23話
どうにか考えろ、俺。
成功法で戦っても勝てない。
勝つためには足止めをして、俺の最高威力の砲撃をぶつけるか、魔力の供給を絶つ。
前者は無理だ。
なら、後者は?
そこで今までの女の行動や菊乃さんの言葉が俺の頭に湧き上がっていく。
――紗枝がいる黒水晶は洞窟だ。
俺はさっきの場所以外は探したがなかった。
さすがに探す場所が多くても凜也も探し終えてこちらに向かっているはずだ。
でも、女の子が魔力を供給してるのは分かっている。
手を向けた方向は?
そう言えば、俺が最後にいた洞窟に手を向けていたな。
あそこにはなかったが、相手は魔族なんだ。
――ここで戦うのはやりにくいわね。
あいつと対面したときにこう言ったんだ。この言葉の意味を戦いにくいからと思っていたがそれは違ったんだ。
そもそも俺は魔力を消してたんだ。
俺が見つかるはずがないんだよ。
あいつ自身自分の幻覚魔法に気遣いながら戦うのが大変なんだ。
勘だけど。
幻覚の魔法で黒水晶を隠したりしていてもおかしくないはずだ。
俺はそこに気づけなかったが凜也なら気づいてるはずだ。
ここにこいつが現れた――つまりここに紗枝がいるってことだ。
攻撃が来るとかでやばいと思っていた俺はそこまで考えている暇はなかった。
だけど、今ピンチだが時間ができてる。
おかげで、倒す方法が見出せたな。
俺は魔法銃の制御装置を破壊する。
これで、魔法銃によって制御されることがなくなった。
俺の魔力を抑えることなく使える。
「まだ、何かするのかしら? それとも、死ぬ覚悟でもできたのかしら?」
「ああ、覚悟はできたさ。その前に最後の話し相手にでもなってくれよ。死ぬ前に可愛い女の子と話をしたいんだよ」
適当に、何でもいい。
とにかく魔力砲の充電が溜まるまで、時間を稼ぐんだ。
可愛いと言われたのが不意だったからか女の子はわずかに顔を赤らめる。
それでもそれを悟られないように髪を掻き揚げた後ににこっと笑う。
「そうね。私も暇だし最後の話し相手になってあげるわ。あなた名前は?」
「神村修也だ。アンタは?」
「私はリール・ブラインよ」
よし、食いついてきたぞ。
俺は気づかれないように微量の魔力を伝達していく。
とりあえず、聞きたい事を訊いてみよう。
「魔族って魔物が進化するんだよな? じゃあ、この世界に本物の魔物がいるのか?」
魔物は俺は嘘だと思ってる。
学校の実習で戦ったモンスターはデータなのだ。
パソコンでデータを入力して、微量の魔力を流せば簡単に作れるんだ。
ゲームのようなものだ。ダンジョンも同じように作っている。
ダンジョンは確かにこの世界にあるが、ゲームのような魔物なんていない。
精々いても、野良犬だったりなんだ。
実際国の魔法隊も魔法犯罪に対して活動する事のほうが多いのだ。
魔族に対抗するために出動した事は俺の知る限り、ないんだ。
だから、突然現れるモンスター――魔物はそう言ったデータを使ったものだと思っているんだ、俺は。
「この世界にはいないわ。あなたはキクノ・リリーナルに魔界の説明を受けたかしら?」
「知らん」
あの時は時間無かったし――聞きたくもなかった。
というか菊之さん日本人みたいな容姿の癖にそんな外人みたいな名前だったなんて。
まあ、目の前のリールもそうだよな。
「魔界には時々、人間界に穴があくことがあるのよ。その穴から魔物が来たり、私やキクノのような魔族が旅行に来たりね」
随分と迷惑な旅行をするやつがいたもんだな。
確かに外国に行ったら自分の事をしるやつがいなくてはっちゃけたくなるのも分かるがそれを実行しちゃダメだろ。
「魔物はいるわ。ただ、魔物が魔族に進化することはないわ。私達の先祖は確かに魔物だけどそれは人間と猿のようなものよ。猿が突然人間になることもないでしょ?」
俺は首を縦に振る。
リールってもしかして話したがり屋か?
