぉーーーっ!」
三枝木が喚くと、それを合図にしたかのようなタイミングでカードが光る。
光は別に目を瞑らなくても大丈夫なほどだったが、三枝木は本能なのか目を閉じていた。
数秒光に包まれていた部屋が変わった。
このダンジョンに入ったときの部屋――機械だらけの部屋に俺達はいた。
周囲を見回すと、何日も洗濯をしてないかのようにやつれいる白衣を着た女性がこちらに歩いてくる。
「ああ、悪いなこちらの手違いでモンスターが出現しちまって……」
ぼりぼりと男のように髪を掻き毟りそれから、ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべる。
「それより、なんだ? お前たち付き合ってたのか?」
先生も女なので恋の話には興味津々のようだ。
探るような目でじろじろ見てくる。
「そ、そそそそそそそそんなわけないですよ」
俺はどもりまくって否定する。
「そそそそそそそそそそそそんなわけありますよ! 菊乃さん!」
こら三枝木! なにちゃっかり認めてんだ!
ん? この人菊乃さんって言うのか? って今はどうでもいい!
「はっはっは。まあ、若いんだからな。それにしても人気者の三枝木紗枝がねぇ?」
顔を俺に近づけて、「ふぅん」と何かを確かめるように頷く。
「なんですか?」
この人何歳か知らないが顔は美人顔でずっと見られていると少々恥ずかしい。
「ん、いやなんでもない。紗枝のことは……記憶には残ってないか。紗枝こいつに話したのか?」
突然わけの分からない事を。どうしたの?
「話しませんよ。それに、そろそろ限界ですよね?」
「ああ、そうだな」
「だから別にいいです」
三枝木は寂しそうな表情を浮かべる。二人にしか分からない会話だ。
俺には理解できない何かが原因なんだと思うが……それを訊く事はなぜか俺にはできなかった。
なんだろう、この感じ。変な感じだ。よく分からない。
「そうか、あれから、もう4年か」
「先生、それじゃあ、私達は帰りますから……さようなら」
「ああ、じゃあな。ほら、神村。彼女が行ったぞ。さっさと後追ってやれ。……見失わないようにな」
俺は何か事情を知っていると思われるこの先生に話を訊きたいと思ったが担任に報告に行くには二人で行かなければならないので俺は仕方なく三枝木を追った。
「おーい! 三枝木! 何か落ちたぞ?」
俺は落ちた何かを拾い上げる。
お守りのようだ。すこし汚れた感じだが長年つかった物にしか宿らない特有の肌ざわりがする。
大事に使われているんだろうな
そんなものを落とすなんて一体どうしたんだろう?
お守りをよく見てみると、紐が切れてる。
「あっ! それ!」
「三枝木のだよな? 紐切れちまってるぞこれ」
三枝木の手に握らせると、嬉しそうに目元をゆるめた。
「拾ってくれてありがとう……」
お守りをポケットにしまって、こちらに顔をむける。
「大事なもんなんだろ?」
「うん、お兄ちゃんがくれた、大切な物」
「そっか」
深くは聞くのはやめよう。
悲しげに目尻を下げたからな。
先生に報告を終えて俺は昼飯をとりに食堂へ移動する。
三枝気は食堂に来た瞬間どっかに消えたんだよな。
「無事、終わったみたいだな」
俺が一人友達がいない人のように飯を食べていると、声がかかり、凜也が対面の席に腰を下ろす。
「おう、まあなー」
軽く挨拶をして食事再開。
特に話すこともないからしょうがないと言えばしょうがねぇな。
「そうだ。一つ聞きたいことがあるんだが……三枝木の事で何か心境に変化はあったか?」
どういうことだろ。心境に変化って事だからす、好きになったとかか?
「うーん。別に一緒に居ても嫌じゃないけどって何にやついてんだよ!」
凜也は俺の方をニヤニヤと嫌な笑みで見てくる。
俺は恥ずかしくなったので、ご飯を掻っ込み凜也から逃げるように食堂から走り去った。