妙な気配
それから、リアは一人で部屋に籠る日が続いた。リアはレオナの迎えを待っていたが、来る日も来る日もレオナは来なかった。
リアは日記を書き続けていた。文章を書くだけでは飽きてきたので、文章の横に絵を描く事にした。頭に浮かんだ中からリアが選んだのはレオナとガル、それからコボルトの絵だった。
『それから、レオナさんは図書館には来ませんでした。あの森に行った日が遠くなったようで懐かしく感じます。レオナさん達に会いに行きたいのですが、お兄ちゃんはそれを許していません。
図書館に来る前私達はどうしていたのでしょうか。そもそも、あの図書館は誰が造ったのでしょうか。分からない事が多過ぎます。ですが、お兄ちゃんは何も話してくれません。』
そこまで書いてリアは本を閉じた。そして、レオナはもう迎えには来ないんだと諦め、早くにベッドの中に入ってしまった。
その日の真夜中、突然リアは目覚めた。外は大嵐で、森の木が大きく揺れている。リアは起き上がって窓の外を見に行こうとしたその時だった。何者かの視線を感じたリアが辺りを見回すと、天井に何かが張り着いていた。それはレオンよりも大きな人影のように見えたが、背中からは大きな蝙蝠の翼が生えていた。そして目は血よりも赤く光っている。
それと目が合えば確実に殺されると思ったリアは布団を被ってガタガタと震えた。影はそんなリアに気付いているのか、その様子をじっと見つめていた。
翌日、再び目覚めたリアは、改めて天井を見上げた。昨日見たあの影は跡形もなく消えている。それに安心したリアは、一階に居るレオンの様子を見に行った。レオンは今日も本棚にある本を整理している。
「お兄ちゃん、寝ている間に誰かに会った?」
「リアは何も気にしなくていい。」
レオンはそう言ったきり、リアに何も言わなくなった。
その時だった。突然図書館の玄関扉が開いた。そして中から二人の少女が現れる。その一人はレオナだった。リアはレオナとの再会を喜んだ。だが、リアはもう一人は見た事がなかった。
その少女は風変わりな見た目をしていた。頭と身体を包帯で覆っていて、その上から破れた服を着ている。また、右目も包帯で覆われていた。
「どちら様ですか?生憎こちらでは客人は受け入れていませんが。」
レオンが無愛想に二人を突き離そうとすると、その少女がレオンの前に出た。
「レオン!やっぱりここに居たのね!」
その少女はレオンを知っているようだ。だが、レオンはそれに構わず二人を追い出そうとする。
「ここは人間が来る場所ではない。帰ってくれ。」
レオンが珍しく強い口調でそう言ったが、その少女は引き下がろうとしなかった。
「レオン、あなたが未だ此処に居たなんて、私は驚いているの。だってレオンは、死んだはずじゃなかったの?」
その少女の声を聞いて周囲は凍りついた。まさか、目の前の兄が死んだ存在だったとはリアは思いもしなかった。リアはただ、その少女の目を見る事しか出来なかった。