束縛
そして翌日、リアが一階の書庫に向かうと、それを待ち構得ていたかのようにレオンが椅子に座っていた。
「リア、俺に何も言わずに外へ出ただろう?」
リアは驚いた。まさか、レオンに無断で外に出ていたのを知られていたとは思わなかったからだ。
「どうして出たんだ。この森には大勢の魔物達が棲んでいるんだぞ?」
リアは俯いた。一瞬だけ外に出ただけなのに、何故ここまで強く責められるのだろう。
「とにかく、もう二度と外には出るな。」
「どうして外に出たらいけないの?」
「お前の事が大切だからだ、リア…」
レオンはリアを強く抱き締めた。その身体は白く、氷のように冷たい。
「お兄ちゃん、冷たいよ…。」
リアはレオンの顔をしっかりと見つめた。
「お兄ちゃんごめんなさい、でも私はどうしても外に出たいの。」
「どんな理由があるかは知らないが、絶対駄目だ。魔物に喰われるかも知れないんだ。もう俺にはリアしか居ないんだ、リアが、居なくなったらどうなってしまうか…。」
先程まで怒っていたレオンは急に悲しい顔になった。
「次ここから出た時はこの目で日を見られないかも知れないな…」
リアはレオナに連れて行かれたとは一言も言わなかった。自分が怒られているのを誰かのせいにはしたくなかったからだ。レオナがここから出したとはいえ、リアにも外に出たいという意思があるのは本当だったからだ。
リアは兄の事をどうする事も出来なかった。図書館に来る前の事はあまり覚えていないが、レオンは元々このような性格だっただろうか。それは違う気がする。
その時、リアは以前読んだ本を思い出した。その中には、悪い魔法で長年の眠りについたお姫様が王子様のキスによって目覚めるという物語が書かれていた。
ひょっとして、レオンもそのお姫様と同じように悪い魔法にかけられているのかも知れない。そう思ったリアは、コボルトにされたのを思い出しながら、そっとレオンの頬にキスをした。レオンは赤面したかのように見えたが、身体は冷たいままだった。レオンは驚いていたが、それでも何も変わらない。
「お兄ちゃん…。」
リアはレオンを置いて二階に戻って行った。
そして、リアは自分の部屋に入った。日記の中ではレオンに言いたくても言えなかったリアの気持ちが書かれている。
レオンの事は大切だ。だが、それと同じくらいレオナや森の魔物達とも仲良くしたい。だが、レオナの事を伝えたとしても、レオンは外に出るのを許さないだろう。
「それでもやっぱり、みんなに会いたい。」
レオンがリアを大切にしているのはもちろん知っている。他の誰よりもリアを愛しているのももちろん分かっている。だが、その愛情が時に異常だと感じてしまう事がある。レオンがリアを何よりも大切だと思う余りにリアは自由にはなれない。リアは、そんなレオンをどうすればいいのか分からなかった。