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15話

 ああ、気持ち悪い。

 俺は食事をする前にトイレに一度行くと申し出て、今トイレ。


 腹を何度もさすってみるが相変わらず気持ち悪い。

 でも、食っても大丈夫かもな。


 俺は顔を叩いて気合を入れてから、「よし」と叫んでトイレから出る。


「だ、大丈夫?」


 トイレから、紗枝のいる場所に戻るとすぐにこの言葉が返ってきた。

 やっぱちょっと長かったかもな。

 

 そりゃさっきの今だと心配しちまよなぁ。

 頭を掻き毟り、どう言い訳をすっか考える。


 ただ、大丈夫って言っても無駄だって事はトイレに行く前の会話で既に分かっている。

 

 中々いい案が思いつかなかったが、ふと頭に強行突破という文字がよぎる。

 そうだ。こういうときは気合で強行突破しておけばいいんだよ。


「大丈夫だ。そんなことより昼飯食べようぜ」


「……そうね、ほら弁当よ。箸は……あっ」


 間抜けな声をあげ、間抜けに口を半開きにしてこちらに向く。


「ま、さ、か」


 にぃっと頬を引き攣らせて俺は言葉を続ける。


「箸……忘れたのか?」


 俺の声が耳に届くと同時に紗枝はベンチから立ち上がり、手にアスパラガスを持って叫んだ。


「……箸忘れたのよ! お弁当作るのに力を入れすぎて箸を持ってくるのを忘れてたのよ! 箸入れたと思ったらアスパラガスだったのよ! これでどう食べろって言うのよ! バカ! 私のばかぁぁあーーーーーっ!」


 アスパラガスを太陽に向かって思いっきり投げつける。

 俺はその光景をうわぁと思いながら紗枝が作ってくれた弁当を持つ。


 ふたをとり中を確かめてみると俺の好きなから揚げ、ハンバーグ、ウインナーにだし巻き卵が入った健康的にあまりよろしくない弁当があった。


 俺の好きな食べ物しかない。

 と喜んでいたんだが何か足りないという事に気づいた。


 弁当はどう考えても一人分の量しかない。それに白米などの炭水化物がない。

 これ、箸以外にも他にも何か忘れてんじゃないか? 


 俺がそのことについて発言してやろうとした矢先。


「ぁぁぁぁああああぁぁぁあああーーーっ!」


 どかっと俺は驚き足をベンチの足にぶつけてしまった。

 痛い。俺は手に持っている弁当を横に置いて、足をさする。


「ご飯の弁当と野菜の弁当忘れたぁぁああーーーー!」


 ああ、足が痛い。

 打ち所が悪かったみたいだ。


 ベンチにふくらはぎをぶつけるなんて滅多にないぞ。

 痛みが引いたときに俺は紗枝と顔を合わせて笑った。


 なんかいろいろバカみたいだ。

 それから俺達はいろいろ思案した結果、このおかずを食べたのち近くの食べ物屋へと入った。






 いろいろあったが一日が終わりに近づいていた。

 長かったようで短かった一日。


 嫌とかそんなことは思わなく、むしろ……楽しかった。

 女子とこんな楽しく遊んだのは小学生の時以来だ。


 というか女子と遊びに行ったのはそれが最初で最後だったけどね。

 俺の好きな人。思い出せないけど、その人は紗枝に似ていた。


 明るくて、真面目だが、抜けているところもあるそんな人。どこか守ってやりたくなるような人。

 

 紗枝も似てる。せめて、紗枝に好きな人が出来るまではいろいろと面倒みて――守ってやろうじゃねぇか。

 告白を断ったんだからそのぐらいはしてやらねぇとな。


 そこまでする必要もないと感じたが、それでも俺はやろう。

 帰りのバスで俺は一人、決心を固めていた。


 バスから降りて寮までの道を並んで歩く。


「ちょっと、待って」


 突然紗枝が苦しそうな声でそう言った。

 俺は横に顔を向けたがそれより少し後ろに紗枝はいた。


「私、あなたにずっと言いたい事があったのよ」


「ずっと?」


 それはいつからの事なのか。

 俺が紗枝と出会ったのは小学生の頃らしい。


 俺はその事を凜也に言われて初めて思い出したほどに紗枝の事を忘れていたんだ。

 だから何も思い当たらないぞ。 


「私のお父さんとお母さんがいないことは知ってる? ううん、覚えてる?」


 なぜ言い換えたのか気になるが俺は首を横に振る。


「私小学校の頃両親を事故で失くしたんだ」


「そりゃぁ、その。ん、どんまいだ」


 重い空気になりつつあるので、何とか明るく返事を返した。

 紗枝は俺の態度に……笑っていた。


「何も覚えてなくてもやっぱり修也くんは修也くんね」


「ごめん、全然何が言いたいのか分かんねぇんだけど……」


「と、に、か、く! 私はあなたに伝えたいことがあるのよ。まず約束。私のことはこの先なにが合っても思い出さないで」


「お、おい! なんだよそれ!」


 俺はいきなりわけの分からない事を言いやがった紗枝に怒鳴るようにする。


「私の両親が死んだとき、あなたは私を慰めてくれた。それが私には本当に嬉しくて、そのときからずっと好きでした! これで、ここで終わりよ! さよなら!」


 俺の言葉を聞かず、続けざまに言っていく。

 俺は無意識のうちに手を伸ばしていた。


 なんだかここで掴んでおかないと本当にまずい気がする。

 俺の伸ばした手は紗枝の肩に触れるか触れないかのところで止めてしまった。


 女の子に触れるのは何か気恥ずかしいというバカみたいな理由で。


「じゃあね。最後に一つ。絶対に! 私の事は思い出さないでね!」


「だから! 意味わっかんねぇーよ!」


 一瞬止めた手を殴りつけるように紗枝と動かす。

 紗枝に当たると思った次に、手が……貫通した。


 なんだよ、なんなんだよ!


「おい! 紗枝!」


 俺は何度も手を紗枝に突き動かすが、まったく触れられない。

 くそ! くそ!


 心臓が激しく脈打つ。まずい、本当にまずい気がする。


「修也くん。最後に……」


 紗枝は俺から一歩分移動して、手を伸ばしてくる。

 

「別れの握手をしてもいい?」


 俺は紗枝がなんて言ったかなんて頭には入っていなかった。

 とにかく紗枝が伸ばしてきた手を、救いを求める人のように俺は精一杯手を伸ばして掴んだ。


「うん。これで、もういいわ」


 何かを掴んでいた俺の手。でも、何もない?

 俺は何を掴んでいたんだ。


「あれ? 俺は何をしてたんだ?」


 今日は休みの日なのに珍しく外に出てるなんて……とうとう俺もトチ狂ったか?

 何か合ったと思うんだけど、すぐに思い出せないし大事な事じゃないんだろうな。


 俺は首を捻りながら寮へと歩いていった。

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