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清水はハワイ気分

新チーム結成から1週間ほどが経った。

相変わらず彼女ヅラしてくる水瀬先輩と無能な清水との仕事にも慣れてきて、いくつかの案件もこなすことができた。


一つの案件に対する我々の仕事は、クライアントからのリサーチとデザイン部への報告・契約完了・予算確定・以後連絡役ほどなので、だいたい長くても4日くらいで次の案件を受ける流れとなっている。


目を離すとすぐに遊び始める清水を抑えつけながらの仕事は大変だが、なんとか軌道に乗ってきたことには心休まる。


俺は慣れた手つきで重い曇りガラスの扉を開くと、眠たげな声で「おはようございます〜。」と会釈をした。


水瀬先輩は既に到着していたようで、長テーブルに腕を置いてスマホをいじっている。


「あ、おはよ。黒崎君、今日電車1本遅かったでしょ。」

「怖いですよ、先輩。」


先輩は目元を暗くして明らかに機嫌が悪そうだ。昨日夜更かししてゲームをしていたせいで、今日は少し寝坊をしてしまった。


俺は乾いた笑いで誤魔化しながら水瀬先輩から少し離れた席につく。その瞬間に先輩も移動を開始し、気づいた時にはすでに隣にいた。


「先輩、隣座るのやめてください。」

「なんで!!」

「誰かに見られたらまた勘違いされますよ。」


水瀬先輩は口をぷくぷく膨らませながら「勘違いじゃないでしょぉ・・・。」と呟く。この空気はまずいと感じて、俺は話を変えた。


「ーーそれより、なんですかあいつは。」


俺の冷たい目線を受けて、清水は「アロハ〜。」と指を振る。真っ赤なアロハシャツに、首からかけたカラフルな花飾りと鼻からずり落ちそうになっているサングラス。


「僕、来週から出張に行くんだよ〜。」

「水瀬先輩、本当にこいつで大丈夫ですか?」


水瀬先輩が「うーん」と苦笑いしている一方で、清水は見るからにアホそうな夢見顔でフラダンスを踊っていた。


「今回はクライアントが大手で、社長直々に契約しに行くそうだよ。清水君はその付き添い。」

「なんであいつが付き添いなんです?」

「清水君は清水社長の息子さんだよ?」

「ふぇっ!?」


初耳すぎて心臓が飛び出そうになる。


そうか、こいつはぼんぼんだったのか。どうやってこんなやつが面接を通過したのか不思議だったが、それなら納得だ。


当の清水は横で悠々に英語での自己紹介を練習していた。


「ハ、ハワイに行くわけではないですよね?」

「うん大阪。」


あぁ、大阪か。

ーーえ、じゃあ今こいつは一体何をしてるんだ?


清水はおもむろにスマホを俺たちに向けて、頭を掻きながら「このスーツケースなら二つ必要だと思います?」と問いかけてきた。


「うーん、なんなら一つもいらないと思うが・・・」

「いやいや黒崎。僕は丁寧な人だから、旅行の荷物もたくさん持っていくんだよ。」


・・・仕事もそれくらい丁寧にしてくれよ。


水瀬先輩は一連の話の流れに違和感を覚えたのか核心的な一言を放った。俺も気づいてはいたが、こんなに楽しそうな清水を見たあとでは可哀想で言えなかった一言だ。


「清水君、大阪なら多分『日帰り』だよ。」

「・・・え?」


真実を知った清水は声を震わせながら、見事に膝から崩れ落ちた。


来週は何の邪魔も入らず水瀬先輩と二人きりで仕事ができる。話し合いがスムーズに進みそうで心から幸せな俺は清水の背中を上から眺めた。

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