公爵令嬢と平民の百合を眺めていたら友人に冒涜されて、あなたは本音をもらす! ~あなたが見た景色~
夢中な時に邪魔されて不満に思うこと、ありますよね。
この王立魔法学園は、貴族も平民も関係なく通うことが出来るとされている。
平民のあなたは、同じく平民の友人とともに、学園内にある広々とした休憩所のテーブル席に座っていた。今は昼休み中だ。
目立たない容貌のあなた達は、離れた席にいる二人組を眺める。金髪のご令嬢と茶髪のポニーテール女子は今日も美しく、周囲から注目を浴びていた。
高貴で抜群の容姿を誇る公爵令嬢に、強さと凛々しさを持つ平民の女子生徒。
あの二人は、当初は仲が良かったわけではなかったが、今ではお互いを認め合い、美味しそうな高級プリンを二人で仲良く分け合っている。笑顔の公爵令嬢に食べさせてもらっているポニーテール女子のほうは、恥ずかしそうだ。大変微笑ましい。
百合を好むあなたは、幸せな気分で彼女達を見ていた。しかし、友人のほうはそうではないらしい。表情が否定的であった。
「あの子、最近は公爵令嬢様とべったりよね。平民だからお嬢様に取り入って、成り上がろうとでも思っているのかな? 図々しい」
青い髪を一本の三つ編みにした友人が、隣で毒を吐く。
あなたは、美少女二人の百合を楽しんで眺めていたいのに。そう思っていた。
友人に対しては、そういうところが嫌、と、思っていた。
思っていた――じゃなかった。
「美少女二人の百合を楽しんで眺めていたいのに。そういうところが嫌」
なんかつぶやいていた。
「嫌って……私のこと?」
裏切られたような顔になっている友人と、余計なことを口に出しちゃっていたあなた。
「うん……まぁ……」
あなたは言葉を濁しながらも、正直に白状した。
「ひどいっ! あなたとは寮で同室だから仲良くしてあげてたのに! もう知らないっ! 部屋を変えてもらうんだから!」
涙目だった友人は勢い良く席を立って、その場から去って行った。
それから後のことは、あなたもよくは覚えていない。気づいたら、午後の授業を受けていたし、友人とは顔も合わさなかった。顔を合わせられなかったとするのが正しいか……。
放課後は寮に戻りづらく、独りで学園近くにある複合型商業施設に行き、時間を潰した。本屋に長居したりして、時間を潰した。
時間は誰にでも平等に、刻々と、過ぎてゆく。
帰るのがなんとなく怖かった。ただそれだけの理由で、あなたは時間を無駄に潰し続けた。
寮の門限が近くなったことで、あなたは渋々、帰る決心がついた。
空が暗くなりつつある帰り道。制服姿で歩きながら、あなたは回想する。
あの友人とは、出会ってまだ日が浅い。
三ヶ月ほど前にあなたは、学園寮で相部屋になった彼女と知り合った。
「同室の方ですか? よろしくお願いしますね」
寮で初めて会った時、あなたに対して深くお辞儀をしていたことから、礼儀正しい印象を持った。
彼女とは同室になったからこそ、友人と呼べるぐらいの間柄にはなれた。もしそうでなければ、親しくはなっていなかっただろう。その程度の間柄だ。
彼女は普段、青い髪を三つ編みで一本にまとめている。地味な外見ではあるものの、どちらかと言えば、きれいな容姿の部類に入る。背は平均ぐらい。ただ、胸部は小さい。
性格はまじめで、時々口うるさいところがある。けれど、彼女のことは決して嫌いではなかった。
それだけに、百合を愛するあなたは、百合を眺めている最中に、水を差すような発言を彼女から聞きたくなかった。
ただ、なんであんなこと言っちゃったんだろう……とは、あなたも後悔している。
ずっと思い悩んだまま、寮に着いた。
玄関から廊下、階段、廊下、部屋の前。すぐだった。
彼女は部屋を変えてもらうと言っていたので、もう中には居ないかもしれない。そう思ってドアを開けると、さほど広くない室内には灯りが点いていた。
三つ編みの女子は二つあるベッドのうちの、自分のほうに腰を下ろしており、まだ紺色ブレザーの制服姿だった。
「あっ……」
彼女はあなたの到着に気づくと声を出し、すぐに立ち上がった。
「お帰りなさい」
「部屋を変えてもらうんじゃ……」
