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戦いの果てに

明日、結婚式を迎えようというその男のヘアースタイルはすでに無惨な『ひどいよ姉さん』状態だ。


「マソオさん!」


女は男を庇うように駆け寄るとカズミに強く抗議する。


「なぜこんなことをするの!?私達に何の恨みがあるっていうの!?」


しかし、そんな悲痛な叫びも既にみずからの頭を剃ってしまったカズミの心には響かない。


「何それ?他に言うことはないの?あなた達がグシケンを理不尽に責めなければ私だってこんな頭になってないのよ?あなた達だけそのままでいるなんて許せるはずがないでしょう?」


そう言い放つと、その新婚さんに向かって我を失ったカズミの巨体が一歩一歩と歩み寄ってくる。


「ヒィ!!助けて!!」


「どうか!こいつだけは!こいつだけは勘弁してくれ!やるなら俺だけに!!」


マソオは『大人だけずるいよ姉さん』ヘアーで土下座するがカズミはそんな事は意にも介さない。


もうダメだ。


そう思った時だった。 


ふいに悲しげな歌声が聞こえてきた。


それはとても楽しい歌詞なのに、とても悲しく聞こえる。心にしみる歌だった。


「ダンベル片手にープロテインー♫」


「鏡に向かって、ポージング♫」


「今日はたぁのしいー今日はたぁのしいー♫チェストプーレースー♫」


そう、歌っているのはグシケンだ。


するとカズミも思わず歌ってしまう。


「今日はたぁのしいー今日はたぁのしいー♫レッグプーレースー♫」


そして二人でスクワットをしながらハモリ始めた。


『今日はたぁのしいー今日はたぁのしいー♫スークワーットー♫』


『今日はたぁのしいー今日はたぁのしいー♫スークワーットー♫』


それを聞いた人々は心の中で「ハモるなー!!!」と、思ったがそれを口にする者はいない。


みんな、カズミが再び暴走するのを恐れていたのだ。


そうしてカズミはワンコーラス歌い切るとようやく落ち着きをみせる。


青い空を眺めたら白い雲が飛んでいた。


心が落ち着いてゆくのが分かる。


そして、振り向くとさっきまで泣きながら歌っていたグシケンがいる。


「カズミ、今日は楽しい試練の日だろ?もうやめてくれよ、、、」


「グシケン君、、、、ごめんなさい、、、わたし、、、」


「うん。」


「グシケン君、、、わたしが間違っていたわ。」


「うん。」


こうしてカズミはようやく完全に落ち着いた。


しかし、明日結婚式のマソオはまだ半信半疑だ。


「た、助かったのか?」


いや、助かってなどいない。


彼のヘアースタイルはもはや『むごいよ姉さん』だ。


そして怯える人々にカズミは詫びる。


「ごめんなさい。わたし、どうかしていたわ。」


「他のみんなも、もう何もしないから安心して。わたし、、、」


カズミが改心して、そう言いかけた瞬間だった。


なんと、アブディーテの魔法が解けて全ての村人のアフロヘアーは元に戻った。


アフロ化にはタイムリミットがあったのだ。


そう、全ては元に戻ったのだ。


「あ、あれ?もとに戻ったぞ?」


「ほ、本当だ!」


「よ、良かった!」


歓喜の声に包まれる中、またしてもそれを切り裂く叫び声が響く。


「良くないわよ!」


カズミに頭を剃られたセレモニーの女だ。


「明日のセレモニー、これで出ろっていうの!?」


「ひどい、ひどいわー!」


切ってしまった髪はアフロディーテが解除されても元には戻らないのだ。


当然、カズミに髪を刈り取られた村長と女の子、そして明日結婚式のマソオ


そしてカズミ自身も坊主のままだ。


女の子の母親は泣きじゃくる娘を庇うように抱きかかえながらカズミを批判する。


「あなた!うちの娘をこんなにして!どうしてくれるの!?責任取りなさいよ!!うちの娘はそこのアフロに何も言ってなかったわ!それなのにあなたは!」


確かにこの母親の言う通り、この子は完全にトバッチリだ。母親が怒るのは無理もない。


カズミは黙ってそんな母親を見つめると、手を合わせてお坊様のように合掌した。


すると、カズミの後ろから神々しい後光がさしてくる。


何ともありがたい雰囲気のお姿であった。


そして、満面の笑みでカズミは言う。


「何かしら?」


カズミの意外な言葉に母親は呆れ返る。


「な、なにかしらって何よ!?なんのつもり!?しらばっくれないでよ!!」


「それに何を笑ってるの!?ふざけないで!!」


しかし、カズミは表情を変えない。


その笑顔のまま闇のグリモワールからは禍々しい闇のオーラが溢れ出し、カズミの鍛え上げた筋肉はバルクアップする。


神々しくも震えるような威圧感でもう一度問う。


「何、かしら?」


絶望的な殺気を感じながらも、それでも母親は食い下がる。


「な、何それ!?脅してるつもり!?責任取れって言ってるのが聞こえないの!?この子に謝りなさいよ!!」


するとカズミは笑顔のまま、ゆっくりと詠唱を始める。


「暗黒の闇の精霊よ、我が命に刻まれた契約によりその力を示せ。」


慌てたのはグシケンだ。


「お、おい!カズミよせ!!」


カズミの前に闇の魔法陣が現れる。


すると地響きが鳴り渡り、大気が震えて空が曇り始めた。


雷の音まで聞こえ始めると村人達はまた不安にかられてざわめきたった。


「お、おい。ヤバくないか?」


「オバサン!もうカズミを刺激するな!危ないぞ!」


「俺等も逃げた方がよくないか?」


みんな浮足立っている。


「や、やめんか!さっき忠告したところじゃろう!?」


村長も慌てて止めようとしている。


しかし、カズミは躊躇ちゅうちょなく魔法を放つ。


「悪魔のブレス」


カズミのその言葉と共に魔法陣からとてつもない黒い炎が吹き出した。


轟音と闇で辺り一帯が包まれると一瞬、何が起こったのか、誰にもわからなくなった。


そして気がつくと、さっきまで村を見下ろしていた山のいただきから中腹ちゅうふくまでが大きく削り取られいるのが見える。


カズミの『悪魔のブレス』で跡形もなく山頂が吹き飛んだのだ。


誰もが「これが始まりの魔法だというのか?」と目を疑う程の威力だ。


辛うじて生き延びた鳥たちが散り散りになって飛び去っている。


そして無惨な姿となった山の残骸は、ふもとの広場で腰が抜けて震える人々を見下ろしていた、


カズミはその光景を満面の笑みで眺めながら


「何かしら?何か問題でも?」


と、偉いお坊様のようなご尊顔そんがんでもう一度聞いた。


もはや、村人達は言葉を失っていた。


グシケンもあまりの出来事に声が出ない。


カズミがまた、にっこりと微笑んで


「良かった、みなさんと仲直りができて。今日は、みんなでお祝いしましょうね!」


と言うと、一同は「はい、、、」と言うしか出来なかった。


そうして、ようやくこの争いに終止符は打たれた。


村人達は、この悪夢を忘れようとその日執り行われた祭りでみんな浴びるように酒を飲み明かしたという。


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