10話
「おまえ、酷いな」
これで何度目だろう?
今日は学校で模擬戦があり、俺達は見学するはずだった。
だが、三枝木に自主練に誘われた俺は凜也の試合を見ることなく一日を終えた。
凜也はそのことに対して俺にぐちぐち文句を言い続けてくる。
男らしくない。いい加減いらいらが募りすぎて暴れてしまいそうになっている。
「だーかーらー! 俺は今日試合を見るよりも有意義な時間を過ごしたの。分かった? あーゆーおーけー?」
「ほう、それは一体どんな時間だったんだ? 詳しく聞きたいところだな」
探るように俺の顔をじろじろ見てくる。
げっ、言い方が悪かったな。
俺は頭を数度掻いて、詳しく話す。
「魔法教えてもらったんだよ。あと剣の使い方を教えてもらった」
あれはよかった。腕を組んで頷く。
俺の言葉を聞いて呆れた顔つきになりはぁとため息を吐いた。
なんだその顔は。
「お前他にこう、恋愛的な感じで進展はなかったのか?」
「ねーよ! わりぃか!」
あったら困るわ!
お前は一体俺に何を期待してんだよ。
呆れた顔を返してやり、俺はある場所に向かうために足を進める。
「なんだ? さっきから気になってはいたがもしかして訓練所に向かっているのか?」
俺は学校に向かってるだけなんだが、よくもそこまで分かるな。
小学校の頃からの付き合いだからか?
「ああ、ちょっとな」
今日教えてもらった魔法爆弾の練習でもしておこうかと思った俺は凜也が言ったとおり訓練所に向かっている。
まだコツを掴んでいない俺は三枝木と一緒に練習をしてるときに制御できず訓練所にあるバリアを破壊してこっぴどく怒られてしまった。
あの魔法は魔力の消費は馬鹿にならないし、制御が難しい。
三枝木はよくあんな簡単に使うよな。
練習もそうだが、ちょっと試したいことがあるんだよな。
魔法銃を肩で背負い、とぼとぼ歩いていると。
「久しぶりに模擬戦でもするか?」
出た。最強の男、村正凜也。
剣を持たせたらバケモノみたいに強いこいつの相手をするのは考えるまでもなくお断りしたい。
日本には魔法等の事件を解決する、魔法隊というがあるんだ。
モンスターなどを討伐するのもこいつらで、そこに入るには何よりも強くなければならない。
そこにスカウトされている凜也。本人はそれを承諾はしてないが将来的には入るだろうな。
まあ、いいかそんなこと。
剣を教えてもらうならこいつのほうが普通ならいいのだが……。
こいつは感覚で戦ってるので人には教えることが全くできない。
天才だ。だけど、馬鹿だ。
「お断りだ!」
「頼むよ。今日の相手は弱すぎて話しにならなかったからな」
弱すぎてって。一応クラス代表なのに。
凜也は戦うとも言ってないのに剣を振り始めた。
まだ、訓練所についてないのに剣を振るなんて迷惑だけでしかない。
剣を振りながら歩いている凜也と共に訓練所のドアを開ける。
中は広く、しっかりと電気もついている。
夜にここは自由開放されていて、誰でも使っていいのだがここには誰もいない。
夜にわざわざ来る人なんて滅多にいない。
俺だって何か特別なことがない限りここは利用しない。
機械をいじり、部屋にバリアを張ってからメインの場所へ入る。
「さて、バトルでもするか」
「しねーつってんだよ! どんだけ血気盛んなんだよ! お前は!」
俺は練習のために来たんだ。怪我をしにきたわけじゃない。
魔法銃で近くの地面を発砲。
コンピューターで建物の――フィールドの設定をしてあるのでいまのここは荒れた大地のようになっている。
実践に近いフィールドにしておいたので床には土があり、それが弾き飛ぶ。
俺はそこで魔法爆弾の技を使ってみると。
ぼかんっ! 魔法銃で撃って、地面に埋まった魔法弾を爆発させる。
おう、これなら一応形にはなるな。
魔法銃が勝手に制御して撃ってくれるのでそれを爆発させるだけでいい。
魔法銃に制御機能付けといてよかったぁ。
「面白い技だな。どれ、一つ手合わせでも」
「だからやらねーって!」
しつこいぞ、凜也。
もともとバトルが好きなのは知ってたがここまでしつこいって本当に今日の試合が満足できなかったみたいだ。
「ほら、ライバル同士で戦うのってなんか燃えないか? ゲームとかでもあるだろ? ゲーム好きだろ? やろうぜ!」
「ゲームは好きだけどわざわざゲームのシーンを体張ってまでやるつもりはねーよ!」
だんだん壊れ始めてきた凜也をいい加減相手にするのも面倒になってきた。
かと言って勝負をするとなると精神面ではなく身体面で疲れてしまう。
「よし、これでクラスの人は全員連絡がいったな。あとは他のクラスの――」
「ざけんなよこんちくしょー!」
俺は三枝木がくれた刀を鞘にいれたままで、凜也が手に持っている携帯を弾き飛ばす。
こいつ、クラスの人間をここに呼びやがった!