「そのことなんだけど……。冷静になって考えてみると、私のわがままで他の人に迷惑かけたくなかったから……」
「あ、そう……」
あなたも彼女も黙り込み、歓迎し難い雰囲気が続いた。
「……ごめんなさい」
最初に謝ったのは、彼女のほうだった。
「私、あなたがあの二人を幸せそうに見ていて、嫉妬しちゃったんだと思う。私、あなたとは仲良くしていたいのに。でも、私にはあの二人みたいな魅力がないから、しょうがないよね」
そうじゃないと、あなたは思った。少なくとも、この友人の魅力とは関係ないことを、あなたは伝えたかった。
「……私、あの時も言ったけど、ただ……百合を楽しんでいたかっただけなの。ああいうの、好きだから」
百合好きなあなたが、同室の彼女にはっきりと打ち明けた瞬間だった。
この世界においては、百合を容認出来る女性は、決して多いとは言えない。まじめな友人には受け入れられないことだと思って、あなたはずっと隠していた。
「……百合というのは、百年以上もの歴史を誇る、女性同士の恋愛、いわゆるガールズラブというもので、その百合を、あなたは好きなのね?」
友人は不快な顔をすることなく、あなたに確認をしてきた。彼女はもしかしたら、理解出来る側の人々に該当するのかもしれない。そう信じて、
「……うん」
あなたは肯定した。
「それなら、私と、百合、しない?」
「えっ?」
あなたが動揺している間に、彼女はスカートをつかみ、上品にたくし上げた。
「ええッ?」
あなたはさらに困惑した。
薄い緑色で大粒の水玉模様が並んだ、彼女の白い下着が、あなたに見せられている。上部には小さな白いリボンがついた、かわいらしい感じのガールズショーツだった。
「……これは、どういうことなの?」
あなたが戸惑いながら聞くと、彼女も戸惑った。
「えっ? 私の足にすり寄ったり、太ももにしがみついたりとか……しないの?」
彼女の考える百合だと、肌の触れ合いに重点が置かれているらしい。
「私が思っていたのより、男の人が喜びそうな動作なんだけど……せっかくなので、やらせてもらうね」
あなたは彼女の横で、膝立ちをする。
片手を彼女の股の下を通し、彼女の太ももを抱く。あったかい感触がある。
そのまま顔を密着させてみた。思っていた以上に興奮してしまう。
ふと顔を離して、彼女の顔を見た。彼女はあなたのほうを見下ろしている。嫌そうな、だけど、やられたいような、微妙な表情で恥ずかしがっているのが分かった。
あなたは自らの高鳴りで我を忘れていると、
「……まだ続けていたいの?」
その声で、はっとした。
「あ。ごめん……」
あなたは彼女の太ももを解放してから、自分のベッドに腰を下ろした。彼女のほうはスカートを持ち上げるのをやめたことで、水玉模様の白い下着が隠れた。
「横に座ってもいい?」
お願いしてきた彼女に対して、あなたは頷く。
彼女があなたのベッドに座ると、あなたのほうに顔を向けて来る。
「百合と言えば、あとは、キスよね。……仲直りの印として、してもいい? それとも、してくれる?」
乙女にしか見えない表情で、彼女は大胆な選択肢を与えてくれた。
あなたはどちらでも良かった。どちらだとしても、きっと気持ち良くなれると疑わなかった。
「……太ももの時は、私からやらせてもらったから、今度は、やってもらおうかな」
「了解。それじゃあ、いくね……」
あなたに頼まれた彼女は、あなたの頬を両手でしっかりと押さえた。
顔をどんどん寄せて、最後には、優しい口づけ。
二つが一つになった。
じゅうぶんで短い時が経ってから、されるがままだったあなたの唇は、自由になった。
彼女はそっと顔を引いた。両手も下げた。顔は真っ赤だった。
世界は静かで何も変わっていないのに、この世界そのものが変わったような気がした。
「……どうだった?」
好ましい彼女の表情に、あなたは、より惹かれてしまう。
「素晴らしいキスだったよ。ありがとう」
「今のはね、実は私の初めてのキスだったんだ」
「えっ……キスしちゃって良かったの?」
彼女に明かされたことで、あなたは苦慮してしまう。
「あなたと、だから」
対する彼女はどこまでも肯定的で、愛おしかった。
