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勘違いの日

新チームの結成を告げられてから、今日が活動の初日だ。

あれから本当に水瀬先輩とイケないことしたのか自分に問いかけてみたが、全くその記憶がない。ただその責任とやらで水瀬先輩に彼女ヅラされているのは事実だ。


水瀬先輩の彼女ヅラのせいで会社内での俺の株が大暴落したと共に、チームまで組まされたものだから会社の男性陣から相当な恨みを買っているようだ。こちらとしては一個1万円でも恨みを売るつもりはないので、ただただ厄介な状況といえる。


会社の入り口に足を踏み入れた時点で、周囲が少しざわついていて嫌な予感がした。次第にその矛先が俺に向いていないと察すると、その予感は確信へと変わっていき俺は急いで人集りの中へと入った。


そこには案の定水瀬先輩がいて、二人の男性社員に絡まれているようだった。こういう時に限って親衛隊は動かないのか。


俺は考えるよりも先に手が出ていた。


水瀬先輩の腕を引っ張り、急いでエレベーターに乗り込む。扉の横にあるボタンを連打して男二人が困惑している隙に扉を閉めた。


一息ついて横を向くと、水瀬先輩が「おはよっ!」と向日葵のような笑顔をこちらに向けていた。


「先輩、大丈夫でしたか?」

「あれ、もしかして助けてくれようとしたの??」


水瀬先輩の意地悪な微笑みに俺は急に照れくさくなって、「い、いや別にそんなことはないですよ・・・。」と弱々しく呟く。


「でも大丈夫だよ、あの人達サイン欲しいって並んでただけだから!」

「なっ!?」


衝撃の発言に自分の顔がみるみる熱くなっていくの感じる。と同時に右腕に受けている柔らかい感触

にも気づいて、思わず「先輩近いですよ!」と動揺を隠せない声で叫んだ。


しかし、水瀬先輩は「いいじゃん!いいじゃん!」と笑っていて離れる気配は一向にない。エレベーターが四階で止まると、ちょうど同じ部署の社員と鉢合わせして俺は慌てて先輩の腕を解いた。


そのままエレベーターを降りて、いつもと反対側の通路を進み、フロアの一番奥にある曇りガラスに包まれた小さな会議室の前で息を整え、立ち止まる。ここが俺たちのチームに用意された新たな拠点だ。


普通ならここでドキドキワクワクの感情が入り交じるはずなのだが、俺の心臓は今ドキドキに支配されている。


「黒崎君、改めて今日からよろしくねっ!」


水瀬先輩は何気ない様子で元気よくこちらを向いた。俺もその声に笑顔で応える。


「あ、はい!こちらこそよろしくお願いします。」


俺の顔を見つめる水瀬先輩の微笑みは朝日のように眩しい。今の今まで全然気づかなかったが、今日は髪を低めで束ねていて、昨日とは少し印象が異なる。ローポニーテールというのだろうか。顔を動かす度に束ねた髪がフリフリと揺れていて、圧倒的に尊い。


重いガラスの扉を開けると、新調された白い長テーブルに椅子、ホワイトボードなどが太陽光をまばゆく反射させていて思わず目を瞑った。ゆっくりと目を開けると、見覚えのある顔が優雅にお菓子を広げている。


「黒崎おはよう!!」


――ん?

緩みかけた口元が一瞬で定位置に戻った。いっとう元気なこの声の正体は、入社してから嫌というほど聞かされた同期の清水だ。


「おい、お前なんでいるの?」

「なんだよ、その言い方。陰キャだからポテチ嫌いなの?」


意味が分からない。ただなんとなく腹が立つ。

…が、これが清水の平常運転だ。清水の狂気に慣れつついる自分が怖い。


水瀬先輩は清水の存在に驚く様子も見せずに挨拶を交わしており、勘違いしていたのは自分だけだったとここではっきり気づく。部長の口ぶりから水瀬先輩と俺でチームを組むのだと思っていたのだが、実際はこの無能な清水もこのチームの一員のようだ。


「何で清水も一緒なんですか?」

「ひどいな!僕もお前みたいなド陰キャ彼女いない童――。」


俺はとりあえず清水の首を掴んで縦横斜めに振りまくる。我に返った頃には清水は髪の毛を爆発させてふらふらしていた。


水瀬先輩は全く興味が無さそうに資料の整理をしながら「嫌ならチーム解散する~?」と呟く。


その恐ろしい提案を聞くや否や俺たちは一斉に、

「ダメです!!」と心から叫んだ。

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