確かに説明をしてくれるように頼んだけどここまで説明してくれるとは思っていなかった。
ちっちゃい癖に話し方は固いし、なんか変な子だな。
「魔物が突然魔族に進化するわけは無いわ」
魔界についてはよく分からないが魔族については欠片くらいなら分かった気がした。
猿が先祖の人間のように魔族の先祖は魔物。
他にも訊きたい事はあるが魔力は十分チャージできた。
俺は銃を揺らしながら撃ちやすい場所へ移動する。
足が痛いよ、たく。
少しずつ歩き、やっと撃ちやすい場所に移動した。
リールは完全に俺を舐めてるおかげで特に怪しまれずに移動もできた。
「リール。もしかしたらお前が悪い奴じゃなかったら友達になれたかもしれないな」
「私はあなたを気に入ったわ。私はあなたを奴隷にすることに決めたわ。幻覚魔法をかけて、記憶を消して、私のいいなりになる奴隷にしてあげるわ」
「やっぱり、幻覚魔法か」
今の発言で俺の予想は確定に変わった。
俺は持ってる銃を持ち上げ、リールの方に顔だけを向ける。
「あんた、ここに黒水晶があるんだろ? それがここで戦いにくい理由だ。最初は暗かったりそういった条件だと思ってたんだけど違ったみてぇだな」
みるみるうちに顔に焦りの色を浮かべる。
超速い蹴りで倒したりすればいいのだが、あいつが魔力を供給していないのは知っている。
今からチャージして攻撃に移る間に俺の砲撃が終わってる。
そもそも魔力があったとしても瞬間移動じゃないんだ。
俺はトリガーを引くだけ。
「俺はあんたに勝つことはできないけど、凜也がここに来てお前を倒してくれる。紗枝! 聞こえてるか知らねぇけどちょっと痛いと思うけど我慢しろよ!」
俺はリールのまってくれと言う言葉を完全に無視して引き金を引いた。
あまりの威力の魔力砲が洞窟に迫っていく。
撃ってる俺が吹っ飛ばされそうなほどに威力がある。
魔力砲はでかすぎる。
直径一メートルくらいはあるんじゃないか?
銃がみしみし悲鳴をあげている。
魔力砲が洞窟にぶつかり一瞬抵抗したかと思ったら一瞬でぶっ壊れた。
完全に洞窟は消えたが黒水晶だけが残っている。
やっと見つけた。
俺は何とか照準を黒水晶に合わせて、魔力砲をぶつけた。
なかなか強度はあり数秒止めたかと思ったが、やがてばきっと言う音と共に砕け散った。
そして制御できなくなった俺は魔力砲の威力に撃ちまけ、吹っ飛んだ。
作用・反作用かよ。
こんな時ぐらい仕事を休んでくれよ。
間抜けに吹っ飛び俺は近くの木に背中をぶつけてとまった。
魔法銃は完全に使い物にならなくなった。
「神村修也。あなたは随分とくだらないことをしてくれたわね。あなたを奴隷にするのはやめたわ。ここで、殺す」
リールは長い髪を逆立たせ、右手に緑色の――風で剣を作った。
どうやらあの程度の魔法を作る魔力しか残ってねぇらしいな。
俺の目の前まで歩いてきて、にぃっと鳥肌がたちそうな笑みを作り出す。
「人間の死ぬ間際の悲鳴を聞けるなんて最高よ。さぁ! 私の怒りを静めるほどに綺麗に鳴きなさい!」
ゆっくりと剣を――腕をあげ、
「勝手に人の恩人を殺さないでくれない?」
振り落とした。
だが、その攻撃は俺には届く事はなかった。
「修也くん久しぶり」
俺が落とした剣で――元々は紗枝のもの――リールの腕を止めていた。
「久しぶりだな。ええと、二日ぶり?」
「うーん。そうね」
裸のまま、はにかむ。
ちなみに俺は紗枝の顔に視線をばっちり固定だ。
少しでも下に向けてみろ。
俺の理性がぶっ壊れちまう。
「三枝木、紗枝……! あなたが私に勝てると思ってるの? 子供の頃に負けた、あなたが? 今すぐに二人とも仲良く殺してあげるわ」
紗枝は体を震わせる。
紗枝は一体どれだけ長い間恐怖に耐えてたんだろう?
