19話
まったく思い出せない。
俺は夢遊病だったのか?
休み明けの月曜日。
朝起きて一週間着ていた制服に袖を通しながら昨日一日悩んでいたことについてまた考えていた。
「おーい修也。朝は緊急全校集会だそうだ」
寮から出た瞬間を待ち伏せていたかのように凜也が現れた。
忍者のようにいきなり現れたので俺はびびって両手をあげた間抜けなポーズをとってしまった。
「おまえ、朝から変なポーズを取ってるがなんだ? 体操か?」
「いきなり現れたからビビッたんだよ!」
ええと、緊急全校集会だったな。
前にも一度だけ緊急全校集会があったがあんときは確か近くの街にモンスターが現れたんだよな。
で、街の人々を避難したんだよな。
今回は何だ?
体育館に向かうとたくさんの人が集まっている。
みんながなんだ、なんだと喚いている。
それにしても高等部の人だけでも何人いるんだろう。
毎回この学校の生徒の人数には驚かされるよ。
大人数が集まる体育館はそれでもまだ余ってる場所があるなんて、どんだけでかいんだよ。
それぞれ自分のクラスの場所で綺麗に並んでいる。
俺も自分のクラスの場所へと行き、集会が始まるのを待つ。
数分後先生が壇上に上がり生徒が静かになった。
「この島の外れにある海近紙市の中にある森で魔族が出現した」
海近紙市って、俺の住んでた場所じゃねぇか!
その後高等部の三年生が意識不明とか細かくいろいろ話があったがもう耳には入らなかった。
集会が終わったらすぐに先生のところに行ってやる。
街の人は大丈夫かな?
あの街には世話になったから見に行きたい。
「科学部門の菊乃だ。魔族は国の魔法隊がどうにかする。だから絶対に近づくな。あと神村修也。後で研究室に来い。以上だ。解散」
あの人って確か、ダンジョン出たときにいた人だよな。
ダンジョン?
そういえばあの時のは確か二人で行ったよな。
俺はあの時誰と行ったんだっけ?
すぐに思い出せない。たぶん凜也だったはず……だよな?
集会が終わり生徒はいろいろな表情を見せていた。
俺はその人たちを見たりしながら菊乃さんに言われた研究室に向かう。
「お前なんかしたのか?」
体育館を出る途中凜也がやって来た。
俺はさぁと肩を竦める。
何もしてないはずだが先生に呼ばれるとなんか不安になる。
なにもしてないよな、俺よ。
「ああ、そうか。どうせ夜中に寮を抜け出したりしたんだろ?」
「してねーよ。つうか、お前はクラス戻ったほうがいいんじゃないのか?」
「途中までついて行くだけだ」
「まあ、いいけど。というか少し聞きたいことがあるんだけど……」
俺の聞きたい事とはさっきの先週にあったミッションについてだ。
どうにも腑に落ちないんだ。
何か、忘れてはいけない事を忘れてしまっているような、そんな感じだ。
「何だ?」
「先週のミッションって俺とお前の二人で行ったんだよな?」
「はぁ? 俺はクラスの女子と行った。お前は……あれ?」
あり? どうやら俺は凜也とは行っていなかったみたいだ。
じゃあ、誰と行ったんだ?
「俺は誰と行ったの?」
「覚えてないのか?」
「まったく。お前は?」
こいつは俺の事を俺が知らないような事まで知っているから知っていると思っていたが難しい顔で首を横に振った。
おかしい。絶対に何かがおかしい。
「少し気になるな。クラスについたし、ちょっと聞いてみるか?」
「不安な要素は少しでも排除しときてぇしな」
研究室には少し遅れるが大丈夫だろ。
俺は方向転換してクラスに入る。
「おーい、みんな。先週修也とミッション組んだやつ誰か覚えてるか?」
凜也はすでに集会から帰っていたクラスのみんなに聞いてくれた。
が、誰も返事をしてくれない。
「誰も組んでないって」
凜也がこちらに顔を向ける。
俺は目の前が見えないよ、涙で。
どうやら俺はこのクラスの連中に嫌われてるらしい。
「うわぁぁぁーーーー! お前らなんて嫌いだぁーーーーっっ!」
俺は教室を飛び出した。
「研究室行けよー」
「分かってるわい!」
俺は寮に向けていた足を逆にする。
忘れてなんかないからな!
凜也はバカにしたような笑い声をあげていた。
あいつ、ぼこす。ぜってぇぼこす。