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始まりのグリモアール

アフロとは魔力の根源である。


これは、この事を世に知らしめた一人の男の物語である。




ここは、異世界のそのまた異世界。


魔物や魔法が存在する異世界から見てもかなり異質な世界。


そんな世界のとある島国『ゴールド王国』。


この国の人々は魔法の根源である魔素まそとは、マッスル(マソウ)であると考え、日々筋肉を鍛える事を怠らない。


そんな王国の魔法使い達は皆、男も女もマッチョであった。


そう、魔ッチョなのだ。


そして、ここに一人の魔法使いを目指す少年がくらしていた。


彼の名はグシケン。


努力家で毎日筋肉の鍛錬には余念がない。


今日も朝から腕たて伏せをひたすらやっている。

 

立派な魔法使いになるために毎日毎日筋トレに励んでいるのだ。


彼はこの世界では、そんなごくありふれた筋トレ大好き少年だった。


しかし、残念なことに彼にはマッスルの才能がない。


マッ才に恵まれなかった。


いくら鍛えても、どんなに頑張っても全く筋肉がつかないのだ。


マッチ棒、、、いや、マッチョ亡なのだ。


そして、そんな彼のかたわらにはいつも彼をの事を気に掛ける一人の筋肉ムキムキのゴリラの様な体格の少女がいた。


名をカズミという。


「グシケン君、心配しなくてもきっと大丈夫よ。こんなに頑張っているんだもん。いつかきっと素敵な魔ッチョになれるわ。」


透き通るような声で心配そうにグシケンを気遣うカズミ。


そのいかついガタイからは想像もつかない美しい顔立ちをしている。


その隣でか細くひ弱そうなグシケンはとても悲しそうに遠くを見つめながらカズミに答える。


「ありがとう、カズミ。でも、俺は、、、きっと筋肉の神に愛されていないんだ、、、どんなに頑張っても君みたいな素敵な魔ッチョにはなれないんだ、、、」


「そんな事、、、そんな事言わないで、、、グシケン君頑張ってるじゃない。きっと大丈夫よ。」


「じゃぁ何で俺には筋肉マソウがつかないだよ?」


「それは、、、」


カズミが言葉に詰まると、しばらく二人の間に沈黙が続いた。


ザワザワと風が木の葉を揺らす音だけがあたりに響く。


こころなしか、グシケンのアフロヘアーも風になびいて寂しそうに揺れている。


カズミの心配そうな横顔。


それに気がついたグシケンは少し首を降って笑顔を見せる。


「ごめん、ちょっと弱気になっちゃったよ。そうだな、頑張って頑張って、いつかムキムキの魔法使いになってみせるよ!」


そんなグシケンに涙を浮かべながら、しおらしくうなずくカズミの肩幅は、ゆうにグシケンの4倍はあった。


実はこの二人、次の春にはこの村を出て魔法学校に入ることを希望している。


だが、魔法学校に入学するためには村の長老の元で試練を受けて『始まりのグリモワール』を手に入れなければならない。


『グリモワール』とは魔法を発動するために必要な魔導書である。


新しく魔法使いになる者は、試練の儀式で呼び出される『魔神』によってその者の資質に合ったグリモワールが付与してもらう必要があるのだ。


魔法使い達はそうして取得したグリモワールに刻まれた魔法を使用することができるようになる。


『始まりのグリモワール』は特別な『白紙』のグリモワールで、そのグリモワールを手に入れなければ魔法使いの一歩は踏み出せない。


それこそが、その後に取得する魔法や追加のグリモワールを取り込むための土台にもなるのだ。


また、それを手にした時、始めて自身の魔法属性と魔法の才覚を確認することが出来るという。


しかし試練の時に、魔力が足りなかったり、そもそも魔法の才能がなければこの『始まりのグリモワール』を手にすることは出来ない。


だから試練の日まで、基礎魔力の鍛錬として筋肉マソウを鍛えているのだ。


そんな中、グシケンが落ち込むのも無理はなかった。


年に一度の試練の日はもう来週にまで迫っているというのにどんなに頑張ってもグシケンは全く魔ッチョになれなかったからだ。


今年のこの村の試練挑戦者は2名。


そう、グシケンとカズミだ。


周りからのグシケンを見る目は冷ややかで結果は見るまでもない。そう、思われている。


それでもグシケンは幼馴染でもあるカズミと一緒に魔法学校へ入学することを夢見て1日もかかさずに毎日筋トレに励んできた。


やれることは全てやってはきたのだ。


例え、何の成果がみられなくとも。




そうして、一週間はあっという間に過ぎた。


今日はいよいよ試練の日。


村の広場に村人たちが輪になって集まっている。


今年の試練を執り行うためだ。


その輪の中央には村長と、村長に向かい合ってグシケンとカズミが並んで立っている。


ガヤガヤと取り囲む村人たちは皆楽しそうだ。


退屈な村の生活の中でこの試練はある種、お祭りのようなもので皆楽しみにしている。


しかし挑戦者のいない年も少なくなく、そんな年はこの試練自体が行われない。


それが今回はムキムキの少女カズミという有望な挑戦者がいる。


無事に『始まりのグリモワール』を手にできれば、そのまま夜を徹しての大パーティだ。


みんなそれが待ち遠しいのだ。


村人たちの期待はカズミに向けられて、テンションはピークだった。


カズミは、そんな視線が恥ずかしくて何やらモジモジとした様子。


「グシケン君、なんだかドキドキするね。。」


「うん、、、」


グシケンの表情は硬い。


出来る限りの努力はしてきたつもりだが、やはり自信がないのだ。


そこに、空気を切り裂くような太い大声が響く。


「それでは今年の試練を始める!」


村長の声だ。


村長も昔は名のある魔法使いだったそうで、衰えたとはいえ、なかなかの魔ッチョだ。


その村長が杖を天に捧げると杖からいかずちがほとばしり、空中へバチバチと集まる。


すると黒い空間が現れて、その中から大きな目玉がギョロリと覗き込んできた。


「まずはカズミ!一歩前に出よ!」


「は、はい!!」


村長の声が響き渡ると、カズミは恐る恐る前に出る。


すると、黒い空間の目がカズミを見る。


その瞬間、カズミの巨体は軽々と宙に舞い上がる。


そして、カズミの眼の前に黒い炎が燃え上がると、それはやがて本となってカズミの手元に舞い降りてきた。


カズミがそれを受け取ると自然とカズミも着地して、それと同時にわっと歓声が沸き起こった。


「見事!合格じゃ!」


「カズミ、おぬしは闇属性魔法のグリモワールに選ばれた!非常に珍しい事じゃ。誇りに思うぞ!」


村人たちから拍手喝采が起こる。


だが、それと同時にグシケンにはプレッシャーが重くのしかかる。


脂汗なのか冷や汗なのか、嫌な汗でびっしょりだ。


ホッとして笑顔を見せたカズミだったが、そんなグシケンの様子に気が付いてすぐに心配になってしまった。


とはいえ、声をかけることもはばかられる。


カズミは優しく繊細な魔ッチョなのだ。


そんな二人を気にも止めずに村長は間を入れずにグシケンの試練を始める。


「次!グシケン!!前へ出よ!」


「は、はい!」


ゴクリとつばを飲んでグシケンは一歩前に出る。


すると黒い空間の目玉が今度はグシケンをギロリと見つめた。


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