少し落ち着いたところで、まだ学園での出来事を謝っていなかったことを、あなたは思い出す。
「……今日はごめんなさい。私、ひどいこと言っちゃって……」
「ううん、気にしないで。むしろ私の振る舞いのほうがいけなかったんだから。あなたには、これからも色々と迷惑をかけちゃうかもしれないけど、ずっとお友達でいてね」
「うん……」
あなたは嘘をついた。友人でいてと頼む彼女のことを、友人以上の特別な存在として、認識してしまっていたのだから……。
□
消灯時、
「今日は一緒に寝てもいい?」
彼女は相部屋になって初めて、そんなことを聞いてきた。
「いいよ」
あなたは自身のベッドの中央から体を横にずらした。
「ありがとう。お邪魔します……」
白一色のナイトウェアで青髪をゆるくまとめた彼女と、あなたは近距離で寝ることになった。
「おやすみなさい」
「……おやすみ」
あなたは彼女にあいさつを返した後、心の高まりから眠れない……と思ったが、結局は問題なく眠りに就いた。
□
翌日は、何事もなかったかのように、一緒に寮から学園へと登校した。
いつもと変わらない日常。ただ、彼女の様子には、それなりの変化があったような気もする。こんなに、かわいかったっけ? そう思うぐらいに。
さて、本日の一時間目は、体育の授業だ。更衣室で、あなた達は制服から体操着へと着替える。
三つ編みの友人は白いブラウスを脱いで、体操着の白い半袖を着る。彼女のブラジャーは白の地味なものだった。
紺色のハーフパンツを穿いてからスカートを脱いだため、この時には彼女のショーツを見ていない。ただし、寮での着替えの際、目に入ってしまったので、上のブラジャー同様、下も白の地味なものなのは知っていた。
体操着の半袖は、右肩に魔法学園の校章が入っているぐらいしか特徴がない。なお、半袖の裾はハーフパンツの中に入れるのが、この学園での決まりになっている。彼女もあなたも、半袖の裾をハーフパンツ内に入れた。
「こんなこと、あなたに言ってもいいのか分からないけど、すぐに仲直り出来て良かったよ。私、他に体育の授業で一緒に組めるような人、いないから……」
着替えた後、友人は恥ずかしそうに告白する。それはあなたのほうも同じだった。
体育館での授業が開始したら、いつものように二人一組で準備運動をおこなう。相棒はもちろん、彼女しかいない。
本日の授業は、魔力を溜めやすい構造になった球体に、風の魔法をかけて軽くし、上に向かって投げて操るといった内容だった。
授業中、友人のほうに飛んで来た球体から、あなたが体を張って守るという突発的事件もあった。球体はかなり速度が出ていて、よく反応出来たなと、あなたも驚いた。
「大丈夫っ?」
「なんとか……」
「それなら良かった……。守ってくれて、ありがとう」
彼女に感謝された。その想いは、痛かった分以上の価値はあったと思いたい。
□
昼休みには、あの女子コンビがまたも注目を浴びていたけれど、あなたも友人も、お互いのほうにだけ興味を持っていた。
放課後、帰りに話題のスイーツ店に寄ろうとあなたが提案したら、友人には拒否されなかった。以前は、制服での寄り道は良くないと、お堅いことをあなたは言われていた。
「制服で寄り道は良くないって言ってなかったっけ?」
昨日のように、あなたはまたも余計なことを口にした。
「……魔法学園の生徒として、節度を守れば良いんじゃないかな。例えば……寄った場所でキスをしないとか」
「寮ではいいの?」
余計なことを言い続けるあなた。彼女がどう返すかが気になったからかもしれない。
「禁止はされてはいないでしょう? そんないじわるを言うなら、もうキスをしてあげないけど」
「すみませんでした」
あなたは即座に謝罪を述べた。
そうしてたどり着いた、雰囲気の良いお店では。
「これ、美味しいよ。食べてみる?」
「うん。ありがとう」
ブルーベリー・ソースがけのレアチーズケーキがひと口分、彼女のスプーンから運ばれて来たのを、あなたは食べた。
余計なこと……間接キスだとは、あなたも言わなかった。
(終わり)
地味百合でした。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。