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レクイエム・リクエスト  作者: 蒸し鶏ヤフェト
2/2

2 鴉と、少女

 合った視線と視線の間に沈黙とそよ風が吹き抜ける。

 向こうも自分も固まって、動くに動けない。というか、動くタイミングをお互いに見計らい逃しているのだろう。


「…………」


「………………」


 沈黙。それを先に破ったのは、少女の方だった。


「あ、えっと……どうしました?」


 控え目そうな声。おそるおそる、といった雰囲気が伝わってくる。

 そりゃそうか。こんな夜にこんな鴉男に出会えば誰だって怖いだろう。俺だって怖い。


 だというのに話しかけてくれたこと、こんなにありがたいことはない。なんてったってなんて言えばいいか全く思い浮かばなかったのだから。


 兎も角、返答を考える。これで怖がらせて逃げられては、困る以上に悲しみが勝ちそうだ。


「あー……いや。森の中で、迷ってしまってね。途方に暮れているところなんだ」


 できる限り丁寧に。そう、ものすごく優しかった校長先生のように。アニメに出てきた紳士的な男性のように。

 ここで「敬語」という選択肢が出なかったのは、自分の人生経験……というより、思考の浅さが露呈している部分だと後になって思い至ったのは別の話だ。


 少女はしばらく訝しげな表情をしながら首を傾げていた。が、何か合点がいったのだろう。はっと顔を上げた。



「そう……そういうことなんですね!あの、あの……だったら、私たちの村に来ませんか?」


 おーっと、ハイスピードで欲しい言葉が来ちゃった。いや、実際物凄くほしい言葉であるし、断る理由は一切ないのだけれども。

 けども、もっと質問攻めだとかにあうかもと内心身構えていた身としては、少しばかり動揺というか、なんというか。


「……あ、えっと、迷惑でしたか?」


 そんな風に思考しているうちに少女は不安げな表情になって聞いてきた。

 慌てて返答を行う。


「いや、寧ろ願ってもないお誘いだ。今晩眠る場所も見当たらなかったからね……」


 苦笑い……したつもりだが、できているのだろうか。分からない。

 ただ少女はぱあっと明るい顔をしたため、少なくとも凶悪な笑いとかにはなっていなさそうだ。


「よかった!あ、じゃなくて……なら、早速案内しますね!」


 そう言った少女はどうしてかあんまりにも嬉しそうで、沸いた疑問を問いただすことはできなかった。






「しばらく歩くんです。足元だけ気を付けてくださいね」


 夜道をカンテラの灯りだけを頼りに進む。俺は少女の横……というよりは少し後ろをついて行く。

 獣の気配は近くに無く、ただ安全な森を進んでいるような印象だ。


「ああ。そうだ、きみの村はどういった所なのか聞かせてもらってもいいかね?」


「村ですか?はい!」


 なんだか元気だな、この子。さっきの沈黙の時が嘘のようだ。


「えっと、ヘリエム村っていいます。ここズグズの森の中の……まあ、辺境の村ってやつです」


 曰く。

 あまり特徴が無くて、強いて言えば植物を編んで作られた蔦細工などを細々と街に出しているくらいの小さな村だと。

 土地自体は悪くなく、のんびりと日々を暮らしていくには問題ないのどかな村だと。


「へえ。平和そうなところだ」


「まあ、そうですね。最近のニュースはちょっとどこかの国の調査団?が立ち寄ったくらいのところです」


 どこの国の調査団化はわからない、と。まあ、言われたところでこの世界のなにもかもを知らないわけで。

 ……どこかで、せめてこの世界にどんな国があるかとか、そもそもここらへんはどういう場所なのかくらいは知りたいところだ。



「……あ、そういえば名乗っていませんでしたね。」


 と、思い出したかのように少女は進みながら此方を向いた。


「私、ヘリエム村のコルデットって言います。ヘリエム・コルデットです!」


 コレーと呼んでください!と少女は……コレーは言った。

 

 名乗られたなら、名乗り返すのが礼儀だとは思う。

 実際名乗りたい……所なのだが、如何せん問題がある。自分の名前を憶えていないのだ。


 多分山田だとか田中だとか健司だとか太郎だとか、日本人名なのだろうか?と推測することはなんとなくできる。

 しかし、山田のやの字にあたるものすら一切覚えておらず、なんならそもそも適当な日本人名を思い浮かべても一切ピンと来ない。


「鴉様のお名前は何ですか?」


 ああ聞かれちゃったよ。そりゃ聞くよね。なんだろう、名前。

 考えよう、名前を。

 


 考える、考える。俺の……ワタシの名は……………




 …………()()()


「……”クロロス”。クロロスだ、ワタシは」


 名前を告げた。ふっと思い浮かんだ……というよりは、脳の奥に残っていた響きをそのまま。

 暫定、クロロス。忘れないようにしなければ。


「クロロス、様……」


「様付けじゃなくていい。むず痒い感じがするからね」


「えっと、じゃあ、クロロスさん……?」


 頷く。様付けよりかはいいや。

 コレーはどうしてか、にっこりと笑った。嬉しそうだ。



「それじゃあ、クロロスさん!村まであと少しなんです!」


「そうなのかい?それはよかった。」


「はい!おいしいもの作ってもらえるように頼みますね!あとはここをこっちに…………」


 赤いヒモが結ばれた木を曲がる。奥の方に、かすかに光が見える。きっとあそこがヘリエム村なのだろう。


 そう思っていた視界は、突如灰色に覆われた。



「え……?どうして、ここに?」


 道をふさぐように、石灰色に見える体毛の巨大な鳥のような化物が降り立った。


 乳白色の眼が、ワタシ達を睨んでいた。

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