紗枝の恐怖は俺には理解できない。
ただ、安心させる言葉ぐらいなら俺でもかけられる。
「殺す、殺すって、随分と物騒なやつだな。でもな、お前は俺たちに勝つのは無理だ」
子供のように小さい体なんだから中身も子供のようになってくれよ。
「なにがいいたいの? 死に掛けの男に、一度負けた女。私が負ける要素は一つもないわ」
余裕なのか、口元にさっきとは違う種類の笑みを浮かべる。
いちいち大人のような仕草をするなこいつ。
だけど、余裕の笑みもそこまでだぞ、リール。
「確かに俺と紗枝だけだと勝つのは難しいさ。だけど、なさっき俺の言った事を忘れたのか?」
俺が言った事はどうやら覚えてないらしく首を傾げる。
俺がお前に言いたい事は一つ――人の言葉はちゃんと覚えておけよ。
今回はそのおかげで助かったんだ。
「修也ここからは俺とバトンタッチだな」
――一閃。
峰のほうで打つようにしてリールの体を吹き飛ばす。
ボールのように綺麗に飛んでいったリールは受け身をとることなく――どすん。
地面を雑巾掛けする。
打ち所が悪かったらしくピクリとも動かない。
「凜也。肩貸してくれ」
「おうよ。あいつはどうする?」
凜也は俺に片手を出しながら開いた手でリールを指差す。
「連れて行こう。ここにおいといても何しでかすかわかんねぇし」
「そうか、でこいつは?」
そう言って、凜也は裸の紗枝に顔を向ける。
お前はなんでそんな冷静に対応できるんだよ!
でも言いたい事があったし、言っておくか。
「紗枝、会いたかった」
俺の言葉をどういう風にとったか分からないが頬を染めもじもじする。
顔に視線を固定しているのだが揺れるもんだから胸も揺れやがる。
「わ、私も逢いたかったわよ! 修也くん!」
「お前に会って渡したいものがあったんだ」
「えっ!? そ、そんなこんな所で結婚指輪はその恥ずかしいけど嬉しいわよ!」
「ほら」
俺はポケットに仕舞っておいたメモ帳を取り出し放った。
「はぁ? これなに?」
な、なんだ今の声。
すごい面倒そうな声だったぞ。
「も、しかして渡したいものってこれ?」
「ああ、お前が俺にその、告白したときに落としてたみたいだからな。菊乃さんに記憶を戻してもらったときに思い出したんだ。いやぁ、よかったよちゃんと返せて」
俺はそのまま、うんうんと頷き、見てしまった。
大きな胸の先にある可愛い乳房。
俺の顔が固まってるのに気づいて紗枝は俺の視線を辿り自分の体を見た。
「わ、た、し! 裸じゃない! えっ! ちょっと待って! もしかして、ずっとこれだったの? 私は露出狂か! なんか体が開放的だなぁとか思ってたけど……! まだ、結婚してないのに裸を見られるなんて! 修也くん記憶を消しなさい」
「無理だから……」
「――だったら私が消してやるぅー!」
どがどがどがどが剣の柄で俺の頭を殴打してくる。
俺の体が限界なのは知ってるだろ?
そんな俺がこんなヘビー級な攻撃をくらって耐えられると思うか?
無理な話だね。