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5話


「「ぎゃぁぁぁぁあぁぁぁぁあーーーーーっっ!!」」


 俺は浮遊感の中、現状の理解を始める。


 言われていたダンジョンは今回は魔物がいないのは知ってるんだよ。

 だけどトラップがあまりにも酷い。


 俺達は出発してすぐにトラップに引っかかった。いや俺達じゃないな、三枝木が。

 三枝木が「よっしゃいくわよーーー!」とか意気込んで踏み込んだダンジョンへの一歩で。


 床が、がこんとへこみ、それに呼応して俺と三枝木のいた足場が消え去った。

 落とし穴。古典的だがこれは痛い。


 そして悲鳴をあげながら今なのだ。


 それほど深くはなかったので、落ちたときの傷はない。

 まず最初に目を開けると、闇一色だった。


 落ちた先は近くにいないと人の顔さえ見えないほどのあたり一面が闇に覆われた部屋。

 暗すぎだ。


 軽い重みと柔らかい何かが俺にあるので確認する。

 それは一緒に落ちた、そもそもの原因の女の子――三枝木。


 重なるようにして乗っている三枝木はまったく重くない。まるで体がないかのように軽い。


 そのおかげで俺には被害がないのでよしとしよう。

 いや、なくはないな。


 胸などが背中に当たっているんだ、大問題だ。理由は……でかいのだ。

 失礼かもしれないけど、体の神経をすべて背中に集中させ、って、失礼だろーが俺! 


「三枝木どいてくれ」


 そう呼びかけると。

 まだ落ちたショックで多少意識が朦朧としているのか、三枝木は、


「まだねむいわよぅ。あとごふん」


 甘ったるい声で言った。

 なにやら朝起きるのと勘違いしているようだ。


 まあ、三枝木がどくのを待たなくても俺がどかせばいいか。俺が少し動いた瞬間。

 三枝木が「ふみゅ」とか言ったと思ったら。


 うわぁぁぁああああーーーっ! 顔をぐりぐりするな! 一緒に胸もひしゃげておしつけられてるから! 何!? そんなに俺を苦しめたいのか!? じわじわいたぶりたいのか!?


 なんて悪い性格をしているんだ、三枝木紗枝。ドSめ!


 俺の心の叫びが聞こえたのか、それ以降は電池がなくなったロボットの如く止まった。

 よし、いまのうちだ! せっせと。


 昨日停止状態の三枝木の下から脱出完了。


 抜け出るとき、胸がいろいろな場所に当たったけど本人は気にしてない――意識がなさそうだから俺も気にしないようにしよう。


 ほんと軽いな。羽でも生えてるのか?


「うぅ……はっ! ここは!?」


「トラップで落ちた先の部屋だからどこだかわかんねぇな」


 わざと口に出して言ってみる。


 俺はあっさりトラップに引っかかった三枝木をじとぉと見ると、さすがに罪の意識があるのか「うっ」と唸ってから、


「私は『わぁ、神村くんと一緒にミッションを受けるんだ。二人だけでデートみたい』とか思ってわくわくしてたわけじゃないのよ? それで油断して周りに目がいかなくなってた訳じゃなくって。そう、これは作戦なのよ。ほら今回の目的地は地下よ。ってことは落とし穴にはまれば下の階へとショートカットできるのよ。まあ、なんていい作戦なのかしら。……黙ってないで褒めなさいよ! 褒めてよ! 褒めて頭でも撫でなさいよ! ほら、ハリーアップ!」


 頭突きをするように勢いよく頭をこちらに向けてきたので、すんごく恥ずかしかったが


撫でてやる。


 まったく抵抗しない三枝木の髪。撫でているこっちが本当に気持ちよくてずっと触っていたいなぁって思っていると。


「ぎゃぁぁぁあああああーーー!」


 突然三枝木がわめいた。

 どうしたんだ!? またトラップか!? と思っていたのだが。


「何ほんとに撫でてるのよ! 気持ちよかったじゃないの! ご馳走様でした! さよなら!」


 暗闇でも分かるほどに顔を赤くしてどこかへと走って行き、壁に激突。

 今やばそーな音がしたけど大丈夫?


