カズミの暴走
村人たちは全員凍りついた。
老若男女問わず、その場にいた全員がアフロヘアーになってしまったからだ。
「おいーー!!!」
「こらグシケン!!何だこれは!?」
「どうしてくれんのーー!?」
「ギャァァァ!!!」
「このバカタレー!!!」
「どうにかしろ!!」
そこら中から悲鳴と罵声が飛び交う。
ちょっとウットリしているお爺さんもいるが、大半は激怒した。
グシケンは村人みんなの怒りに驚いてすっかり縮こまってしまった。
「ま、待ってくれみんな!」
「わ、わざとじゃないっ!なにかの間違いだ!」
「俺のせいじゃない!」
思わず後ずさりしようにも、逃げ場などない。この広場で周りをすっかり取り囲まれている状況だ。
「ふざけるな!お前のせいだろうが!」
「そうだそうだ!お前のせいだ!」
「責任取れ!」
「どうしてくれるんだ!?」
「俺ら明日結婚式なんだぞ!」
「私なんて隣村のセレモニーで挨拶しなくちゃいけないのよ!」
悲痛な叫びと容赦のない罵声がグシケンに向けられ続いていて、それは全く終わる気配がない。
そんな中、村長はというと自分のアフロヘアーをモフモフ触ってウットリしている。
村長は、ウットリ派だったのだ!
そして、カズミはというと何故か少しパンチパーマっぽい感じのアフロに仕上がっている。
そのあまりにアグレッシブな仕上がりに、見る者は恐怖と戦慄を覚えた。
そのカズミが突然叫ぶ。
「みんなやめて!!」
普段は可愛らしい声のカズミが、別人のような太い地響きのするような大きな声を放った。
カズミのグリモワールからは黒い闇のオーラが溢れ出し、禍々(まがまが)しい雰囲気だ。
そしてその魔ッチョなパンチパーマ少女の雄叫びが響き渡ると、絶望的な威圧感が村を覆い、村人達は震え上がってようやくヤジは静まった。
何人かいたウットリ系の老人達も高齢者ゆえの微量のおもらしをしてしまった。
「みんな、落ち着いて!そんなにアフロが嫌なら、そんなの、剃ればいいのよ!」
「え?」
「剃ればいいのよ!」
「そ、剃る?」
「そうよ!みんなで剃ればいいのよ!」
「え?私も剃るの?」
「え?嘘でしょ?」
ザワザワと村人達の動揺する声。
しかしカズミに迷いはない。
「そうよ!私も剃るわ!」
「え!?」
その言葉に一番驚いたのはグシケンだ。
「ま、待てよ!?俺のためにそんな事するなよ!」
「カズミ、考え直せよ!な?」
すると、ゆっくり首を横にふるカズミ。
そして、ポケットに忍ばせていたバリカンを取り出す。
「う、嘘だろ?そんなバカな事するなよ?」
しかし、グシケンの制止も聞かずにカズミはそのバリカンを自身のパンチパーマへと差し込む。
「や、やめろー!!」
グシケンの叫びも虚しく、次の瞬間カズミは行動を開始した。
バサリ、バサリ、とカズミのヘアーは地面に落ちてゆく。
「や、やめろ!やめてくれ、、、」
そして、わずか一分ほどできれいなお坊さまが誕生した。
それを見てグシケンはフラフラと泣き崩れると、地面を殴って自分を責めた。
「チクショウ!俺のせいだ!チクショウ!!」
「俺のせいでカズミの、、、カズミの大切な、、、」
と、言いかけてふとカズミを見上げると坊主になっしまった魔ッチョな少女が優しそうに微笑んでいる。
神々しいその姿に、頬を赤らめてグシケンは言葉を失う。
しかし、辺りがシーンとして、湿っぽい空気が流れたのもつかの間。
カズミは、次の行動にでる。
「さあ、みんなの番よ!!」
カズミの眼光がギラリと光ると、村人達は恐怖し、逃げ惑い始める。
「ひっ!」
「いやぁ!!」
「お、俺このままでいい!!」
「わ、わたしも!これでセレモニー出るわ!」
しかし、カズミの目はマジだ。
「あなたヤジを飛ばしてたわね。逃さないわよ!」
瞬時にセレモニーの女の背後に回り込むと後ろから首元を掴んで持ち上げる。
そして、痛くてジタバタと暴れるセレモニーの女のアフロをあっという間に無惨に全て刈り上げてしまった。
ドサリと地面に落とされたセレモニーの女は「イヤァァァァ!!」と悲鳴を上げて泣き崩れたがカズミの目はもう次のターゲットをロックオンしている。
そう、明日結婚式をあげるというカップルだ。
「嫌あああ!!たっ助けて!」
男の後ろに隠れるカップルの女。
男はにじり寄るカズミを何とか説得しようと試みる。
「ま、待て!落ち着け!話し合おう!な?」
しかしカズミは応じない。
「あんた達のせいで私もこうなったのよ。今更話し合う事なんてないわ。」
カズミはそう言いながらジャブを撃つ様にバリカンを男のコメカミに差し込む。
「ヒィッ!」
戦士系の彼はボクシングのダッキングのような動きで辛うじてかわすがソリコミ部分が3分の2ほど削りとられてしまった。
「く、くそ!魔法使いがなんてスピードだ、、」
「よくかわしたわね。これならどうかしら?」
そう言うとカズミはポケットからもう一つのバリカンを取り出して二刀流になる。
そして、ワン・ツー・ワン・ツーとジャブとストレートを交互に撃った。
男は左右にダッキングしてそれも何とかしのいだが、ソリコミ部分から徐々にヘアーを削り取られていく。
そうして、気がつくと彼は磯○家の長女、サザ○さんの様なヘアースタイルになっていた。
「しぶといわね。」
カズミはそう言うと、通りすがりの少女と村長のヘアーを一瞬でなき者にした。
少女は悲鳴をあげ、村長は気が付かなかった。
「キャァ!!」
「ほえ?」
その光景を見て男はつぶやく。
「あ、悪魔。。。」
ゴゴゴゴゴゴ、、、!!!
そんな効果音が聞こえてきそうな程にカズミは男に威圧感を与えていた。