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1話

誤字脱字あったらすみません

「私と付き合ってっ!」


 夕暮れがキレイな放課後の学校の屋上。街を遠くまで見ることができるこの場所はきっと夜に使えるようにすればかなり人気があるはずだ。

 今は放課後ということでこの屋上には俺の目の前にいる子以外は誰もいない。

 誰もいないのになぜ俺がいるのか。

 それを説明するには少し、ほんとに少し記憶を遡らなければならない。

 今朝ではなくて、さっき。俺は寮に帰還するために下駄箱で靴を履き替えようとした時のこと。

 下駄箱の中にピンク色の封筒が入っていて俺はいぶかしみながら、それを開封した。


三枝木紗枝さえきさえです。告白したいので屋上に来てください 三枝木紗枝』


 丁寧に二回も名乗られた手紙を見たとき俺は激しく顔を引きつらせてしまう。

 俺は恋愛関連の事は苦手だ。

 積極的にそういうのからは逃げてきた俺にとってこれは地獄からきた切符のように見えてしまう。

 こういうのは逃げる事ができない。相手の気持ちを考えてしまうと逃げるのが失礼だからな。

 なので、しかたなく、不本意だが書いてあった通り屋上に俺は来て、現状に至る。

 夕陽をバックに整った顔を真っ赤にして何度も喉を潰すかのように叫び続けている三枝木。

 この人は学校でもかなり有名だ。

 誰でも振り返ってしまうほどに美しい顔。容姿端麗、眉目秀麗、そんな感じ。

 日本人にはありえないエメラルドの瞳に、腰に届くまでに伸びた明るい色の髪。

 女性には目から血を滂沱のように出してしまうほどに羨ましい、出るとこは出て引っ込む所は引っ込んだ、整ったボディ。

 俺も同じクラスになって何度か見かけたが、見るたびに綺麗な人だなと思ったよ。

 綺麗だなって思うだけで付き合いたいとか願った事はないけどな。

 なんで俺何かに告白するのか理由が分からない。

 わざわざ俺なんかに告白しなくても、三枝木なら言い方は悪いけど彼氏を作るならよりどりみどりのはずだ。

 三枝木はモテるんだ。

 魔法高校に入学して知った事なのだが、彼女に告白した人は数知れず。

 だけど、未だに成功したものもいない。

 三枝木はすべて、断っているからだ。三枝木がクラスでもみんなと仲がよく、人気者なのは知っている。

 俺は何度か話しかけたことはあるけど……俺と話すときは逃げてたな。

 嫌われてるのだと思ってそれ以降無理に話をすることはなくなったので入学して数回話したきり、彼女とは面識がない。

 彼女が俺の何を思って告白してきているのかはさっぱりだ。

 そんな好感度をあげるようなイベントをした覚えもないし。

 だから、「付き合って」と言われて、手紙に書かれていて予想できたにも関わらず。

 俺の心臓はどくんどくんと凄まじく脈打っている。

 顔が熱い。

 こういうのは普段の俺なら即座に逃げ出したいし、恥ずかしいのだが、


「ごめん! 今のナシ! もっかい!」


 三枝木が俺の分まで恥ずかしがっているのでなんかすっげぇってほどは恥ずかしく感じていない。

 いや、それでも十分に恥ずかしいけど。


「私はあなたのことが好き! 大好き! ありがとう、ごめんね! バイバイ!」


 恥ずかしい事を恥ずかしいと理解しながらも三枝木は叫び続けているようだ。

 その顔はほんわかをはるかに超え、顔から血を噴出しているのかってぐらいに赤くなっている。

 恥ずかしくて赤くなるなら言わないでくれ、俺の為に。

 というか……ついていけねぇよ! 俺に考える時間をください!

 何が起きたの? ごめんね? バイバイ?


「頼むから落ち着いてくれ! あっ、ちょっと待って、なんで帰ってんの!?」


「ごめんね……私に告白されて不服だったよね。あさりを食べたときに砂が入ってたときみたいな気分だよね。じゃあね」


 あさり食べてじゃりって言ったら気分悪くなるけど……今は関係ないだろ。

 ずぅーんと肩を落としながら屋上の入り口へとどんどん歩いて行ってしまう三枝木。

 まさか、帰るのか?

 パタンと屋上の扉を閉めて姿を消してしまった三枝木は、その後屋上へと舞い戻ってくる事はなかった。

 なんなの、この気持ち。

 これがあさり食ったときに砂が入ってたときの気持ちなのか?


「なんか俺が告白してフラれたみたいじゃねぇか」


 頭を掻き毟りながら状況をまとめる。

 告白、されたんだよな? というかさっきのって本当に三枝木か?

 クラスにいるあいつは凛としていてかなり落ち着いたやつだ。

 みんなが緊張するような事も平気でやってのけるような人だ。

 あんなに取り乱している三枝木を見たのは俺が初めてなんじゃないのか。

 普段は猫、万単位で被ってるんじゃないのか? ってぐらいにおかしかったぞさっきのは。

 ここで考えていてもどうにもならないのでとりあえず帰ろうと屋上をでて、階段を下りていくと、踊り場に何かが落ちているのが目に入った。

 メモ帳のようだ。

 胸ポケットに入る程度の小さなそれを拾い、表紙に名前がないので中を開き名前が書いていないか探していると、自分の名前がでてきたので心で読み上げてみた。

 今日神村かみむらくんに話しかけられてしまった。恥ずかしかったので走って逃げ出してしまった。

 そんなことが書いてあった。

 そのまま、捲っていき前半はいろいろ記録されていたが後半には空白のページが続いていき、最後のページに三枝木紗枝さえきさえと書かれていた。

 うーん。俺が話しかけた時のことが書いてあったみたいだけどわざわざ書いて残してるって、それほど怒らせたのか?

 まあ、それはいいとしてさっきの告白はどう受け取ればいいんだよ。

 思い出しただけで顔が熱くなる。

 俺は告白されたことは初めてだし、明日っからどうすればいいんだぁぁぁぁあああーーーっ!

 人気のない校舎で頭を抱えてしまう。

 落としていっただろうこのメモ帳はあとでさりげなく返しておこう。

 それはいいんだ。後はどう今日のことに対して断るかだ。

 たぶんうちの学校の男子はほとんどが三枝木に告白されれば即OKだろう。

 でも、無理だ俺には。

 そういうのが苦手なんだ。女子と話すだけなら別にいいんだけどほんとそういうの無理だよ!

 恋愛話になったらすぐさま逃げ出したい。

 というか逃げ出す。逃げ出してやる。

 俺は言葉どおり階段を駆けて行く。でも、結局これじゃあ、何も解決してねぇよな。

 友達に頼るっていってもなぁ。

 頭の中に冷静沈着な俺のもっとも信頼できる男がすまし顔でぽんと現れる。

 迷惑はかけたくないけど……あいつならこういうのは得意そうだよな。

 ポケットから携帯を取り出して、俺の部屋に夕飯前に来てくれとメールを送ってからまた駆け出した。

 こんな超絶美少女の告白におーけーを出さなかった理由はもちろん苦手だという事もあるが、もっとちゃんとした理由もある。

 俺には好きな人がいるんだ。

 今はどこにいるか知らないけど、俺はその人に告白するまでは、気持ちの整理をつけるまでは、誰とも付き合わない。


 とにかく、こうして俺――神村修也かみむらしゅうやの普通じゃない日常が幕を開けてしまったのだ。

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