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聖槍の光、魔杖の夜  作者: 望月華月
一章 グレイスロウ
3/5

2話 はぐれモンスター

 乾いた衝撃音に、セラフィナは跳ね起きた。反射的に体を起こし、周囲を見回す。

 見慣れない天幕の天井、簡易ベッド、木の机と丸椅子。

――気を失う前の記憶が戻る。

 ダンジョン前の診療所。

薄い緑色の魔力、治癒魔法。白い服のあの男。

「……ヒーラー」

 小さく呟く。今、診療所の中に誰もいないようだ。

 外から、騒がしい声が響く。

「はぐれだ! はぐれモンスターが出たぞ!!」

 セラフィナの瞳が見開かれる。

はぐれ――?

 その時、机の横に立てかけられている自分の武器が目に入る。短いロッドに先端には深紅の宝石ついている、魔杖ノクティス。

 セラフィナはそれを引っ掴むと、そのまま天幕の外へ飛び出した。

 

 雨は止んでいたが、空はまだ灰色だった。ダンジョン入口前の石畳広場には、多くの冒険者が集まっている。

 その中央。

 一体の巨大な魔物が、低く唸っていた。

 獅子の体、山羊の頭、そして背中から伸びる蛇の首。

――キメラ。

 だが普通のキメラではない。

 蛇の首の鱗は、生物のそれではなかった。鈍く光る金属板が重なり合い、関節部分には歯車のような構造が見える。機械の蛇だ。セラフィナの眉が僅かに寄る。

「おい……まさかまだ……」

 誰かが呟いた。冒険者たちの視線が、一斉にダンジョン入口へ向く。

 暗い穴の奥から、ずるり、と影が現れた。

一体。

二体。

三体...。

 同じ異形のキメラが、次から次へと外へ這い出してくる。

 セラフィナの胸がざわついた。

「……群れ?」

 はぐれモンスターは本来、一体で現れるものだ。群れなど聞いたことがない。

 

「おー、いっぱい出てきたな」

 

 場違いなほど呑気な声がした。

 振り向くと、肩に緑色の宝石がついた白銀の槍を担ぎながら白い服の青年が歩いてくる。


 あのヒーラーだった。

「ヒーラーは下がってろ! 治療に専念してくれ!」

 前衛の冒険者が怒鳴る。彼は軽く手を振った。

「大丈夫大丈夫。誰も死なせないからさ」

 その声は焦りもみられず穏やかな調子だった。

 次の瞬間空気が変わった。彼の目が静かに細められ一歩踏み出す。

 キメラが咆哮を上げ、冒険者達に巨体が跳びかかると同時に、地面を揺るがすような音が聞こえ、銀の閃光が走った。

一瞬。

 それだけだった。気がつけばキメラの体が地面に叩きつけられている。首の根元が断ち切られていた。

「……え?」

 誰かが呆然と声を漏らす。

 彼はもう次の敵へ向かっていた。

 槍が唸る。突き。薙ぎ払い。回転。無駄のない動きで、二体目のキメラを吹き飛ばす。

 だが数が多い。三体、四体とキメラが彼の周囲を囲む。牙が迫り、爪が振り下ろされるのを目にしたセラフィナの体が、反射的に動いた。

「――炎弾ファイアバレット

 赤い魔力が空気を震わせ、杖の先から炎の弾丸が放たれた。キメラの横腹に直撃し爆ぜる。その隙に白銀の槍が閃いた。

一撃。

 キメラが崩れ落ちるのを横目に彼がセラフィナに振り向いた。

「ナイスフォロー!」

 笑っている。戦場の真ん中で。

 セラフィナは一瞬、言葉を失った。

 

 その間にも戦いは続く。

 槍を振るいながら、彼は片手を掲げた。淡い緑の光が広がり、遠くで倒れていた冒険者の傷がみるみる塞がっていく。

「立てる? まだ戦えるよ」

 穏やかな声。そして次の瞬間にはまたキメラの首を斬り飛ばしている。

戦う。

治す。

また戦う。

 その動きは途切れない。槍が振るわれるたび魔物が倒れていき、治癒魔法が広場を包む。戦場にいるはずなのに、恐怖より先に浮かんだのは別の感情だった。

 セラフィナは呆然と呟いた。

「……この人、ヤバい」

 しばらくして、最後のキメラが倒された。

 

 広場に静寂が戻り、冒険者たちはその場に座り込み、荒い息を吐いていた。

「はぁ……助かった……」

「でもよ……」

 一人の冒険者が、ダンジョン入口を振り返る。

「はぐれが群れで出るなんて聞いたことねぇぞ……」

「しかもあの蛇……機械みてぇだった」

「ダンジョン、何か起きてるんじゃねぇのか……?」

 セラフィナの指先が、僅かに魔杖を握り直した。

 彼はそれを聞きながら、いつもの調子で手を叩く。

「はいはい順番ね。重傷から」

 手をかざすたび、緑の光が傷を塞いでいく。 

 セラフィナは少し離れた場所に立っていた。足に、鈍い痛みがある。さっきの戦闘で、石畳に擦ったらしい。大した傷ではない。

 その時。

「君も怪我してる」

 声がした。彼が目の前に立っている。セラフィナは思わず視線を逸らした。

「……かすり傷」

「でも怪我は怪我」

 彼はしゃがみ込み、彼女の足を見る。セラフィナは眉を寄せた。

「……ほっといて」

 だがヒーラーである彼は気にしない。

「小さな傷でも、これが致命傷になることもある」

 穏やかな声で言う。

「息があれば俺が何とかできる」

 少し笑って続けた。

「でも死んだら、治癒魔法も効かない」

 セラフィナは黙ってほんの少しだけ、足を差し出す。緑の光が傷を包んだと思ったら痛みが消えた。彼女は小さく息を吐いた。

「……治してくれて、ありがと」

 少し間を置いてから言う。

「……ヒーラーさん」

 彼は少し驚いた顔をし、それから笑う。

「あ、そういえば自己紹介まだだったね」

 立ち上がり、手を差し出す。

「俺リュカ・アルヴェイン」

 セラフィナは一瞬迷ってから答えた。

「……セラフィナ」

「よろしく、セラフィナ」

 リュカはにこやかに言う。

「またギルドで会うかもしれないしね」

 セラフィナはそっぽを向いた。

「……ヒーラーさん」

 握手はしないし名前も呼ばない。でも、さっきまでの拒絶とは違う声だった。

人から見た主人公のヤバさが少しでも伝わってほしい...


良かったら評価等お願いいたします。モチベ上がって頑張れます。

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