「いたたた。なんで壁あるのよ。うぅ、でこぶつけた」


 部屋ですから。三枝木は額を押さえながらこちらに戻ってきた。

 明るい髪は暗い部屋でも蛍光灯のように明るくて、目立つ。


「とりあえずこの部屋から出よう」


 俺はそこで提案してから、どうしようか考える。

 これだけ暗いと周りが見えないし、少しでも離れると俺達の姿が見えなくなっちまう。


 互いに姿が見えなくなるのはまじぃよなぁ。

 そのままはぐれました、なんてことになったらミッションどころの話じゃない。


 だったら手でも繋げばいいんじゃないかと思ったけど、それはなんかその後が予想できる。


「ねぇ。こう暗いとお互いがよく見えないから、そ、その手でも繋ぐ?」


 以外にも三枝木の方からそれを提案してくれた。


「別にいいけど――」


 お前は大丈夫か? 暴走しないよな。って言おうとしたらすでに俺の左手を優しく握ってくる。

 

「ええと。壁に手を当てながら歩いて行くぞ」


 俺はあいているほうの手を伸ばして壁を探る。

 壁に手がついたら、そのまま手を当てたままどこかに脱出口がないか探す。


「ねえ、ここなんか変よ」


 俺の手を掴んだままあいたほうの手で壁を叩いている三枝木。

 三枝木が叩いている辺りを俺も叩いてみる。


 少し沈む?

 トラップの一種かもしれないが今はこれにかけるしかねぇなぁ。

 

「この先に道があるのかもな。よし、押してみるか」


「そうね、一緒に押しましょ。1、2、3で行くわよ」


「分かった。合図してくれ」


 俺と三枝木は繋いでいた手を離して、両手を壁につける。


「せーのっせ!」


「ええ!」


 合図が違うじゃん!

 特に問題があるわけじゃないけど、こう気持ちの持ちようが……。


 合図が違ったせいで、少し遅れて俺も押す。ぐごごと重そうな音を出しながら、壁は少しずつ動いていく。

 

 何歩か足が動いていき、止まった。


「これ以上は動かないみたいだな」


 俺の呟きに三枝木は驚いた声をあげて返した。


「あっちから風が入ってくるわ。行くわよ!」


 俺の手を掴んだと思ったら走り出した。

 この暗がりでいきなりそんなことをされるととても危険なんだ。


 案の定。俺はつまずき、三枝木を巻き込んでこけてしまった。


 俺は三枝木に乗るようにこけてしまったのであんまり痛くはなかったけど下敷きにされた三枝木は大丈夫か?


「ちょっと、どこ触ってるのよ! ひゃっ! 動かないで!」


「どうやって俺はお前の上からどけばいいんだよ!」


 三枝木の背中の方へと倒れているのは不幸中の幸いだ。

 もしも前――大きな胸があった方だったら俺はもうだめだった。


「ぎゃ」


「ぎゃ?」


「ぎゃぁぁぁああああーーー! 変態よ! 変態よ! 何、人のお尻断りもなく触ってんのよ! 柔らかい? 嬉しい? それは良かったわね! 私が恥ずかしい思いをしている最中に一人むふふですか!? さぞかし嬉しい事でしょうね! だったらお返しに抱きしめて! 抱きしめたまま『紗枝、愛してるぜ、べいベー』とかかっこいいボイスで言って! ほら早く言いなさいよ! というか言ってくださいよ! よろしくお願いします!」


「ごめん、ムリ」


 さっきの頭を撫でるのとは違い難易度が高すぎだ。

 だ、抱きしめてって。

 

 実はこいつの中では俺は付き合っていることになってるんじゃないかと疑ってしまう。

 俺の言葉を耳にした瞬間、明らかにテンションが下がって、小さい声で、


「ごめんね、無理言ってごめんね。せめて、頭撫でて」


 結局そこに戻るんかい!

 さっさと三枝木の上からどき、三枝木を起き上がらせる。


 ついでに髪を軽く撫でると、


「ふにゃあああああああ! ちょっと、なんで髪なのよ! 頭を撫でなさいよ! 頭よほら!」


 ぶべっ! 前のときと違い俺達は結構近くにいたせいで、三枝木の頭をこちらに向ける動作によって、頭突きされた。


 ふわぁと鼻の中いっぱいに三枝木の女の子っぽい香りが広がり二つの意味でクラリと来た。


 俺はダメージにより後ろへと倒れる。


「神村くん! 大丈夫?」


 犯人はお前だっ! って言ってやりたいけど、本当に心配してくれてる様子をみるといえなくなる。


「ごめんね、迷惑ばかりかけて。どうせ、私なんて一緒にいても邪魔ばっかしちゃうのよ。はんっ。優等生? 好きな子の前でいいところも見せられないなんてどんな優等生よ! なに? あなたは世界一間抜けな優等生ですよっみたいな? ばっかじゃないの? 間抜けなのに優等生って矛盾よ矛盾。あれ? もしかして私ってバカ?」


 俺を介抱しながら1人落ち込んでいた。

 だんだん分かってきたのはこの人は暴走することが多いことだ。


 てっきり俺の告白の返事を待っていて頭のネジが吹っ飛んでるのかと思ったら、難しく考える必要はなかった。


 最初から頭のネジが吹き飛んでいるんだ彼女は。

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