俺はそそくさと訓練所を後にするために出口へ向かう。
一刻も早く逃げないと、クラスの連中が来て逃げるに逃げられなくなってしまう。
焦りの気持ちで歩いていくと。
「神村くーん! 頑張って! 村正くんのことめっちゃんこにぶっ潰していいわよ!」
な、ん、で! 三枝木はこんな早くに来るんだよ!
あいつは移動魔法でも使えるのか?
そんな高度な魔法使えるわけないよな。
でも、まだ一人だ。これなら事情を説明すれば……。
近づいて三枝木に事情を説明する前に気になったことをつい、聞いてしまった。
「早くないか? 近くにいたのか?」
「ちょっと、ね。明日のデートの事で恥ずかしくなって外を散歩してたら携帯がなってびく! ってなったのよ。もしかして、神村くん!? って思って急いで携帯を開いたら村正くんでテンション下がったけどメールを見てテンションあげてここに来たのよ」
うん? いろいろ突っ込みたい所あったけどながそう。
今は逃げるためにどうするかだよな。
下手に正面から出て行くとクラスの連中に会ってしまう可能性もあるよな。
さて、どうするか。
「って! なに携帯のブザーで驚いたこといってるのよ! 私は自分の恥ずかしい事を神村くんに告げてるのよ! あほなの? Mなの? 何がしたいのよ!? 教えなさいよ! 今すぐに教えなさいよ!!」
なんで俺は襟元掴まれて自分よりも力のなさそうな女の子に持ち上げられてるんだ?
俺の足はばたばたしてるだけで床に足がつかない。
三枝木は一体どんな筋トレをしているんだろう。
俺の頭の中は混乱していた。
「誰か助けてくれ! それかなんでこんな状況になってるのか教えて!」
「馬鹿なのよ! 何がやりたいのか分からないのよ! 私なにしたいのよ! 教えなさいよ! バーカバーカ!」
なんで罵倒されてるんだー!?
もう、わけが全く分からないのでどうすることもできない。
どんどん襟を閉められているので息がしづらくなってきた。
掴んでる腕を数回叩いてみると、はっとしたような顔になり手を離してくれた。
よ、よかった死人が出なくて。
「ごめんね。……ごめんね」
さっきと打って変わって元気のなくなった三枝木は部屋の角のほうで膝を抱えてうずくまってしまった。
ほっとこ。と思ったけど、さすがになんか悪い気がする。
「三枝木気にしなくていいから。あんぐらい別に慣れてるし……」
「ほんと? もしかして、Mなの?」
「違うから!」
俺の全力の否定はしかし三枝木の耳には届いていない。
三枝木は顔に決意の色をみせ、
「正直に言ってくれればいいのに……。じゃあ、神村くんは蹴ったりすると嬉しがってくれるのかしら? それとも縄で縛ったりとかの方が嬉しいのかしら? とりあえず!」
「Mじゃないから蹴るなぁぁあああーーーっ!」
いい感じの蹴りを足に放ってきたので怒鳴りつけた。
俺が肩で息をしていると、ぞろぞろ暇人たちが訓練所に来てしまった。
やっちまったぁああーー! 三枝木と話をしていたせいで完全に逃げる瞬間を見逃してしまった。
「とうとう、村正と神村が戦うのか……」
「この試合は一年生全員が見たがっていたからな。録画して売り飛ばそう」
「村正くんが負けるわけないわ。神村くんをぼっこぼこにするわね」
クラスのやつが好き勝手言っている。その一人の女子が俺を馬鹿にした瞬間。
三枝木が立ち上がってその女子を指差して睨みつけていた。
「おいちょっと、そこの女ー! 神村くんが負けるわけないわよ! 寝ぼけたこと言ってると地の果てまで吹き飛ばすわよ! 神村くん! 頑張って!」
三枝木の態度に気圧されて女子は目を丸くしている。
訓練所にいた男子は全員顔に絶望という文字を貼り付けていた。
『俺達のアイドルが! なんで神村のことを応援しているんだぁぁぁぁあーーーーっ!!』
面倒な事になりそうな空気が肌をさする。
男子は全員俺へと押し掛けてきて様々なことを訊いてくる。
付き合ってるのかぁ! とかまあ、そんな感じの事を。
助けを求めるために三枝木のほうを見るとそちらは女子に囲まれていた。
「三枝木さん、付き合ってるの?」
一人の女子が聞いているのを確認する。
よし、それを否定してくれ!
「私は……告白したけど、振られたわ。でもまだあきらめていないわよ!」
尾を引くような否定の仕方はやめてくれ!
悲しそうな表情を浮かべたのを見て、女子と男子が俺に殺気をぶっ放してくる。
『てめぇ、何告白断って三枝木さんを悲しませてるんだぁぁぁぁあああーーーーっ!!(あんた、何告白断って三枝木さん悲しませてるのよぉぉぉぉおおおーーーーっ!!)』
なんなんだよ俺のクラスの連中は! 俺にどうしろってんだ!
一致団結なクラスのメンバーの怒鳴り声はあまりにもうるさく、耳が砕け散るかと思った。